第8話 山岡家のラーメンを食べる

 深夜なのか早朝なのか午前四時ぐらいに家を出て車に乗る

 昨日から降り続く雨も少しずつ降りが弱くなってき

 朝には止むらしい

 運転を続けること約一時間、少し早い朝御飯ということで山岡家に向かう

 私が住むのは田舎なので24時間営業をしている店といえば、コンビニか牛丼チェーンぐらいしかない

 こんな時間にラーメンというのもどうかと思うが、違う選択肢があるということでは貴重なのだ

 雨がまだ降り続く中で看板と店の光が見えてきた

 車は店の前に一台止まっているだけのようだ

 自分も車を止めると、小雨の中を小走りで店の入口に向かう

 まずはこの券売機で食券を買わないといけない

 タッチパネル式の券売機には色々なラーメンがあるが、まあ、ネギ味噌ラーメンでいいかな?

 盛りは普通でいいな

 追加で餃子と半ライス

 支払いを現金にして、ジャラジャラと小銭をいれる

 小銭入れを車に忘れて札で支払い、釣り銭を小銭入れ入れてまた小銭入れを車に忘れて車を降りて買い物をする、などと自分に「落ち着け」と言い聞かせたくなるようなことをやらかしていた

 少し小銭を減らすことに成功して嬉しくなりながら、食券とサービス券を取って店内に入る

「いらっしゃいませ、空いてるカウンター席にお願いします」

 こちらを見ることもしない若い店員のお兄ちゃんの弱い声が聞こえた

 店のユニホームの黒いTシャツを着た二人の店員さんが下ごしらえをしているようだ

 入口直ぐ側のカウンターには運送会社の名前が入ったウインドブレーカーを着た人が、スマホを触りながらラーメンを食べている

 他に人いないみたい

 自分は、とりあえず少し奥のカウンター席についた

 すると、すぐに店員のお兄ちゃんが来た

「いらっしゃいませ、食券を失礼します」

 と言って、食券を確認する

 麺の硬さ、油の量、味の濃さは選べるようだけど、そんなに回数来たことがないので「全部普通で」と答えておく

 とりあえずセルフでお冷を取ってきて、いくつか離れた席にいる運送会社の人よろしくスマホをイジろうとポケットへ突っ込んだのだが、ない

 あーっ、車で充電中だったのでそのままにしてる

 仕方がないのでボーッとしてる

 カウンターなので厨房の様子が少し見える

 一人はネギを刻み、もう一人は私が頼んだメニューを作っている

 ふと思い立って、ズボンに入れてあるメモ帳と胸ポケットの黒ボールペンを取って、今日の予定と買うものを書き出してみた

 意外と大したものでもないな、などと考える

 そんな事をして待っていると、店員さんが餃子と半ライスを持ってきた

「お待たせしました」

 右から来ているから仕方がないとはいえ、右側から置くのだけど、置き方テキトー

 自分で餃子の皿と茶碗を並べ直している間にすぐに戻ってまたラーメンを持ってきた

「以上で御注文はお揃いですか?」

「はい」

「ではごゆっくりどうぞ」

 お互いに小さな弱い声で言い合う

 さて、食べますか

 ???

 コロチャー、少なくないか?

 前回来た時の半分以下に見える

 厚切りのチャーシュー一枚分はないのでは?

 まぁ、作った人による違いかな?などと自分を慰めつつ、箸をとる

 少し短い太目の麺をススル

 正直、醤油ラーメンの方が好きだが、この味がついたネギには味噌の方が合う気がする

 九州のラーメンのような豚骨スープに細麺を食べ慣れていると、味噌味と短い太目の麺はなかなかに新鮮だ

 ご飯をとる

 味噌味のラーメンとご飯がよく合う

 そのまま、餃子のタレを準備して餃子を一つ食べる

 そうそう、特別に何か普通と違う個性とかインパクトがあるわけではないが、美味しい

 これでいい、いや、これがいい、みたいな安心感がある

 ふと、右を見る

 運送会社の人は、何をそこまで一生懸命スマホを触っているのだろうか?

 ジロジロ見るのもどうかと思うし、そこまで興味もないのですぐに視線をラーメンへとお戻す

 レンゲでスープを一口

 味噌の濃い味が美味しい

 さらにネギを食べる

 シャキシャキとした食感とネギの香りが良い

 コロチャーは一つ一つ取るようなことをせずにスープと一緒にレンゲで掬って食べる

 うん、味噌のスープの中で噛むとチャーシューの味が感じられて美味い

 一気にラーメンを食べきる

 そして、改めて餃子をおかずにご飯を食べる

 ラーメンと餃子は好きなのだけど、餃子の味や少し焦がした皮の味、タレの強い酸味が口に残ると、ラーメンの味を分かりにくくしてしまう気がするので、ラーメンは単品で食べきってから餃子やご飯を食べるのが自分のやり方だ

 ご飯と餃子を食べきり、最後にお冷を一気に飲み切る

 ごちそうさまでした

 ボソボソと言いながら立ち上がる

 席を離れて外に出ると、降り続く雨は小降りになっていた

 上がるのもすぐだろう

 さて、出発するか

 

 

 

 

 

 

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今日も食べる 井上基一 @motoi1186

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