108 ケルベロスとの戦闘


「速いっ!?」


 フィリップがケルベロスを見て喜んでいても、待ったなし。ケルベロスは一足飛びで突っ込み、残っていた2体の氷だるマン・中を大きな体で蹴散らしながら噛み付き攻撃。フィリップは慌てて横に飛んでかわしていた。


「あの巨体で僕と同じぐらい速いのか……それにポリゴンでもないし動きが滑らか。やっとやる気が出たよ!!」


 最近ポリゴンモンスターとしか戦っていなかったフィリップは、強敵と戦えると嬉しそうに剣を構えた。


「氷だるマン!!」


 でも、冷静。巨大な5体の氷だるマンをケルベロスに向かわせて、自分は視界から外れて隠れるのであった……



 5体の氷で出来た雪だるまと戦うケルベロスは、大きさも相俟あいまって、怪獣どうしの戦いにしか見えない。ケルベロスは噛み付きだけじゃなく、炎とか黒い霧を吐いてるもん。

 そんな中フィリップは、氷だるマンを操りながら入口まで戻って来ていた。


「やっぱり閉まってるか~……」


 サボっているわけでなく、退路を確保しに来たみたいだ。


「ゲームの仕様なら、戦闘中でも帰還アイテムを使えば戻れるけど、バグってるからな~……壊れないかな??」


 もしもの時のために、フィリップはアイテムボックスから大きな金棒を取り出してフルスイング。扉はビクともしなかったので、手だけじゃなく体全体がジーンっと痺れてた。

 痺れが取れたら、ケルベロスに倒されて減った氷だるマンを補充してから、壁をフルスイング。


「おっ。行けそう。扉は硬いけど壁はそこまでじゃないって、よくある手だよね~」


 壁は一撃で大きく凹んだので、何度も殴って自分が通れるだけの穴を開けたら、フィリップは曲がった金棒を投げ捨ててケルベロスに向き直る。


「さあ……ここからが本番だ! 僕は氷だるマンの百倍強いぞ!! 行け! 氷だるマン!!」


 逃げ道を確保して、氷だるマンばかりに戦わせているのに、フィリップはかっこつけるのであったとさ。



 フィリップは氷だるマンを盾にしながらジグザグに走り、ケルベロスの後ろに回ったら足に斬り付け。すぐに後ろに飛んで、氷だるマンで姿を隠す。


「やっぱりロックオンしたか。ならば時間かけて行こう!!」


 小手調べでケルベロスの仕様を確認したフィリップは、氷だるマンで姿を隠しながらのヒットアンドアウェー。床の至るところに氷を張り、ケルベロスを滑らせて出鼻を挫く。


「左ということは……毒!? アイスダスト!!」


 ケルベロスの左の顔がブレスを吐くモーションをした瞬間に、フィリップは後ろに跳びながら吹雪を出して毒の霧は吹き飛ばす。そして床を凍らせて罠を張る。

 尖らせた太いツララを地面と平行に配置し、雪だるマンで隠したら、フィリップはその前に立った。


 それだけで罠は完成。ケルベロスはフィリップを見付けた瞬間に突撃したが、氷で足を滑らせて物凄い速度で滑って来た。

 フィリップはギリギリまで待って、大ジャンプで回避。するとケルベロスは雪だるマンに衝突。柔らかい雪だるマンでは勢いは殺せず、口を開けていた中央の顔にツララが突き刺さった。


「真ん中いったか?」

「「「ガルルルゥゥ!!」」」

「残念! 氷だるマン落とし!!」


 しかしケルベロスはツララを噛み砕いてギリギリセーフ。そこに質量のある氷だるマンを落としながら蹴って、フィリップは安全地帯に逃げる。


「いいねいいね! やっぱ戦闘はこうでなくっちゃ!!」


 強敵相手に、フィリップはテンションアゲアゲ。ケルベロスは氷だるマンを払いのけて睨んでいるのに、ワクワクしているな。


「さあ! 飛ばすぞ~~~!!」

「「「ガルルルゥゥ!!」」」


 こうしてフィリップは、長い時間を掛けて慎重に攻撃を加え、ケルベロスのHPを削りきるのであった……



「フゥ~……疲れた~~~」


 小一時間の戦闘を制したフィリップは、ケルベロスがダンジョンに吸い込まれる姿を確認してから大の字に倒れた。


「必殺技とか武器とか、決定打が足りないんだよな~。兄貴の剣を盗めば楽できると思うけど、兄貴はいないし……クリちゃんがなんかいい武器持ってないかな?」


 フレドリクの剣とは、乙女ゲームでは最強の武器。攻撃力は150もあり、自分の力や魔法も強化してくれるアーティファクトだ。

 ただし、皇帝からさずけられるのはフレドリクが5年生になった時なので、まだ持っていないのを忘れてるな。てか、盗もうとするなよ。


 ない物は仕方がないので、今度クリスティーネに聞いてみようと考えながら体を起こしたフィリップは宝箱が目に入った。

 なので、跳び起きてスキップで近付き、宝箱をさっそく開けて中身を取り出した。


「黒い毛皮のコートか~……カッコイイけど僕にはデカイな。あとはなんだこの銅貨? えぇ~。白金貨じゃないの~? こんなの女も買えないよ~」


 苦労して倒したのに、費用対効果が薄いとガッカリしたフィリップであったが、銅貨を指で弾いたところで絵柄が違うことに気付いた。


「偽物? いや、この絵、どっかで見たことあるような……あっ! 歴史の教科書だ。エイラがみんな知ってるからって、これだけは覚えておけとか何回も言ってたヤツだな。確か初代硬貨だっけ? 現存する物は2枚しかないっての……」


 口にして初めてフィリップもこの硬貨が重く感じた。


「え? これ? いくらなの? 領地買えるんだよね? 白金貨千枚? 一万枚?? すげぇ!?」


 そしていまさら丁寧に扱い、アイテムボックスにすぐさましまうのであったとさ。


 ここにはフィリップしかいないから盗られないのに……

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