いつか死にゆく俺たちは

竹内るい

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 彼女の訃報を聞いたのは、新作の原稿を送った直後だった。

 電話で彼女の友人を名乗る人物から知らされた。

 いたずら電話の線も考えた。しかし、もしそうならわざわざプライベート用の番号にかけてくるだろうか。

 その女性はマリナと名乗っていた。そしてユキの埋葬されている墓地の住所を送ってきた。知り合いにしか教えていないメールアドレスにだ。

 墓地はユキの実家に一番近い場所だった。俺とユキが幼少期を過ごしたあの地域で、彼女が眠っているらしい。

 嘘だと思いたかった。実際のところ電話をもらった直後は、俺はほとんど信じていなかった。その目で墓を見ない限りは、いや、もし見たとしてもユキが死んだと思えるだろうか。

 電話をもらってから一週間後、俺はその場所へ向かった。

 山の麓にある墓地は人気がなかった。照り付ける日差しと、青々とした木々のざわめき、鳥たちのさえずりはあのときから変わらない。視界に広がる墓石の数々を眺めていると、風に乗せられてどこかしらの線香がふわりと香った。

 記憶は薄れていても、ユキの家の墓にたどり着くのに苦労はしなかった。昔はときどき、ユキと一緒に先祖の墓参りをしていた。

 月日が経っても、墓石は変わらずにいた。見ると、まだ新しい花が供えられていた。ほんの二、三日前に誰かが来たのだろう。

 墓標にはしっかりと、ユキの名前が刻まれていた。

 没年月日は、一か月前。

 知らぬ間に、俺はユキのいなくなった世界を生きていたのだ。自覚した途端に、世界が反転したような感覚に襲われた。それは俺の人生に決定的な打撃を与えた。

 こんなものを見せられて、俺にどうしろというんだ。

 ようやく再会できたのに、それがこんな形なのか。

 今まで何のために頑張ってきたのか、分からなくなるじゃないか。

 泥のような、黒く、説明のつかない感情が胸の中で渦を巻き始めた。原稿を書き上げてばかりでぽっかりと空いた隙間に、それは容易に流れ込んでいく。

 これは悲しみか、怒りか、それとも解放か。言葉で説明できないのは、作家の名折れだ。その悔しさもまた広がっている。どう吐き出せばいいのかも分からないまま、俺は立ち尽くすことしかできなかった。

 突然、携帯電話が鳴る。気持ちの整理もつかないまま応答すると、憎たらしいほどに聞きなれた声がした。

 原稿の修正をいついつまでに出してくれ。この文言も何度も聞いてきた。

 返事をしたかどうかもあまり覚えていない。電話が切れると、俺は墓に背を向けた。原稿を書かなければならない。どんなに落ち込んでいたって、締め切りは絶対だ。たとえユキが死んだって、やらなければいけないのだ。

 そう、ユキが死んだって。

 一度だけ振り返る。

 ユキが死んだら、これから俺は何のために生きていけばいいのだ?

 この場所にそれを教えてくれる人はいない。いや、この世のどこを探しても見つかりはしない。

 だって俺はこの瞬間に、生きる意味を失ったのだから。

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