πがデカすぎる(不本意)
葛城2号
プロローグ
──まさか、落としたバナナを拾おうとした際の血圧変化による
「え、マジでそれが死因なんですか?」
だから、彼は相手が誰なのかすら忘れて、思った事をそのまま尋ねていた。
この、相手とは……説明が面倒なので省くが、神様というやつだ。
他にも色々と説明するのが面倒なので省くけど、さすがにそれは色々と混乱するので端的に説明する。
彼が今いるこの場所は、周囲全部真っ暗で、熱くも無いが寒くも無く、無風で何も感じない……そんな場所に居る彼の目の前に、淡く光る人型の影が居る。
この影は、自称『神様』。
怪しさフルパワーだが、神様パワーというか神様オーラとか、そんな感じのアレな波動が出ているのか、彼はすぐさま現状を受け入れた。
この現状とはすなわち、己の状態……具体的には、『己はもう死んでいる』という話である。
死んでいるのに何で思考出来るのかとか、自分の身体がいまどうなっているか分からないとか、気になる点は幾つかある。
でもまあ、ひとまず横に置いといて。
とにかく、彼は己が既に死んでいる事を理解した。
そして、理解すると同時に……神様より放たれる謎波動によって状況を全て理解した(させられた、とも言う)彼が、最初に口に出したのが。
「バナナに足を滑らせたとかじゃなくて、バナナ拾おうとして死んだの? マジで?」
その謎波動によって知った、あんまりな己の死因についてであった。
口の利き方、態度、全てにおいて不遜極まりないが、幸いにも、この神様は彼が思うよりもずっと寛容で慈悲深かった。
『うん、マジでそんな死因。冗談みたいな話だけど、ガチなんだよね、これ……』
「えぇ……」
『ついでに言えば、その後意識が
「そ、それってつまり……」
『うん、傍目にはバナナを踏んづけて転んで頭をぶつけて死んだ……って思われている』
「……んぅぅぅぅぅ!!!!!」
なんだろう、かつてないレベルで恥ずかしい。死因など望んで得られるモノではないが、いくらなんでもコレはあんまりだろう。
羞恥心のあまり、いっそ殺してくれと彼は……あ、もう死んでいたか。
死人になっているおかげか、スーッと羞恥心が治まり、冷静になった。それはそれで今の己に気味の悪さを覚えた彼は、単刀直入に目の前の神様に尋ねた。
「あの、それで……俺は裁判とか受けるのですか?」
『裁判?』
首を傾げる神様(光の輪郭だけど、けっこう分かる)に、彼は言葉を続ける。
「ほら、閻魔様とか、そういうやつ……」
『あ、アレね、それなら大丈夫。というか、君は黄泉の国とかには行かないから』
「え?」
驚きに目を瞬かせる彼に注がれる、謎波動。
それあまりに便利過ぎないかと彼が思った時にはもう、彼は神様の言わんとする事を全て理解していた。
その内容とは、端的に言えば……彼の現状そのものがイレギュラーで、特別に対応しよう、というわけだ。
曰く、『80年に1人ぐらい、君みたいな子が出て来るから慣れているよ』とのこと。
で、その対応というのがずばり、『出来る限り要望を聞いて転生させる』というモノで……つまりは、さっさと済ませたいから要望言ってね……という感じであった。
──転生、そう、転生である。
なんかそんな感じの物語やら何やらをネットやら映画やら漫画やら何やらから見聞きしていた彼にとって、その二文字の意味を理解することは簡単であった。
小難しい理由とか、センチメンタルな事情とか、神様の超常的な意図とか、そんな事を気にする必要はない。
転生させて貰えるのだから、転生する……それで、良いではないか!
そう、結論を出した彼にはもう、迷いや不安などなかった。
──相手が神様であるならば、何時までもグダグダ喋っているわけにはいかない。
諸々の感情はひとまず横に置いといて、思考を切り替えた彼は……とりあえず、思いつくままを片っ端から答え、更に付け足し続けた。
『うん、他にはある?』
断られるのを前提にいっぱい答えたわけだが、神様は一つも拒否せず、同じ返答を繰り返した。
『もちろん、全部叶えられるわけじゃないから、色々と調整はするよ。さすがに、その世界のバランス崩すような生き物を意図的に生み出すわけにはいかないから』
気になって理由を尋ねてみれば、そんな返答をされた。
さすがは、神様だ。バランスを崩さなければ、だいたい叶えてくれるようだ。
己が思っているよりもずっと懐が深いことを察した彼は、それからも、とにかく片っ端から要望を言い続けた。
『──それで、他にはある?』
時間にして、おそらく20分程だろうか……さすがに思いつかなくなった彼が首を横に振れば、神様は分かったと言わんばかりに一つ頷いた。
『それじゃあ、これから君を転生させるね』
その言葉と共に、謎波動。つまり、この後に関する説明一部省略。
あまりに便利過ぎてちょっと内心引き掛けていたが、それが終わる頃には……現時点で分かる限りの今後を理解していた。
まず、転生先は彼が希望した『剣と魔法のファンタジー世界』ではなく、彼が生きてきた世界とだいたい似ている世界になった。
どうやら、ファンタジー系のそういう世界はかなり人気らしく、既に定員に達している世界ばかり。
いちおう空いている世界もあるらしいが、彼の常識では信じ難いレベルの弱肉強食であるらしく、そのうち世界ごと放棄されるらしいので却下。
次に、彼が希望した魔法だが……これは、一部だけ通るらしい。
どれが通るか等の詳細は実際に転生してからでないと分からない(曰く、いきなり詰め込むとほぼ100%不具合が出るとか)ので、一部だけ。
上手く行けば全部通るらしいが、無理なら行ける部分だけ通すらしいので、そこまで期待しないように……とのことだ。
つまり、全部を大まかにまとめると、だ。
要望として出した事を出来る限り叶えるが、叶えられない部分はある。その部分も実際に転生してからでないと分からないので、現時点では断言出来ない……といった感じだろうか。
後は……記憶に関してだが、これも実際にその時にならないと分からないらい。
いきなり表面化させると脳へのダメージが酷い事になるので、ある程度育ってから……おそらく10歳ぐらいまでに、フッと思い出すだろう……との事であった。
『それでは、転生致しますので……さようなら』
──ありがとうございます!
