009 魔法適性検査


 魔法適性検査のためにダンジョン生活を控えて昼型に戻したフィリップは、日中はつまらなさそうに過ごして、夜はエイラと楽しく遊んだり、朝までいてくれないので寂しくする日々。


 そうしていたら、ついにこの日が来た。


 フィリップはフレドリクに馬車に押し込まれ、やって来たのはお城の北側に位置する大きな神殿。神殿の前には立派な馬車が次々と到着しており、身なりのいい親子が続々と神殿の中へ入って行く。

 そんな場所に第一皇子と第二皇子が登場したからには、人々はひざまずいて敬意を払っていた。


「ゴクッ……」

「ん? フィリップは緊張しているのか? 大丈夫だ。例え魔法適性がなくとも、この私が守ってやるから気楽にしていいんだぞ」

「う、うん……」


 フィリップが生唾を飲んだ理由は跪く人々になのに、フレドリクはわかっていない。こんな圧倒されそうな状況にもフレドリクがキラキラした笑顔をするので、「天然??」とか思うフィリップであった。



 フレドリクに手を引かれて奥に進むと、人々が道を開けて跪くのでフィリップはおどおどしてしまうが、その先の大聖堂に入ると圧倒的な迫力に感動して足が止まった。


「フィリップ、どうした?」

「いや……凄く綺麗で……」

「アハハ。フィリップは初めてだったか。ここは歴史があってだな」


 大聖堂には巨大なパイプオルガンが設置され、窓は全てステンドグラス。天井全体に天国や天使の絵が描かれており、ぜいを凝らした作りとなっている。

 ここまでされては芸術にうといフィリップでも、感動せざるを得ないのだ。


 それからフレドリクの案内でいくつも並ぶ備え付けの椅子の最前列に着席し、宗教講義を聞いていたらパイプオルガンが鳴り響いた。


「あれ? 父上は来ないの??」

「父上は忙しい方だから……私で勘弁してくれ」

「あ、ゴメン。お兄様がいるだけで僕は心強いよ」

「フフ。フィリップは優しいな」


 単純にフィリップは、皇帝に脅されるように出席させられたから気になっただけ。フレドリクが勘違いしてへこんだり嬉しそうにするので、申し訳なくなるフィリップであった。



 荘厳なパイプオルガンが鳴り響くなか、正面の舞台の端から、立派すぎるというか宝石でゴテゴテした法衣の老人が長く白いヒゲを揺らしながら登場。

 人々から拍手で迎え入れられ、中央に立つと説法のようなモノが始まった。


「お兄様……あの人、何者??」

「法王様だぞ。神殿で一番偉い人だ」

「ふ~ん……お金持ちなんだね」

「お金持ち? ……そういえばそうだな。父上は民の税金を安くするために、宝飾品の類いはほとんど売り払ったのに……少し調べてみるか」


 今回もフィリップは気になることを聞いただけなのに、フレドリクは戦闘モード。お布施を着服していると決め付けて見ているので、フィリップは法王のことがちょっとかわいそうに思ってる。

 そんな法王にフィリップが両手を合わせて「ゴメン。プププ」とか考えていたら、適性検査の開始が告げられた。


「うっそ……僕が一番なんだ……マジか~~~」


 開始の宣言のあとにフィリップは名を呼ばれたので少し抵抗したけど、フレドリクに背中を押されたからにはブツブツ言いながら舞台に登った。


「ささ。フィリップ殿下。この水晶に触れるだけでいいので。きっとフィリップ殿下なら、素晴らしい結果となりますよ。お父上もお兄様も、それはそれは珍しい魔法適性でしたのですよ。この私が保証します!」

「はあ……」


 法王がやたらヨイショして来るのでフィリップはうっとうしくしている。「ならば、その期待を裏切ってやろう」と、ほくそ笑んでもいるけど……


「これに手を置いたらいいだけだね。んじゃ、やるよ~?」

「はは~」


 フィリップは祈りながら水晶の上に右手を乗せた。


「こ、これは……反応がない……」

「反応がないって? これってどうなるのが正解なの??」

「水晶が光って、そのあとに文字が出て来るのですが……な、何かの間違いでしょう! 左手! 左手でやってみましょう!!」


 焦る法王をニヤニヤ見ながらフィリップは水晶に触れてみたけど、何も起きず。出席者がずっとザワザワするなか、5回もやり直しさせられてようやく法王も諦めた。


「ま、魔法適性は、なし、です……」

「あらら。そうなんだ~。じゃあ仕方ないね。そんじゃあね~」


 青ざめる法王とは違い、フィリップは嬉しそうに舞台を下りるのであった……



「フィリップ……なんと言っていいか……」


 席に戻ったフィリップに、フレドリクも掛ける言葉を探している。


「何も言わなくて大丈夫だよ。これでお兄様の即位を邪魔しなくていいから、僕は満足な結果だしね」

「フィリップ……そんなことを気にしていたのか……」

「ほら? 次の人が始まったよ。あ、本当に光るんだ~」


 まったく落ち込む素振りのないフィリップを見て、複雑な想いのフレドリク。こんなにも自分のためを想っていたのかと初めて知って、しっかりしないといけないと心に誓ったフレドリクであった。



 それからフレドリクは「早く帰ろう」と促していたけど、フィリップはしばらく動かず。フレドリクとしたら落ち込んでいると思い、フィリップはこんな面白いイベントを見逃せないとか思っている。

 しかし10組ほど見たら、飽きて来た。水晶が光るだけで、火、水、風、肉体強化等の魔法適性の発表しかしないのでは面白くない。魔法をその場で見れないならばと、腰を上げるフィリップ。


 馬車に乗って帰るとフレドリクに連れられ、お城の執務室に連れ込まれたフィリップは、さすがに緊張。皇帝に「無能」と怒鳴られて追い出されるのではないかとビビッていたけど、また膝の上に乗せられたから意味がわからない。


「そうか……魔法適性なしか……」


 皇帝は寂しそうに呟いて、フィリップの頭を撫でた。


「まぁ半数ぐらいはなしと判定されるのだから、そう落ち込むな。もう行っていいぞ」

「はあ……」


 もっと何か言われると思っていたのにあっさり解放されたフィリップは、執務室を出たらフレドリクに質問してみる。


「ねえ? 父上はいつも僕を膝の上に乗せるんだけど、お兄様も同じことされるの??」

「昔はされていたな。実は父上、表情は変わらないけど、子煩悩なんだ。私がもう子供じゃないと拒んだ時は、珍しく落ち込んでいたと母上が言っていたほどだ」

「へ~……じゃあ、僕は拒めないね……」

「まぁ、もう少し付き合ってやってくれ」


 ひとつ謎が解けたフィリップであったが、そんなことを聞かされてはいい出しづらくなるので「聞くんじゃなかった」と後悔するのであったとさ。



 それから自室に戻ったフィリップは、パジャマに着替えて1人になったらベッドの上を飛び跳ねて喜んでいた。


「いよっしゃ~! 自分イベント乗り切ったぞ~!!」


 氷魔法を隠し通せたからだ。


「やっぱり体から魔力が漏れていたんだな。魔力を押さえ付けるように操作すれば、水晶は反応しなかったから確実だ。もしもの時は水晶を砕いてやろうと思っていたけど、よかったよかった~」


 こうしてフィリップは喜んでいたけど、女癖が悪いに加え、無能の噂話が付け加えられたのであった……

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