訳アリ男遊郭でアイドルマネージャーやってます

好葉

第1話 訳アリ男遊郭

私は懐かしい夢を見ていた。

沢山のスポットライトとは別の真暗な世界。

そこが私の居場所だった。


「私、…さんがマネージャーで良かった。今ね、人生で一番充実してる。ありがとう…、私のうたひめさ…ま。」


笑いかける女の子の影が徐々に薄れ、美しい女性が瞳に写る。

この美しい女性は今大人気の妓女ではる舞蝶(あげは)さんだ。


「導華(みちか)様、ごめんなさいね。疲れている時にちょっと話があって…いいかしら。」


「はい、大丈夫です。どうかしたんですか?」


困った様子の舞蝶さんを放ってはおけない。


「男妓楼も買い取らない?」


「………また随分急なお話ですね。」


「私達を救ってくれた店主様だから言ってるのよ。どうか…私達を救ってくれたようにあの方達も救ってあげて下さい。お願いします。」


舞蝶姉さんは深く頭を下げた。

美女に真剣に頼まれたら断れない。


「わかりました。だから顔を上げてください。」


男性は専門外だけどやる事はきっと変わらないだろう。

そう思い男妓楼を買い取る事にした。

そうして私は女妓楼と男妓楼の店主となったのだった。


暫く男妓楼に住み込みする事になった私は女妓楼を後に皆に別れを告げた。

舞蝶(あげは)さんは私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。


「お願いしますね。王女様。」




私が買い取った男妓楼は建物だけが無駄にデカく、ボロかった。

男妓楼も花街にあるのだが、ここだけ雰囲気が重い。

如何にも繁盛してないのがまるわかりだ。


「まぁ…あの時もこんな感じだったし、何とかなるか。」


気持ちを前向きに持ち店の中に入るが、中は薄暗く埃ぽい。

おまけに人の気配が無いときた。


「お邪魔します。」


一応、声を掛けるが自分の声が店の中に消えていった。

店を見違えただろうか?

引き返そうかと思った時、奥の部屋から人の声から聞こえてきた。


「俺は認めねぇ。俺達の国を滅ぼした王の娘が店主なんて。それが舞蝶(あげは)の紹介でもな。」


「認めないって言ってもねぇ。それは皆思ってるって。人間なんて死んでしまえってね。あぁ、一層殺してしまうのも手だよね。あははは~。」


これは…私が思った以上に手こずりそうだ。

今の話を聞いて私は彼らの正体に気付いた。

私達、人間を特に王族を毛嫌いするする種族は一つ、獣人族だ。

頭を抱えていると私の桃色の髪色とは別の艶のある黒髪が一房、肩から垂れてきたのが見えた。


「店主殿が聞き耳とは…。我が一族に食い殺されに来たか。」


甘く隠微な声が私の耳を刺激する。

体全体がゾクリッと震えた。


声の主は扉を大袈裟に開くと、部屋に入り優雅に椅子に座った。

長髪の黒髪は白い肌を際立たせ、キラキラと光る黄金の瞳は妙な威圧感を感じさせる。

そしてその整いすぎた美しい顔にあの声…。


「あぁ、それとも王女様とお呼びしたほうが?」


顔は妖艶に笑っているが、嫌味ぽい言い方だ。

如何にも嫌われているのが良くわかる。

理由は簡単、それは私の父である国王が獣人族の国を滅ぼしてしまったからである。


「いえ、勘当された身なので。」


勘当された瞬間に自分が歩んできた一つの人生を思い出し、我に返った頃には大金だけが私の元にあった。

その時に破格の値段で売られていた女妓楼を買い取り、私の居場所を確保したのだ。


「まずは自己紹介したいので広間にここに居る人達を集めて下さい。」


沈黙の後、長髪の男が二人に命令した。


「………叶羽(とわ)、店主殿の言う通りに。」


「はい、劉鳳(りゅうほう)様。行くよ~、牙狼(がろ)。」


「チッ…。」


美しいブロンドの髪の持つ彼が丁寧に頭を下げた。

彼が叶羽さんで、私にだけ聞こえるように舌打ちをした銀髪の褐色の肌を持つ青年が牙狼さんか。

そして私をその黄金の瞳で見つめているこの人が劉鳳さん。


「ご協力感謝します。劉鳳さんも来てくださいね。」


そう言って私は広間に向かった。

さて…ここから気張って行こうか!!


広間で待っているとゾロゾロと十歳~二十歳ぐらいの子達がやって来た。

幼さが残る子供達にはフサフサの動物の耳があり、青年達には耳(それ)が見えない。

恐らくここは噂で聞いた事がある獣人族だけで構成された遊郭なのだろう。

全員集まったのを確認し、自分の自己紹介する。


「初めまして、今日からここの店主になった導華(みちか)です。皆さんご存知だと思いますが、私は貴方方の獣龍国を滅ぼした江河国の王の娘です。王から勘当された身ですがその事実は変わりません。これから皆さんと生活していきますのでよろしくお願いします。」


私を見る目は様々で、わかりやすく睨みつけてくる者から怯え困惑する者まで様々だ。

まず今日はここで皆がどんな生活をしているか見守る事にした。


そして一日彼らと生活していて一番身を持ってわかった事があった。

人間…特に王族である私の事が大嫌いだということ。

廊下をすれ違うたびに、美男達からの罵倒の数々…。


「舞蝶さんの紹介だけあります。この仕事やりがいがありそうですよ。」



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