062 スパイの勧誘


「お、俺の城が……」


 嗚呼無惨。ケビ組一家のアジトは、フィリップに穴だらけにされて1階が潰れる。これではまだ半壊だと思ったフィリップは、何度も上から蹴り破り、綺麗に瓦礫の山に変えた。


「フゥ~。いっちょあがり。まだ解体する物あるなら手伝うよ? 人体も得意なんだよね~」


 パンパンとホコリを払いながらフィリップが笑顔でやって来たが、敵味方関係なく青ざめてる。だって、人間わざではないもん。


「ふざけんなよ……」


 だが、さっきまで地面に両手を突いて呆けていたケビは、怒りの表情で立ち上がった。


「俺たちの思い出が詰まった城を……もう許さねぇ! ブッ殺してやる! 死ね~~~!!」


 そして、剣を抜いてフィリップに斬り掛かった。


「こんな安物の剣じゃ、僕に傷ひとつ付けられないよ?」

「はい??」

「よっと」


 その剣は、フィリップは簡単に右手で刃先を受けて握り潰した。


「てか、そんなに思い出詰まってたんだ~……悪いことしたね。僕がお金出してあげるから、一から立て直したら?」

「……へ??」

「雨漏りとか隙間風も酷かったでしょ? 大工と資材はうちのロビンが用意してくれると思うから、明日、オロフ組のアジトに顔出しな。これ、とりあえず慰謝料ね。うまい物でも食って」


 フィリップは金貨を5枚、ケビに握らせるときびすを返す。


「んじゃ、仲間に入るかは明日にでも聞かせて。トム~。あとのことは任せたよ~」

「は、はい!!」


 フィリップはそれだけ言うと、手をヒラヒラ振って1人で帰るのであった。


 残されたケビやトム、その他大勢はというと……


「なんだあの化け物?」

「わからない。わからないけど、あの人について行けば明日のメシには困らない。国王も倒してくれるらしい」

「はあ? んなの倒せるわけが……」

「わりと簡単に倒してしまうかも?」

「だな……」


 先程の出来事を思い出しながら瓦礫の山を見たケビは、トムに同意するしかできない。


「で……ハタチさんは時間をくれたけど、どうする?」

「乗るしかねぇだろ~」

「じゃあ、今日から仲間ってことで」

「ああ」


 こうして抗争は、フィリップの登場で、たった数十分で終結したのであった。



 建物を丸々一軒解体したフィリップは、クリスティーネの元へ顔を出したら宿屋へ移動。クリスティーネに体を洗ってもらって、ついでにというか本命のお遊び。

 クリスティーネの家にはお風呂がなかったから、ホコリを落とそうとここに連れて来たのが本当の理由だったみたいだけど……

 そうして楽しんだら、宿を引き払う。こんな時間にと勘繰られたが、店員は大金を貰ったからすぐに黙っていた。


 クリスティーネを送り届けたら、本日の夜遊びは終了。その次の日の夜に、予定通り早い時間に酒場に顔を出したら、カウンターに見たことのある人物が座っていた。


「やっぱりロリさんだ~」

「ハ、ハタチ君!」


 ショタコンどM女性ロリだ。マフィアにビビって逃げたのに、フィリップとあんなことやそんなことをしたいから戻って来たのだ。


「あの時はゴメ~ン。罵ってくれていいから許して~」

「別に怒ってないよ。こいつだって逃げたんだから」

「最低ッ!!」


 フィリップが角刈りの店主マッツを指差すと、ロリは罵詈雑言。女性と男性の違いはあるけど、逃げたのは一緒なのでフィリップが止めていた。


「あのあと大丈夫だった? 怪我はない?」

「大丈夫。お金は盗られたけどね」

「ゴメンね~。お姉さんに力があったら、守ってあげられたのに~」

「いいのいいの。それよりお願いがあるんだけど」

「ハタチ君のお願いならなんでも聞くよ~」

「じゃあ、ここではなんだから宿屋行こっか?」

「もう!? いいの!?」

「早く行くよ~」


 というわけで、ロリは軽々お持ち帰りされて、フィリップをむさぼり食ったのであったとさ。



「ありがとうございました!!」


 マッサージが終わったら、ロリは何故か土下座。よっぽど楽しかったのだろう……


「アハハ。なんか獣みたいだったね。そんなのいいからこっちおいで」

「にゃ~ん」


 フィリップもここまで激しい人を見たことがなかったので面白かったらしく、特に気にせず呼んだら、ロリは猫撫で声を出してフィリップの腕枕に収まった。


「それでお願いなんだけど」

「なになに~?」

「前にお城で働いてるって言ってたよね? 情報を売ってほしいんだ」

「お城の情報? なんでハタチ君がそんなの欲しがるの??」

「聞く? 聞いたら後戻りできないけど、本当に聞く??」

「こわっ!?」


 フィリップの問い掛けにロリは離れかけたので、フィリップは引き寄せて抱き締めた。


「冗談冗談。僕のお父さん、商人なんだよ。城の情報があったほうが儲かるから、根刮ぎ調べて来るのが僕の仕事だったんだけど、運命的にロリさんと出会ったから聞いてみただけ。また誰か探してみるよ」

「運命の出会い……」


 大ウソだけど、これこそ詐欺師のやり方。女性は運命という言葉に弱いと聞いたことがあるので、フィリップは使ったのだ。


「や……やる! 私、ハタチ君の犬になる!! わお~ん」

「そこまでしなくていいんだけど……猫じゃなかったの??」


 でも、思ったより効き過ぎたので、フィリップもロリのことがちょっと怖くなるのであったとさ。

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