071 カールスタード王と面談
カールスタード王がアポイントを取って帰ったその日の夜は、フィリップはダグマーにお仕置きされたけど夜の街に繰り出し、クリスティーネを連れてスラム街に向かう。
すでに安全な抜け道は確保済みなので、そこを通って本日の聖女治療。さほど患者もいなかったのですぐにクリスティーネを送り届けて、フィリップは早めに帰って行ったらかなり怪しまれていた。
そして早めの就寝をして、お昼にダグマーに起こしてもらったら、戦支度。腹に食事を詰め、豪華な服に袖を通して、あとはまったりとティータイムだ。
「そういえば、泥棒の新しいネタって入ってない?」
「盗まれた物の中に、先々代の女王の姿絵があったそうです」
「なんでそんな物を??」
「噂の域を出ないのですが、先々代の呪いじゃないかとラーシュ様が震えながらおっしゃっていました」
「プッ……あいつ、お化けとか苦手なんだ」
このネタは、フィリップがオロフに頼んでいたこと。泥棒の件は「先々代の呪い」と噂を流して、クリスティーネ登場時のインパクトを与えようとしているのだ。
この噂がラーシュの元まで届いているということは、町中に広まっているとフィリップは吹き出してしまったが、ラーシュのせいにしてるな。
「てか、ラーシュとはだいぶ会ってない気がするな~」
「だいぶではなく、夏休みに入ってから一度もお会いなられていませんよ」
「そんなに? すっかり忘れてた。あとで会いに行ってやるか~」
同郷で護衛で一緒に勉学に励む者を忘れていただなんて、フィリップはどうかしている。そのことを
「体調不良のところ、本当に申し訳ない」
「ううん。昨日は起きれなくて悪かったね」
寮の1階にある応接室で面会したカールスタード王とフィリップは、自己紹介も終わらせると当たり
「それで、なんか用?」
老人の笑顔にもう飽きたフィリップはほどほどで切り出すと、カールスタード王は笑顔を引き
「少々困っておってな。まずは人払いをしてもらってもよろしいか?」
「僕のメイドが言い振らすとでも??」
「気に障ったら申し訳ない。ただ、いまから話す内容は国に関わることじゃから、漏れた場合に疑いたくないだけじゃ」
「あ、ダグマーのためだったんだ。それならいいよ~」
フィリップがあまりにも馬鹿っぽい返事するのでダグマーは目で訴えまくったけど、追い出されていた。
そのやり取りを見て、カールスタード王も「聞きしに勝る馬鹿皇子」とほくそ笑んでいた。
「これでいい?」
「うむ」
室内に2人だけになると、カールスタード王は頭を下げた。
「申し訳ない」
「はい? なに謝ってるの??」
「殿下の父君から預かっていた生活費を盗まれてしまったのじゃ。これでは生活費が不足して、クオリティの高い料理などの提供ができなくなってしまう。本当に申し訳ない」
「あ、そうなんだ。だったらクオリティ下げてくれたらいいよ。そんなことで謝らなくてもいいのに~」
フィリップが笑顔で返すと、カールスタード王は歯を強く噛み締めた。おそらく、これで帝国からお金を送ってくれる馬鹿だと思っていたのだろう。
「いや、そういうことではなくて……」
「ん~? どういうこと??」
「父君に、融資してもらえるように進言してくれないかと」
「融資? って、なんだっけ??」
「簡単に言うと借金じゃ。こちらが無くしたからには、もう一度いただくわけにはいかない。しかし、先立つ物がないのでは、殿下に不自由させてしまう。だから、そうさせないために金を借りたいのじゃ」
もちろんフィリップは馬鹿を演じているだけなのに、カールスタード王は「言葉もしらんのか」とキチンと説明してくれた。
「なるほどね……いいよ~」
「お、おお! 助かる!!」
「いくら必要なの?」
「これほどなんじゃが……」
「いいよ~」
「感謝する!!」
カールスタード王の提示した金額は、帝国から預かった額の倍。しれっと増やしても気付かないとは、本物の馬鹿だとカールスタード王は喜びまくってる。
「でも、うちの国って遠いんだよね~。それまではどうするの?」
「ツテは他にもあるから、殿下は心配しなくても大丈夫じゃ」
「あ、そうなんだ。面白いお金の稼ぎ方、いま思い付いたんだけどな~……聞きたい? 聞きたいでしょ??」
カールスタード王はこんな馬鹿に教わるようなことはないって顔をしているが、フィリップがグイグイ来るので「頼みます」とお願いしていた。
「国民ってヤツはうじゃうじゃいるじゃない? だったら全員から銅貨1枚を集めたら、大金持ちになれるんだ!」
フィリップの案に「子供の発想」と思ったカールスタード王は笑いながら褒める。
「さすがは帝国の皇子。賢いですな。わはははは……あっ!」
「どうしたの??」
「いや……ちょっと急用を思い出しただけじゃ。そろそろ失礼させてい……」
馬鹿にして笑っていたカールスタード王は急に立ち上がろうとしたが、フィリップは立たせない。
「あ、そうだ。ひとつだけ聞いていい?」
「うむ。ひとつと言わず、なんでも聞いてくれ」
「先々代の女王様から恨まれるようなことしたの?」
その問いに、カールスタード王の顔が一気に曇った。
「な、なんのことじゃ?」
「だって泥棒の正体って死んだ女王様なんでしょ? だったら酷いことしてないと、そんなことしないと思うんだよね~」
「いや、それはただの噂話なだけで、死人が金を盗むわけがない。そもそもどうやって使うのじゃ?」
「本当だ! 王様、かっしこ~い。アハハハ」
「わははは。殿下の柔軟な発想も面白かったぞ。家臣にも見習わせたいぐらいじゃ。わははは」
最後はお互い笑顔で握手。こうしてカールスタード王は急いで立ち去り、フィリップはダグマーに担がれて自室に監禁されるのであった……
「なんか怒ってる??」
自室に戻ったフィリップは、ダグマーに正座させられているのだから、さすがにプレイとは思っていないらしい。
「はい……あれほど安請け合いするなと言ったのを忘れていましたので……」
「あ、やっぱり盗み聞きしてたんだ。アハハハ」
「笑いごとではないのですが……」
「は~い。すいませ~ん」
ダグマーの喋り方はまだ丁寧だけど、顔が怖かったのでフィリップは平謝りして足を崩した。
「別に口約束ぐらい、いくらやってもいいんじゃない?」
「それは、考えがあってあんなことを言ったと?」
「そそ。僕って馬鹿じゃない? だったら父上に手紙書くの忘れても仕方ないよ~。いや、書き忘れておいたほうがいいかな? 王様が怒鳴り込んで来るのが目に見えるね~。アハハハハハハ」
フィリップの言い訳に、ダグマーは複雑な顔だ。
「殿下は馬鹿なのですか?」
そしてド直球。
「それ、どっちの意味? 僕が馬鹿なのかと聞いてるのか、僕が馬鹿だと馬鹿にしているのか」
「想像にお任せします」
「その顔、後者だよね? たまには褒めてくれてもいいじゃな~い」
フィリップは後者と決め付けているが、ダグマーの考えは半々。どうしてもフィリップが馬鹿ではないと決定付ける証拠がないらしい……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます