106 地下20階のモンスター


 カラフル王子襲撃事件はけっこうな騒ぎになったけど、カラフル王子は何があったか喋らないのではどうしようもない。なので、生徒間では幽霊が出たのではないかと持ち切りだ。

 そのせいで、時を同じくして起きたフィリップの部屋のドアが壊れたことも、幽霊のせいだと噂されていたから、フィリップも悪ノリ。白い影を見たとか声を聞いたとか足して、完全に心霊現象に持って行った。


 これでカラフル王子襲撃事件……いや、フィリップ襲撃事件は闇の中に。ダグマーだけはまだ調査していたらしいが、フィリップの部屋のドアが直った次の日には調査を打ち切っていた。


「絶対、幽霊いますって! 私、見ましたもの!!」

「うんうん。僕も幽霊信じてるよ~」


 理由は幽霊を見たからだって。事実は、2日もラーシュの部屋で過ごして溜まっていたフィリップが、ドアが直ったその夜に娼館に行こうと飛び下りたら人影があったので、全速力で逃げただけ。

 ダグマーの視力を持ってしても追い付けない速度であったが、残像が残っていたからそれを幽霊だと勘違いしているだけなのだ。


 カラフル王子はというと、しばらく自主休講。まだ空を飛んだあの恐怖体験を忘れられないらしく、部屋からも出て来ていない。

 そんな恐怖を植え付けたフィリップは、今日はクリスティーネにマッサージをしてもらいに訪ねて来ている。


「なにしやがった……」


 でも、クリスティーネは完全防御。布団に潜って顔だけ出して睨んでるよ。


「なんのこと?」

「小国連合の王子たちとドアのことですよ! フィリップが何かしたんでしょ!!」


 さすがは仮初めでも彼女。少ない情報からでも紐付けできている。


「何もしてないよ~?」

「今日はもう帰ってください。プンッ!」

「怒らないでよ~。あいつらがドア壊すから、バルコニーからちょっと落としただけだよ~」

「すぐ言う~~~??」

「じゃあ、始めよっか」

「すぐ揉む~~~!!」


 まさかフィリップがこんなに簡単に口を割ると思っていなかったので、クリスティーネはビックリして布団を投げ捨てちゃった。

 もうすでに揉まれてしまったので、続きを聞くにはフィリップを満足させないといけないと感じたクリスティーネは、結局マッサージしちゃうのであったとさ。



「えっと……ツッコミどころが多すぎて、なんと言っていいのか……」


 新たな物語の予想以外の、ここ数日のカラフル王子とのやり取りを説明したら、クリスティーネも言葉を探しまくっている。


「まぁ悪いヤツらではないよ。だから、今回のことは目を瞑ってあげて。ね?」

「フィリップがそれでいいなら……というか、6階から落とすなんてやりすぎですよ~」

「そこはツッコムんだね……」

「だって、1回死んだようなモノですよ? 私だって落とされたらお漏らししますよ。頭のおかしい人に絡んで、かわいそうに……」

「頭のおかしい人って僕のこと?」

「他にいます? 対価は私の体と娼館だけでクーデターする人ですよ??」

「うん。そうだね……僕、なんでこんな人間になっちゃったんだろ……」

「じょ、冗談ですよ~? フィリップはすっごくいい人なの、私はわかってますからね~? はい。オッパイですよ~??」


 これまた珍しくフィリップが落ち込むものだから、クリスティーネは授乳してフィリップの気持ちをまぎらわすのであった。フィリップはすぐエロイ顔になってたけど……



 それから数日、カラフル王子が出て来るのを待っていたフィリップであったが、3日もしたら面倒になったので、仮病の再発。ダンジョンに潜ってレベル上げに精を出していた。


「おっ。81になった。まだまだ上がりそうだな~」


 節目である70や80の時には注意してステータスを確認していたフィリップであったが、まだ上限があるのかと嬉しそうにしている。


「19階も楽になって来たし、そろそろ20階に挑戦してみるか」


 フィリップはこう見えて慎重派。最下層には強いモンスターがいる可能性を見越して、レベル上げをしていたのだ。

 この日は宝箱を漁ってほどほどで帰宅し、翌日は逸る気持ち落ち着かせるために娼館にこもり、その次の日にようやくダンジョンにやって来た。


 長い間レベル上げをしていたので、地下16階からの地図は頭に入っている。フィリップは最短距離で進み、モンスターは省エネのハメ技で倒して走っていたら、早くも地下20階に辿り着いた。


「なんじゃこりゃ……」


 そこは、フィリップでも驚くモンスターの巣窟。


「バグってない??」


 強そうとかではなく、モンスターの姿がポリゴンっぽくなっているから驚いたっぽい。


「えぇ~……サイクロプスみたいなの、足が動いてないのに進んでるんですけど~? ムーンウォークしてるし……アレで戦えるのか??」


 辛うじて、ひとつ目で巨大な人型モンスターの容姿は確認できるが、動きがおかしすぎてフィリップも近付けない。とりあえず、いつも通り氷で作られた大きな雪だるまで様子見してみるフィリップ。


「うわっ……棍棒で一撃。モーションも一部飛んでたな……逆にやりにくいわ!!」


 氷だるマンが一撃で粉々にされたのだから、攻撃力は本物。しかし、何コマか動作が飛んでいたからフィリップも怒り心頭だ。


「どう倒したらいいものか……チビだるマンで行ってみっか」


 相手がデカイなら、小さいほうが苦手なはず。複数の雪だるまを走り回らせ、フィリップは様子を見る。


「キモッ……ガクガクしてるだけ。複数の敵に対応できなくなってない?」


 サイクロプスは足も動かさずに進んでは戻り、クルクル回ったりしていては、フィリップには壊れたロボットにしか見えない。


「これなら……」


 フィリップは雪だるまを動かしながら壁から飛び出し、サイクロプスの後ろから近付いて剣を振り続ける。


「倒れねぇ~~~!!」


 ロックオンされないから止まって斬り続けられるが、いつまで経ってもサイクロプスの足は切り落とせないので、フィリップにも諦めが見える。


「そのまま死ぬんか~~~い!!」


 だがしかし、足しか攻撃していないのにサイクロプスは床に吸い込まれて行ったので、フィリップも納得いかないと叫びっぱなしであったとさ。


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