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しかし転校生からの質問に誰も答えようとしないので、隣に立っていた圭輔の顔をうかがった。


「説明してやれよ?」


「えっ。俺?」


びくりと仰け反る、赤茶色の短髪男。長身の彼を見上げながら、俺は眉根を寄せた。


「誰でもええけど。嫌なん?」


「ちゃうけどさ、Fは、ほら。ファンタジックのFや」


「はあ? だっさ。そんなださかった?」


「森也が説明しろ言うたんやんか」


「言うたけど。そんなんやった? 俺もっと違う単語やった気すんねんけど」


首を傾げる俺に向かって、圭輔は「気のせいや、ださくて悪かったな」と文句を連ねる。


うちの学年は人数が極端に少ないため、1クラスしかない。だから、クラス名など本来存在しないのだ。


Fは、小学生の時に圭輔たちが勝手に決めた非公式の呼び名である。


「三年ファンタジック組かあー。へえー」


露骨だな。棒読みの佐山に呆れながら、俺はこいつの顔って最近はやりの爬虫類顔だなあ、と関係のないことをぼんやりと考えていた。





数学の授業中。


ノートにシャーペンを走らせながら、俺は後ろに座る転校生を気にしていた。


今は物珍しいから人気者扱いだが、ほとぼりが冷めたとき彼はどんなポジションに収まるのだろうか。


「梶、お前は途中式書けって何回言わせるねん」


「おお、都留つる。いつの間に背後に」


頭上から降って来た声に驚いて顔を上げると、そこには数学担当かつクラス担任の姿があった。


「お前、聞いたぞ。また遅刻したらしいな。毎日毎日」


「朝弱いねんもん……」


「言い訳になるかあ」


彼が振り上げた巨大な三角定規を慌てて掴む。


「待った待った。ほら、あそこのアホが問題解けんくて困っとうで。行ったらな」


「誰がアホや」


俺の言葉が自分に向けられていると即座に理解したらしい。振り向いた圭輔から抗議の声が上がる。

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