そう、声に出してお礼を言いたかったけれども、出来なかった。
そうするよりも前に、フッと意識が遠くなると同時に、彼自身がこの世界から消え……転生先の世界へと飛ばされたからであった。
『──次の方、どうぞ』
そして、神様もまた、何時までも過ぎ去った者に構っていられるわけではない。
なにせ、世界は無数にある。
いくら神様とはいえ、その全てを一つ一つ調べ上げ、今しがたの彼みたいな状況に陥ったイレギュラーを探すのは大変で。
下手に放置しておくと、システム全体に影響を及ぼしかねないので、無視しておくわけにもいかず……やれやれと、神様は今回も、次も、その次も、頑張るのであった。
……。
……。
…………で、だ。
ところ変わって、新たな世界。
剣と魔法のファンタジーな世界ではなく、アスファルトが敷き詰められ、電柱が等間隔で立ち、一人一つはスマホを持っていて当たり前な時代。
そんな、もしかしたら前世よりもちょっとハイテクに成っているのではと思ってしまうような現代社会へと転生を果たした彼だが……単刀直入に言おう。
(──はぁ?)
コレ、であった。
まあ、コレ、と言われても分からないのは当たり前なので、少しばかり補足しよう。
フッと記憶が蘇ったのは、自室。何時ものように起床した、その瞬間だ。
年齢は9歳で、特に不自由なところもなく学校に通っている。両親が健在で、7歳の弟が一人いる、4人家族である。
家庭環境は良好の一言であり、表面上(子供の目で見る限り)の異常は見られない。とりあえず、夫婦仲は良いように見える。
母は定期的にパートに出ているが家事全般はしっかり行い、父親も余裕がある時はゴミ出しぐらいなら手伝ってくれる。
弟は7歳でやんちゃ盛りながら、ちゃんと言い聞かせれば素直に言う事を聞いてくれる子だ。
そこまでは、いい。
そこまでなら、当たりである。
いや、諸々を考えたら『大当たり』である。
だが、しかし……その中で、一つだけ無視できない重大な問題があった。
「……っ!」
ハッと、蘇った記憶に混乱していた彼は、我に返る。
直後、布団を蹴飛ばして二段ベッド(下の段)から出た彼は、未だ深く寝入っている弟に光が当たらないよう、少しばかりカーテンを開けて……姿見の前に立った。
そこには──幼いながらも将来性を非常に予感させる美少女としか思えない子供が立っていた。
断言するが、贔屓目ではない。記憶が戻った直後だからこその、評価。男だった前世の感覚で下した正直な評価が、ソレであった。
「──っ!」
感覚的に、と同時に、これまでの記憶が、今の己の状態を正確に教えてくれていた。
見る必要などないし、調べる必要なんてない。
そんな事をしなくとも、理解していたから。どうしてそうなっているのかを、彼(?)は既に知っているから。
だが……それでも、藁にも縋る気持ちがあった。
いや、まさか、ただの勘違い──そんな思いで、彼(?)はガバッとパジャマのズボンをパンツごとずり下ろした。
次いで、がに股みたいな姿勢になりながらも、グイッと股間をよく見えるように鏡へと突き出して……言葉を失くした。
そこには──前世で慣れ親しんでいた相棒(笑)が無かった
あるのは、相棒にならなかった突起が一つ。がに股になったことで、ピタッと閉じた亀裂の下側には僅かばかり穴が開いて……つまりは、だ。
(……おっ)
彼(?)は、彼ではなくなっていて、彼女になっていたわけで。
(女の子になってるぅぅぅぅぅぅ────!?!?!?!?!?!!?!?!)
声にこそ出さなかったが……何時もの起床の時間になって、目覚ましが鳴るその瞬間まで……彼女は、変わり果てた己の身体を見つめる事しか出来なかった。
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