続かない道
綾瑪 東暢
私は猫
最初と二人目『家族』
ある小さな道があった。
わたしは猫。その小さな道を見守るためだけに産まれた猫。名前はある。何百、何千年前に付けられた名前が。わたしの首に付いている首輪?に書いてあるだろう。わたしは見ることが出来ないがこの道を通る人は皆首輪を見てから『リールドアルトリア』と呼ぶから多分わたしはリールドアルトリアなんだと思う。まぁ、それは置いておいてわたしはずっとこの道を見て来た。片時も目を離したことがない。ある日を除いて。
今でも覚えている。わたしが産まれた日のことを・・。
リールドアルトリア・・・長いので『リル』としよう。リルは産まれた時のことを思い返すかのようにポツリポツリと語り出す。
あれはまだ肌寒い冬の日。わたしはこの小さな道を見るためだけの猫だから産まれた頃から目も鼻も使うことが出来た・・・他の猫がどうだかは知らないが・・わたしは匂いも景色も嗅いだり、見たりすることは容易だった。
最初に嗅いだ匂いは鉄の匂いだった。その時のわたしは道から視線を逸らして辺りを見渡した。その時のわたしには理解など出来ていなかった。今ではあれが何か言える・・そう死体だ。
道を見ないで周りを見ていたことに気がついた『誰か』がわたしに怒鳴る。
「お前は道を見るためだけに存在しているんだ。道を見ていない猫はただの猫だ」とわたしは心の中で呟く。「わたしは猫だ」と。
どうしてわたしが猫だと気がついたのかはわたしを怒鳴った誰かが「お前は猫だ。」と言ったからだった。
わたしが産まれてから最初にこの道を通ったのは若い女性だった。わたしはその女性にとても言いたいことがある。もう何年も前から言いたくて、言いたくてしょうがなかった。
「わたしは女の子なのに長いし、男みたいでどうしてこの名前にしたんだ!」と一回でも良いから言いたい。ある日、いつもはわたしにご飯をくれて撫でてから来た道を引き返していた彼女は珍しくわたしの横を通り過ぎって行った。彼女は最後に「可愛らしい猫ちゃんね。本物にも会ってみたかった」と意味深な言葉を言って後ろ姿が消えた。その日を境に彼女は来なくなってしまった。
それから一年ぐらいし次に会ったのは四〇代ぐらいの男の人だった。彼はわたしに言う。
「君が彼女の言っていた猫なんだね。やっと会えたよ。彼女、入院中。ずっと言ってた。夢で可愛らしい猫にあってるんだ。その猫の名はリールドアルトリアって言ってね。もふもふしているの。って。最後の最後までお前さんのことを言っていたよ。本物の君に会いたいって。僕が会えて良かった。今度は彼女の代わりに僕が君の餌を持ってくるよ。楽しみにしておいて」と言ってその日は帰って行った。彼は約束通り、毎日ご飯を持って来てくれた。
いつだったか・・・・多分一年もしないで彼はわたしの横を通り過ぎた。最後に彼もわたしに向けて言葉を放った「・・・・・あぁ、そうか。本物に僕も会えなかったのか。・・・彼女・・・自分の娘との約束も果たせなかった。・・すまない・・
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