第193話 ゆっくり休んで……

 その無慈悲の黒き瘴光は、まるで全てを終わりにするかの如く閻魔の城へと迫りくる!


 突如として現れたその禍々しい巨大な光に閻魔の城だけでなくその城下、前線エリアでも戦士達の動揺が走る!



「!!!っなんだ!? あれは!?」


「黒い光!? まさか! 敵の主砲か何かか!?」


「とっ! とんでもない速さでこっちに迫ってきてるぞ!」


「メアリー司令!!!」


「!!!!っ これは…… この方角…… 例の塔から発せられてる!?」


 …… しかもこれは…… 開戦時に先代大王様とミリア様で跳ね返した敵の主砲の威力を遥かに上回っている!!


 それに先代様はまだもどっていないみたいだし……



 これは…… 無理ね……


 霧島君…… カエラさん…… そして黒崎さん……


 後の事は任せたわよ……



 メアリーやミリアだけではない――


 その場にいる誰しもが、もうこの絶望的な状況を覆せないと諦め、そして全ての想いを他の戦場にいる戦士達に託し、そして死を覚悟していた――































 その時!!!



 ズガアアアアアアアアアアアアン!!!!



「!!!!!!っ」

「なっ!!!!!」

「なっ! なんだ!?」

「メッ! メアリー司令! これは一体!?」

「わからないわ! 一体なにが!?――」


 突如! 塔と城とを繋ぐ直線状――

 そのライン上のある一定の座標までその黒き瘴気砲が近付いた時! 突如として巨大な白銀の扉、いや! ゲートの様な物が姿を現わす!


 まるで塔から放たれた瘴気砲を吸い込んでいるかの如き様相であった!



 それと同時に!!!



 ドガアアアアアアアアアアアアン!!!!



 なんと黒き塔…… 正確にはその跡地で今! 最後の決戦が行われている場でもあるその地に! 巨大な落雷の如く、先程の黒き瘴気砲が天より打ち落とされ! そして大爆発を引き起こす!!!



 バキィィィィィィィィィィィィィ!!!!



 そして砕け散る門!!!!



 閻魔の城 管制室――

 


「!!!っ 一体何が!?」


「わかりません! 突如として塔の方から常軌を逸したエネルギー反応がこの城に迫ってきたかと思えば今度はまるでそれを遮るかの様に巨大な門の様な物が現れた模様!」


「同時に攻撃の発信地に大規模な爆発が発生!」


「なんですって!?」


 なにがどうなってるの…… いや! テンパってる場合じゃないわ! とにかく今は状況把握を急がないと!


「場所の特定! 急いで!」


「はっ!」


 さらに不可解な事態が発生した事により、流石のミリアやその部下達も困惑しているものの、すぐに気持ちを切り替え、急いでこの事態の解析に挑む!


 そして――


「場所! 出ました! ここと塔とを結ぶ先およそ十キロ地点です! モニターに映します!」


「何も無いわね、その門みたいな物とやらも…… 一体何が……」


 あんな所に門が置かれたなんて話聞いていないし、それに先程の気配…… 明らかに女神様達が作る門よりも強い力を感じた……



 あの感じは…… 魔力?


 雫の仕業…… いや、いくら彼女でも流石にこんな芸当は出来ない筈……



「―― まさか!!!」



 グランゼウス要塞 管制室――



『―― 『門 特殊強化型フェアシュテルケン・ゲート』――』


「『災厄』は相手の負の感情を贄として瘴気を吸収する――」


「前大戦の話を聞いた限り、気も短そうだし追い込まれた奴なら今! 直接対峙している連中の戦意を折る意味でもこの様な暴挙に出る可能性は大いにあった――」


「それに天界下界問わず! レトロゲームから最新ゲーム! はたまたアニメや漫画まで! ありとあらゆる娯楽を制覇してきたわらわの勘を舐めるでない!」


「追い込まれたラスボスは形態変化や巨大化! 挙句の果てには、遠く離れた主人公サイドの関係者達にチート攻撃をかましてくるのは定番中の定番!」


「真のオタクである妾にかかればあんな陰湿脳筋デカブツ寄生虫野郎の心理を読む事等、容易い事じゃ!」


「妾はここに宣言する! オタクとニートに不可能はない!!!!」


「これは世界の心理じゃ! わははははは…… ぐふぅぅぅぅっ!!!!」


 前半の話はともかく、後半部分はよくわからない根拠の話を堂々と語るは『創まりの魔女』ことレティシア・ルーンライト!


