061 マフィアの抗争
クリスティーネがお城に着いたことに泣き出してしまったので、大迷宮まで撤退したフィリップたち。そこでフィリップはクリスティーネを抱き締めて、泣きやむのを待っていた。
「申し訳ありませんでした……」
「いいよいいよ。ここまで我慢できたじゃん。よく我慢したね」
「うう~。いま優しいこと言わないでください~。ううぅ~」
「今日はここまでにしよっか。次は日が昇ったお城の玉座に座ろう。ね?」
「だから~~~」
「アハハハ。また泣いちゃった。はい。乗って乗って」
「うわ~~~ん」
こうしてクリスティーネはフィリップに背負われ、大泣きしながら城をあとにするのであった……
大迷宮は目印を付けた道順で進めば、迷わずクリア。一直線の通路は少し足早に駆け抜けて墓地まで戻り、フィリップが碑石を元に戻しているとクリスティーネが後ろから声を掛けた。
「あの……ありがとうございました!」
「礼はまだ早いよ。いや、もう貰ってるから、いちいち言わなくていいよ」
「でも……」
「大変なのはこれから。あ、ここはしばらく近付かないでね?」
フィリップが話を逸らすと、クリスティーネは仕方がないと感謝は諦める。
「どうして近付いてはいけないのですか?」
「何度も行き来してたら、それだけ誰かにバレやすくなるからだよ。特にクリちゃんは美人だから目立つし」
「そうですね……」
「絶対だよ? 危ないから1人で来ちゃダメだからね? スラム街通るんだからね? 若い子なんて、命がいくつあっても足りないんだからね??」
「は、はい!」
諦め切れないって顔をするクリスティーネを脅したら、ようやくいい返事。それを受けてフィリップは付け足す。
「あと、お城の中の情報がないとね。クリちゃんの仲間にツテがあったりする?」
「お城の中で働くには2級市民じゃないと働けないので、仲間を募集中なのですが……」
「秘密裏にやらないといけないから、上手くいってないわけね」
「はい……」
「じゃあ、そっちは僕が受け持つよ。こないだナンパした子が働いていたから当たってみる」
「お、お願いします! ……ん? ナンパですか??」
グッドニュースではあったが、仮初めの彼女でもナンパは引っ掛かるみたいだ。
「僕、色恋沙汰がすんごいの。だからナンパぐらいで目くじら立ててたら、彼女なんて務まらないよ?」
「最低な人の彼女になってた~~~」
「アハハ。その代わり、誠心誠意気持ち良くするから許して。さあ、今日も頑張るぞ。お~」
こうして最低なフィリップは、クリスティーネを背負って急いで帰るのであった……
「あの……ハタチさんは私を背負ってずっと走っていますけど、疲れないのですか?」
「だって急がないと、今日はできず仕舞いで夜が明けちゃうんだも~ん」
「答えになってないのですが……」
フィリップのスタミナに疑問を持ったクリスティーネは、部屋に戻ってからその答えがわかるのであったとさ。
翌日の夜は、ダグマーの相手をちょっとしてから夜の街に出たフィリップ。真っ直ぐオロフのアジトに行ってお金を渡したら、トムを招き寄せる。
「昨日のマフィアとは、どこで話し合うの?」
「向こうのアジト。ちゃんと滅ぼすって伝えておいた」
「話し合いに行くって言ったと思うんだけど……まぁいいや。カチコミだ~~~!!」
「「「「「おおおお!!」」」」」
フィリップの話し合いは、肉体言語だと
トムの先導の元、向かった先はスラム街の奥。到着した場所には、大きめのボロ屋敷があった。
「たのも~~~!」
ここはフィリップが先頭に道場破り。いや、屋敷の扉をブチ破り、中に入って行った。
「扉の開け方も知らねぇのか!!」
その先は、壁を取っ払ったのか朽ちたのかわからないけど広い空間。待ち構えていたマフィアのボスであるガラの悪いオッサンのケビも、アジトをいきなり壊されたのでキレてる。
「まぁまぁ。ケンカ売ったのはそっちでしょ? 夜は短いんだから、さっさと終わらせようよ」
「はあ? なんだこのガキは!?」
「僕はハタチ。このお掃除団のボスだよ」
「噓つけ!!」
子供の見た目では信じられないと怒鳴られたフィリップだが、トムたちには「その場で待機」と指示してからスタスタと1人で進んでいる。
「さあ……タイマンする? それとも全員で来る? 僕がお前を殴る前に決めてね~??」
「ちょっとはやり取りしろ!」
フィリップが右肩をグルグル回しながら近付いて来るので、ケビも黙って見ているわけにはいかない。
「お前ら。そのガキ、痛い目にあわせてやれ」
「「おう!」」
と、様子見に2人の男を送り込んだが、フィリップに同時に押されてケビの後ろまで吹っ飛んで行った。
「なっ……」
「タイムアーップ! ハタチパーンチ!!」
「ちょ、待った……へ??」
ケビが驚いてよそ見している間にフィリップは近付いて大振りのパンチを放ったが、焦ったケビが避けたので空振り。
フィリップは「おっとっとっ」とか言いながら、奥に進んで行った。
「ハッ……パワーはすげぇみてぇだが、ずぶの素人かよ。まだバランス崩してやがる。テメェら! さっさとそいつ連れて来い!! ……は??」
ケビはフィリップがケンカもしたことのない馬鹿だと鼻で笑ったが、一番奥の壁にぶつかっても「おっとっとっ」が止まらないので、驚愕の表情でトムを見た。
「なあ? なんか、ドンドン音が聞こえるんだが……どうなってんだ?」
「さあ……ここから壁は何個ある?」
「まさかこの音……壁を突き破ってる音か!?」
「たぶん。間隔が短くなったから、走ってるんじゃね?」
「「「「「はあ~~~!?」」」」」
ケビたちが焦って追いかけても、もう遅い。壁を突き破る音は「ドンドン」なんて生易しい音ではなくなり、工事現場のような「ズガガガ」という異様な音に変わった。
「な、何が起きてやがんだ……」
「うわ~~~!!」
ケビが青ざめて呟いた瞬間、フィリップが天井を破って落ちて来た。
「10点満点! いや~。行き過ぎちゃったよ」
そして体操選手みたいにシュタッと着地してとぼけてる。
「おま、おまおま、お前! 行き過ぎたじゃねぇ! なに俺たちのアジトに穴開けてくれてんだよ!!」
「ボロボロじゃん。せっかくだから解体手伝ってあげてるの」
「んなもんいらねぇ!!」
「いらねぇじゃなくて、これが僕にケンカ売った末路なだけ。全て解体してやる。死にたくないヤツは、外に出てるんだよ~? そ~れ!!」
「やめてくれ~~~!!」
ケビの悲鳴があがるなか、フィリップは体当たりで壁や柱を突き破り続けるのであった……
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