第210話 黒崎との別れ ①

 アルテミスとレオンの最期を見届け、寂しさと安堵といった感情に包まれる面々――


 そんな中、ユリウスがアルセルシアに声をかける――



「逝ってしまいましたね…… 師匠先生……」


「ああ…… だが二人共…… 良い表情をしていたな」


「うん…… やっとその誇り高き魂が自由になれたんだ…… もう…… ゆっくりさせてあげないとね♪」


「その通り…… 二人共、悔いはないだろう―― なあ、イステリア――」


「ええ、そうですね。 父上――」


「姉様…… レオン…… どうか安らかに――」





「なんか…… 今更だけど本当に凄え人達だったなぁ……」


「ええ、本当に……」


 最高神や女神、閻魔兄妹だけでなく、セシリア達、他の戦士達も皆、改めて二人の…… そしてゼクスの残した言葉をしっかりと噛みしめていた。



 *     *     *



「ですが逆に言えば、貴方達の在り方が未熟であれば、またいつ第二第三の『災厄』が生まれるかわかりません――」


「そしてこれからは貴方達がこの時代を…… そして未来を築いていく…… そう考えると責任重大ですよ」



「こんだけ苦労して勝ち取った未来だ…… 精々簡単に腐らせたりすんなよ――」



 *     *     *



「託されたバトンの重みに押し潰されない様…… 私達も努力しないとですね――」


「だな――」

「ええ――」


 リリィの言葉に同意し、更なる研鑽を心に誓うセシリアとケイン。


「ふっ…… どいつもこいつも大きくなりおって…… 精々我も期待させてもらうぞ」


ぬしらの築く時代とやらをな――」




「―― 終わりましたねえ。 霧島君――」


「そうですねえ。 カエラさん――」


「なんだかとてつもなく長い一日でしたが…… やっと掴んだ平和です! 私達も頑張っていきましょう!」


「ええ、ですが…… 流石に少し位、病院のベッドで寝たいところですね」


「それは確かに…… とはいえ、まだまだやる事多そうですが……」


 そう、これから終戦における事後処理、負傷者の搬送、死者の弔い、その御家族のトータル的なケア、治安部の残り戦力を把握しての今後の為の隊の編成、整理等、やる事は山積みなのである。


 加えて各自、大戦の準備の為に滞っていた通常業務もこなしていかねばならないのだから……


 寧ろ本当に大変なのはこれからなのかもしれない……


 それはここにいる誰もが理解していた。



 そして――



「さて…… それじゃあ迎えのふねが来るまで僕等も一息いれようか…… ん? !!!!!っ」


 そう言って座り込んで休もうとした大王。


 だがここで大王をはじめ、その場にいる全員がほぼ同時にそれに気付き! そして驚愕する!


「黒崎君!!!」

「!!!! 修二!?」

「!!!!」

「!!!!」

「!!!!」


「え?」

「黒崎さん!?」


「シリウス!」

「シリウスさん!?」

「なっ!?」

「これは!?」



 なんと黒崎の身体が光に包まれ始めたのである!


 そう、まるでアルテミス達と同じ様に……


 そしてなんとか立ち上がるだけの気力は回復したのか、彼はゆっくりと立ち上がってはその口を開く――



「ふう…… なんとか二人を見送る分まではもってくれたか――」


「やはり君はっ!」


「…… 酷い男だね…… 君は――」


「ああ、自覚してる…… すまねえな…… 二人共――」


「……」


 先に旅立った三人に最高神や女神姉妹もそうであったが、薄々この事態を察していた閻魔兄妹……


 グライプスも何が起きているのか察している様であった……


 そしてそんな悲しく、寂しげな表情を浮かべる兄妹に対して謝罪する黒崎。


「は? なんなんですか!? これは!? どういう事ですか!? 黒崎さん!?」


 カエラをはじめ、それ以外の者達は最初は何が何だかわからないといった感じだったが、すぐに黒崎のこの現象の『原因』には想像がついてしまっていた。



「怪しいとは思っていたが…… 最後の作戦前、君が僕の『眼』の使用、その出力を上げさせずに途中で止めさせたのは、僕の力の温存……」


「だが実際はそれはただの口実で、真相はやっぱり『こういう事』だったのか……」


「いや、勿論それもありましたがね……」



 *     *     *



「『宝剣の裏技こいつを使ったからって俺の魂魄が消えるなんて事はねえよ』 『嘘じゃねぇ』――」


「…… 本当に?」




「どう? 兄上?」


「ふう……」


「確かに…… 『嘘はついてはいない』様だが…… やはりこの出力ではそれしかわからないな。 もっと深いところまでないわけには――」


「〜〜っ いい加減にしろ! 二人共!!」


「ユリウス! あんたは閻魔大王だろ!!」


「!!!」


「だったら!! 何を犠牲にしてでも!! 天界を!!! そして世界を救う事を優先しろ!!!」


「『そっちの覚悟』も決めろや!!!」




「まあ何度も言いますが、俺はくたばってやるつもりは毛頭ありませんがね!」


「それでもまあ、今までの事があるから作戦に支障が出ない様に、一回だけあんたの我儘を聞いて『眼』を使わせたんだ! ちゃんとあんたら兄妹に安心して! 思う存分に力を振るってもらう為に!!」


「こっちは筋を通したんだ! だったらあんたも大王としての本分を全うするのに!! その筋を通しやがれ!!」



 *     *     *



「宝剣の裏技の使用『だけ』ならぎりぎり耐えられる…… それは嘘ではない。 だが霊石による強化ブーストの上乗せ……」


「元々負担の大きいもの同士の重ね掛け…… こうなる事は目に見えていた……」


「だからこそ君は最後まで霊石の存在を隠していたわけだ…… 僕達に君を止めさせない為に」


「ま、実際こうでもしねえとあのクソ野郎はぶっ倒せなかったからな――」


「黒崎君……」



「…… この馬鹿が……」

「シリウス……」


 閻魔兄妹だけではない……


 女神姉妹もまた、もはやろくに言葉も出ないといった様子である……


 そんな中、リーズレットは急いで自身の通信機である場所へと連絡をとろうとしていた。


 兄である大王は彼女がどこと連絡をとろうとしているのか察しがついていた。


「リーズレット……」


「~~~~っ なんで出ないんだよ!!!」


「だったら!」



 全然繋がらない…… 珍しく苛立つリーズレット……


 そして恐らく『向こう』もかなりの修羅場で手が離せないのだろうと察したリーズレットは『彼女』の通信機に直接かけるのをやめ、彼女の担当区画の回線に連絡を試みる!


 そんな中、セシリア達も悲しげな表情で黒崎に声をかける――



「そうか…… また『大事なひと』を残して逝っちまうのか…… アンタ――」


「本当に貴方という人は……」


「変わらんな…… シリウス…… お主のそういうところは……」


「我は主のそういうところが…… 心底っ!!! 気にいらん!!!」


 激しく憤るグライプス!!


 なんだかんだ彼との付き合いが長く、またそんな彼の本質を理解もしていたグライプスであるからこそなのだろう。


 思うところは大きい様であった……


「グーちゃん……」


「ワリ―な。 ぐの丸…… リリィ、それに皆も――」


「シリウスさん……」

「…… くそったれが……」

「……」

「馬鹿者が……」


 もうどうしようもない……


 そんな気持からか皆、涙を堪えるだけで精一杯であった……



 だがそんな中!



「―― ざけんな――」


「!」


「ふざけんなっ!!! ふさけんなよ! アンタ! 『またそういう事』をするつもりですか!!!」


「少しは残される側の気持ちを考えろよ!!!!」


「霧島君……」


「達也……」


 普段の彼からは想像もつかない程にその怒りを露わにしたのは霧島であった!


 黒崎の胸倉に掴みかかり! その怒りを想いと共にぶつける霧島!



「だいいち!!! 京子さんはどうするつもりですか!?」


「アンタの帰りをずっと待ってるんですよ!」


「! …… やれやれ…… それを言われるとマジで返す言葉もねえな……」


「そっ! そうですよ! ここで黒崎さんに逝なくなられたら私達、彼女になんて言ったら!」


「それに…… 終わったら打ち上げもするって言ってたでしょ! なにがなんでも帰るんですよ! 『皆』で!!!」



 *     *     *



「依頼料はたんまりふんだくるつもりだ…… そんでもって、全部終わったら打ち上げだ!」


「だから勝手にくたばんじゃねえぞ!」


「必ず追いかけてこい! いいな!」


「ええ、勿論!」


「後で必ず追いつきます!」



 *     *     *



「悪いな…… カエラ――」


「悪いですむわけないでしょう!!!」


 今にも泣きそうな感じで大声で訴えかけるカエラ!


 どうしても納得がいかないといった感じである。


 霧島も同様だ。


 黒崎と出会い、共にチームを組んでから、まだおよそ一カ月程度しか経っていない……


 だが、一番身近で苦労を共にして、死線を潜ってきた彼等にとっては、過ごした時間以上に強い絆が生まれていたのである。


 そんな彼等だからこそ、どうしても納得がいかないでいるのである……



 そんな時!



「はい! こちら 七十七番治療区画 管制室!」


「! 繋がった! こちらリーズレット! 急いで葉原木京子に繋いで! 早く!」


「! リッ! リーズレット様!? 一体何が――」

「聞こえなかった? 早くしてって言ってるんだよ!!!」


 苛立ち、つい言葉を荒げてしまうリーズレット。


「しっ! 失礼しました!!! 少々お待ちください!」


 そう言って管制室は京子のいるエリアへと内線を繋ぎ、それに出た治療士へリーズレットからの連絡がきた事! 至急京子を出す様にと連絡がいった旨を伝えた後、リーズレットにと繋げるのであった!



 しかし……



 厳しい現実が言葉として返ってくる――







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