 ゼクスとの激戦を繰り広げた弟である先代大王ことヴァラン・アルゼウムを回収し、転移術でここグランゼウス要塞にもどってきていたのであった。


 魔力結界の中で用意されたベッドに座り、特殊な茶を飲み、回復を促進しながらも元々満身創痍のボロボロの状態――


 調子に乗ってハイテンションに大声を上げて血反吐を吐き散らす始末であった――


「馬鹿言ってないで回復に専念なさい! はい! 魔茶! これ飲んで!」


「またか! うう…… 苦いのは嫌なのに」


「我儘言わない! これで最後だから!」


「うぅ!!!」


 見た目メチャクチャ濃そうな緑茶にも見えるその飲み物は魔女専用の回復薬で、多少とはいえ魔力と体力を同時に回復できる優れもの――


 ちなみにとんでもなく苦い。


 事前に用意していた久藤雫は、少しでもレティの容体を回復させようと彼女に半ば無理矢理それを飲ます。


 ちなみに二杯目である。


「!!!っ にっが!!!」


「しょうがないでしょ! 全く!」


「―― とはいえ実際にここまで『災厄』の動きを読み切っていただなんて…… ニートを認める訳にはいかないけど流石ね! おばあちゃん!」


「ま、あくまで可能性の一つとして考慮していただけじゃがな――」


「あれは女神様達の作った『門』とはまた、ちがう術なの?」


「いや、ベースは同じものじゃ。 それを妾は透視化の魔術、それにサイズと強度を限界まで引き上げた状態でカスタマイズ! ついでにデザインも変えて、それをこっそり配備しとっただけじゃよ」


「だけって……」


 そもそも転移術といい門といい本来は女神様にしか扱えない神術――


 それを独自で覚え、門に到ってはオリジナルの改造を施している……


 怖い位の才能…… こと術に関してなら下手したら女神様以上の才かもしれない……


 身体が悪くなかったら、それこそ天界最強だったかもしれない程の実力――


 我ながらとんでもない人を師匠にもったものだわ――



「でも師匠。 本当にもう無茶はしないで。 魔力もしばらくは使用禁止! 今はとにかく休んで!」


「わかっておる。 もう妾には力は残されておらんしな…… じゃがその前に雫よ――」


「さっきも言ったが、用意できた門は塔と城とを結ぶ直線状に一つ、それとこっちに放たれる可能性も捨てきれなかった故、塔からこの要塞の直線状にも一つ――」


「それとそれぞれの門から通じてる『返し用』に用意したのがそれぞれ一つずつの計四つ――」


「現にそうなったが、一つにつき耐えられるのは精々一発が限度――」


「もう一度、城に放たれたらアウトじゃし、当然この後、要塞の方にも撃たれたら防げるのは一回限りじゃ」


「それ以上の攻撃がきたら、もう諦めるしかないからの…… その辺は覚悟しておけ」


「―― そうね…… わかってるわ。 でも――」


「うむ。 恐らくそれが来た時は奴等が全滅して世界の終わりが決定的なものになってしまった時――」


「とはいっても、このチャンスを活かしきれない奴等でもなかろう。 どっちにしろ、恐らくもう決着がつく。 後は信じて待っているがよい」


「では妾はもう寝るぞ。 流石にもう限界じゃしの」


「世界が残ってたら、また後でな。 雫よ」


「当然残ってるわよ。 本当に色々ありがとう……」


「後の事は任せて…… おやすみ。 おばあちゃん――」


「ああ、おやすみ。 雫――」


 そう言ってレティはそのまま気絶するかの様に眠りについた――



 ふう……



 全く…… 普段はアレなクセに、今回ばかりは頑張りすぎよ、 おばあちゃん……



 でも本当にお疲れ様……



 とにかく今はゆっくり休んで――



 また元気な姿を見せてね……



「さあ! 貴方達! 塔からの攻撃に警戒しつつ、引き続き怪我人の収容を再開するわよ!」


「イエス・マム!」

「イエス・マム!」

「イエス・マム!」

「イエス・マム!」



 閻魔の城 管制室――



「やれやれ…… どうやら馬鹿姉にとんでもない程でかい借りをつくってしまった様だな――」


「!!!っ あなた! よかった! 無事だったのね!」


 ここで必要最低限レベルだが、治療をすませた先代大王が、要塞内の特殊区画にあった緊急時用の、要塞と城とを結んであった門を通じて城への帰還を果たす!


「ああ、心配かけてすまなかったな、ミリアよ。 他の者達もよく持ち堪えてくれた」


「先代様!」

「先代様!」

「先代様!」

「先代様!」


「あなた…… という事は、さっきのはやっぱりお義姉様お姉様が!?」


「ああ、とりあえず何があったかを説明させてもらう――」



 こうして『創まりの魔女』の活躍により、首の皮一枚で、その命を繋ぎ止める事ができた閻魔の城の面々――



 そして――



『災厄』との決戦もまた、その戦況が大きく変わろうとしていた!




 


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