010 攻略対象
魔法適性なしで無能のレッテルを貼られたフィリップであったが、その日から超立派な庭に足を運ぶことが増えた。せっかく昼型になったのだから、この間にやりたいことがあるみたいだ。
ちなみに貴族の婦女子と擦れ違うことはあるのだが、無能の第二皇子とお近付きになっていいものかと家長が悩んでいるので、接触して来なくなっている。
フィリップのお気に入りの場所は、綺麗な庭園ではなく、芝生が広がり大きな木が生えた場所。そこのベンチでエイラに膝枕してもらい、小鳥のさえずりを聞いていた。
「殿下……何か面白いことでもありましたか?」
フィリップがクスクス笑っているので、エイラも気になるみたいだ。
「いや~……鳥も色恋沙汰が好きなんだと思ってね~」
「鳥がですか……」
「ほら? あそこの3羽と対面の3羽、オスとメスに分かれててね。オスどうしでどのメスを狙っているのかとやってるの」
「はあ……殿下にはそう見えるのですか」
「そそ。こんなやり取りしてるんだ~」
エイラが残念な子を見る目をしていたので、フィリップは木の枝にとまる鳥を指差しながらアテレコ。なんだか初合コンに来た男が、手練れのギャルにこっぴどくやられるようなセリフになっていたので、エイラも珍しく声に出して笑っていた。
「あらら。女子は行っちゃったね」
「はい。本当にそんなことが起こっていたみたいですね。フフフ」
「僕たちも行こうか」
フィリップが立ち上がると、エイラは項垂れているような鳥を見ながらあとを追う。
これは実は、フィリップの実験。母親から貰ったネックレスには、動物と意思疎通できる機能が付いていたから確かめに来ていたのだ。なのでさっきのアテレコは、正真正銘、オスがフラれていたのだ。
帰り道は散歩がてら綺麗な庭園を見て歩いていたフィリップは、奇妙な集団を発見した。
「あそこで隠れてるような子供たちって、何してるんだろ?」
「あのお子様は……フレドリク殿下の幼馴染みではないでしょうか」
「お兄様の幼馴染み……あ、イケメン4の……」
「イケメン4??」
「な、なんでもない」
フィリップは前世の知識を口走ってしまったので慌ててごまかす。イケメン4とは、乙女ゲームの攻略対象で人気の高い4人のこと。
初登場は13歳からだったから、それより若い10歳の姿にフィリップも興味を持ったのか、植木に隠れている3人に後ろから近付いた。
「ねえねえ? 何してるの??」
「いまは忙し、い……フィリップ殿下??」
「そそ。フィリップだよ」
「これはご挨拶が遅れました!」
「「「はは~」」」
一番後ろの細身の子供がフィリップの顔に気付くと、全員驚きながら
「そんなのいいよ。お兄様のお友達なんでしょ? お兄様と同じように扱ってくれると嬉しいな~」
「「「はっ!」」」
フィリップが優しく言うと、3人は勢いよく立ち上がって目配せしている。誰がこの
「あ~……俺は、カイ……だ。リンドホルム騎士長の息子だ」
「私はヨーセフです。リンデグレーン領主の息子です」
「私はサンドバリ侯爵家、次男のモンスです」
口調を崩したのは、カイだけ。しかし、ヨーセフとモンスは、フレドリクとはいつも敬語で喋っていたからケンカにはなっていない。
(やっぱり、筋肉イケメンのカイに、メガネイケメンのヨーセフ、長髪イケメンのモンスだったか。全員、ゲームのキャラが幼くなった感じだな。ヨーセフだけメガネがまだってことは、これから掛けるのかな?)
フィリップは舐めるように見ているので、3人は今度は誰が喋るかで押し付け合いをして、ヨーセフが負けた。
「えっと……何をしているかでしたね?」
「あ、うん。そう。向こうに何かあるの??」
「ええ。フレドリク殿下が許嫁とお茶会をしていると聞きまして、覗いていたのです」
「お兄様の許嫁……僕も見たい!」
「フィリップ。ここから見れるぞ」
許嫁と聞いて、フィリップも興味津々。その嬉しそうな顔を見たカイが植木の枝を押さえてくれたので、フィリップはそこに頭を突っ込んだ。
「あれ? 誰もいないよ? あそこのテーブルのところじゃないの??」
だが、聞いていた情報と違う。それに何度も質問しているのに誰も答えてくれないので、フィリップは頭を抜いて振り返った。
「フィリップまで何をしてるんだい?」
「お兄様!?」
そこには、気を付けするカイたちと、笑顔が怖いフレドリクの姿。どうやらフレドリクは、ここから視線を感じていたので、フィリップたちが喋っている間に回り込んでいたみたいだ。
「いや、その……そこの3人に
「へ~……フィリップにいけない遊びを教えていたんだね~」
「「「申し訳ありません!」」」
フィリップ、汚い。濡れ衣を着せられたカイたちはめっちゃ首を横に振っていたが、フレドリクに睨まれては謝るしかできなかった。
「どうせ、今まで会わせなかった私の許嫁を見たかったのだろう?」
「「「は、はあ……」」」
「同じ帝都学院に通うのだから、これから嫌と言うほど会えるのに、困った者たちだ……仕方がない。先に顔合わせしておくか。行くぞ」
「「「やった!」」」
フレドリクが折れるとカイたちは嬉しそうにあとを追う。
(うお~。10歳の悪役令嬢に会える~。ゲームでは、初登場の13歳から大人びていたから楽しみだ~)
そのあとに続き、フィリップもワクワクしながら追いかけるのであった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます