第150話 『伝説』VS 五万の敵兵達!!

 霧島とカエラがガラン、イリアとの戦いを終えた同時刻……


 そこから北東 約三十キロの上空地点――


 そこで、たった一機で無数の飛行型魔獣や中型戦艦を相手に、目標ポイントを目指しつつ敵軍を撃ち落としているガンシップが一機!


 霧崎恭弥、サアラ夫妻であった!


 諜報部 室長であり盟友 久藤雫の指示で最後の敵兵生成装置を破壊するべく、二時間近く前から全速力でグランゼウス要塞から飛び立ったはいいが、途中から敵兵からの妨害が極めて激しくなってきていた!


 無数の敵兵を相手に必要最低限の手間で迎撃しつつ、目標ポイントへ向かっているのは流石の手際だったが、執拗な敵軍の攻撃の嵐に大幅に到着予定時間を過ぎてしまっていたのだった!



「でかい霊圧が二つ消えた…… 片方は覚えがある…… 恐らくガラン・ズールだ」


「もう片方も同じ位強そうな気配だったから、多分イリア・セイレスって女ね」


「だろうな。 復旧した通信機器から入った情報だと、あのキースってのは大王様がボコボコにブチのめした挙句、塵一つ残さず消し炭にしたって話だからな」


「よりにもよってあの方を怒らせるなんて……」


「ああ、マジで馬鹿な奴もいたもんだ」


「ガラン達と対峙してた霊圧は達っちゃんとカエラちゃんよね?」


「ああ、間違いねえ! 『色々な意味』で大分危うかったみてーだが、なんとか乗り越えたか」


「加勢に行ける状況でもねえし、ガラン達と鉢合わせになった時はどうしたもんかと思ったが……」


「へっ どうやら一皮むけたみてーだな!」


「やるじゃねーか! 二人共!」


「ええ! 本当によく頑張ったわね! あの子達!」


「別行動をとって例の塔に向かっていった反応が一つ…… これ多分シリウスの旦那だよな?」


「ええ、恐らく…… ちゃんとあの人を塔に送れたみたいね」


「旦那が復活したって聞いた時は俺らも度肝抜かれたけどなあ! ああ~! 会いて~なあ! 久々に旦那と飲み明かしてえ~!」


「私もよ! その為には互いに生き残らなきゃいけないんだけど……」














































「ドン引きする位、敵が多いわね!!!」


「本ッ当~! それな! 途中からこれでもかって位に妨害してくるしよ! まあ、おかげでダミーの心配はねえって事だが……」


「にしてもこれ! 多勢に無勢にも程があんだろ! 大幅に時間ロスしちまってるしよ! ああ、もうウゼーなぁ!!」


「大分時間食ったけど、増援の生成装置のポイントってこの辺のはずなんだけど…… !!! あなた! あれじゃない!? 九時の方向!」


「なに!?」


 サアラの指した方向を恭弥が確認すると、そこには夥しい瘴気が収束している何かの装置の様なもの……


 全長四百メートル程の角ばったビルの様な物質があった!


 そしてそれを守るかの様に、やたらと集まっている敵兵達の姿もあった!


「間違いねえ! よし! サアラ! このまま……」


 恭弥が艦の方向を変えようとしたその瞬間!


『それ』は遂に起こってしまった!


 装置の頂点に収束していた瘴気が、そこを中心に周囲へと弾ける様に展開される!


「! やべっ!!」


 そのあまりの瘴気に艦が煽られ、バランスを崩しかけるが何とか立て直す恭弥!


 だが次の瞬間! 


 二人は地獄絵図の様な光景を目の当たりにする!


「!!!」

「!!!」


「ちっ!」

「遅かったみたいね!」


 装置を中心に二人の想像を遥かに超える敵兵の生成が完了してしまったのだ!


「!! おいおいおい! 冗談だろう!?」

「これは…… 流石にちょっとやばそうね……」


「くそ! サアラ! 一旦距離をとるぞ!」

「ええ!」


 そう言って周囲の飛行型魔獣や空挺の攻撃を捌きつつ、敵の包囲網の少しでも薄い所へと移動する二人!


 だがもはや周囲に安全圏等、存在しなかった……


 だからといって、この状況を放置するわけにもいかず、何よりただで撤退できる状況でもなくなっていた……



 覚悟を決める恭弥……



「…… サアラ…… 適当なとこで俺だけ降ろせ…… 何とか注意を引くからお前はもどって応援を……」

「馬鹿言ってんじゃないわよ」


 恭弥が言い切る前に口を挟むサアラ。


「いくらあなたでも、たった一人でどうにかできる数じゃないでしょ! 今から応援呼んでも間に合わないわ」


「下手くそな理由つけて私一人だけ逃がそうとしないでくれる?」


「あなた一人犠牲にしてまで自分だけ助かるなんて私は死んでもごめんよ!」


「次くだらない事言ったら前歯へし折るから……」


「サアラ……」


 普段は冗談めかしてお茶らけているサアラも今回は真剣な面持ちで恭弥に訴える。


 彼の性格を熟知している…… 何より彼を愛しているから……


 そんな彼女の覚悟に、恭弥も本当の意味で覚悟を決める。



「だーーーー! もう! わかったよ! ったく! 少しは旦那に格好つけさせてほしいもんだね!」


「あら♪ あなたはいつだって格好良いわよ♡」


「! へっ! そいつはどーも!」


「サアラ…… 言っとくが、ガチで死ぬ可能性の方が圧倒的にたけーぞ」


「でしょうね。 このレーダーに映ってる数…… 四万…… いえ、五万はいるわ」


「宙を飛び交ってる連中も含めるともう一万近くってとこかしらね」


「シリウスさん達とアルセルシア様が残りの援軍装置を潰してくれてなかったらと思うとゾっとするわ……」


「全くだぜ」


 実際その通りである。


 開戦時の戦力差は敵軍がこちらの約五倍、潰した敵兵生成装置は四つ……


 もし、それらが早い段階で潰せていなかったら、この大戦の結果は火を見るよりも明らかであったからだ。


「普通に考えたら生きて帰れる可能性はゼロ…… だけど私と貴方が二人で戦えば生き残れる可能性は数パーセント位は出てくるんじゃない?」


「良い漢なんだから素敵な幸運も引っ張ってきてよね! あなた♪」


「やれやれ…… とんだ無茶振りかましてくるねえ! ハニー♪」


「わかったよ。 野暮な事は言いっこなしだ!」


「そうだよな! 俺とハニーが組めば最強無敵だからな!」


「戦が終わったら達也と会う約束もしてるし……」


「連中を一人残らずブチのめして! かつ! 俺達も! ちゃんと生きて帰るぞ! サアラ!」


「勿論よ! あなた!」


「よし! そしたらサアラ――」


 サアラと即座に作戦をたて、『準備ができるまでの数分の間』敵兵を少しでも多く自分達の乗るガンシップの周囲に集められるだけ集めてから猛スピードで生成装置に向かって突っ込む二人!


 恭弥は左手だけで操舵しつつ、自身の大型銃剣を『大砲キャノンモード』に切り替え、右手で構えてその銃口を天井に向けていた。


 そして艦内にアナウンスが流れる。


「自爆モード発動―― 爆破まで後二〇秒―― 一九、一八……」


「準備はいいか! サアラ!?」


「いつでもOKよ! あなた!」


「よし! それじゃあ……」


「いっくぞおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」




「!! おっ! おい! あれ!」

「こっ! こっちに突っ込んでくるぞ!」

「にっ! 逃げろおおおおおおお!!!!」


 動揺する装置の周囲にいる敵兵達!


 そして恭弥は右手一本で、銃剣で極太レーザーを天に向かって発射する!


 大穴を開けられる天井! そして!


「今だ! 飛べ! サアラ!」

「ええ!」


 フルパワーで障壁を展開しながら開いた大穴を経由して、思いっきり上空へと飛び立つ恭弥とサアラ!


 そして無人となったガンシップはそのまま装置に向かって敵兵達を巻き込んで大爆発を起こす!


「ぎゃああああああああああ!!!!!!」

「ああああああああああああ!!!!!!」

「うあああああああああああ!!!!!!」


 凄まじい大爆発と共に、たっぷり引き連れられた敵兵達も巻き込まれ、辺りは木っ端微塵と化していく!


 信じられない程の跳躍と障壁で何とか無事で済んでいる恭弥とサアラだったがその大規模な爆風で更に上空へと吹き飛ばされ、このまま地に落ちたら即死は免れない状態であった!


 だがそんな状況も二人は冷静に対処する!



「捕まれ! サアラ!」

「ええ! あなた!」


 互いに障壁を展開したまま、サアラの左手を自身の左手で掴む恭弥!


 そのままサアラを自身に抱き寄せ、地へ向けて叩きつけられる手前で、銃剣を持った右手側の肘を曲げ、腹筋でブレない様に固定しつつ、レーザーを発射する恭弥!


 その威力と、そこで生じた爆風で落下速度を抑え、再度僅かに浮上する事で墜落死を免れる二人!


 ズガアアァァァァァン! と多少、最後の着地は失敗したが無傷で事なきを得た恭弥とサアラ。



「痛つつつ…… 大丈夫か! サアラ!」


「あたた…… ええ、おかげ様でね!」


 ゆっくりと立ち上がり、周囲の状況を確認する二人。



「…… ぱっと見、一万位は減らせたか?」


「そうね。 残り五万弱……」


「ま、最初の一手としては上出来か」


 二人がそう話していると恭弥の携帯通信機に着信が入る。


 周囲を警戒しながら、それに出る恭弥。


 通信先は現在、要塞 管制室にいる久藤雫の携帯通信機からであった。


「もしもし! 恭弥!?」


「雫か!」


「ええ! 無事!? あなた達! そこから異常な程の多量の霊子反応を確認したわ! どうやら間に合わなかったみたいね! そこはもういいから、もどってこれそう!? 無理ならなんとかして応援を……」

「あ~、雫…… 敵の生成装置自体はなんとか今破壊できたが間に合わなかったわ。 だからその落とし前はキッチリつけて帰るから、お前はそっちに専念しとけ」


「なっ!? 何馬鹿な事言ってるの!!! いくらあなた達でも、たった二人でそんな数を相手にできるわけないでしょ!」


 声を荒げる久藤!


「いいからもどってきなさい! これは上官命令よ! 聞いているの!? 恭弥! サアラも! 早くそこから……」

「雫!」

「!!」


 久藤の声を遮るかの様に声を発する恭弥!


「そっちは頼んだ……」

「! 恭弥っ!」


「ここを抑えらんなきゃこの戦、恐らくウチらの負けだ……」


「ダーイジョーブ! 心配すんな! 俺らが『二人だけの時の強さ』は知ってんだろ!」


「こっちは任せな!」


「お前はお前の仕事をしろ…… 頼んだぞ」


 そう言い終えて一方的に通信を切る恭弥。


「! ちょっ! 恭弥!? サアラ!? もしもし!? もしもし!?」




 グランゼウス要塞 管制室――




「くっ! あの馬鹿夫婦! カッコつけてんじゃないわよ!」


「室長……」


「各エリアの状況、戦力! 急いで報告! 早く!」


「! はっ! はい!」


 心配する部下に指示を飛ばす久藤!



 何としても誰か応援を! くっ! 今からじゃイステリア様の空間移動を使っていただくしか! でもどこの誰を!? どこも手一杯!


 恭弥…… サアラ! 絶対にあなた達を死なせないわよ!






















「やれやれ…… 珍しく余裕がなくなってきておる様じゃのう。 雫よ」


「! あなたは! どうしてここに!?」 


 どこからともなく『突然久藤の背後に現れた』白い白衣の様なものを羽織った長い白髪の女性が彼女に声を掛ける……


 人の外見上で言ったら、十代後半位の年齢にも見える突然現れたその女性に対して驚きを隠せない管制室の面々……



「周りの友人連中共がうるさくて敵わんからな…… 今回ばかりは、流石のお主でも大分苦戦しておる様だし……」


「しょうがないからわらわも手伝ってやる」


「各地の状況を説明せい! 雫よ!」


お師匠様先生…… はいっ!!」




 敵兵生成装置ポイント――




 敵の大軍と対峙する恭弥とサアラ……


 生き残った敵兵達が、二人に対して激しい怒りと憎悪をぶつける!



「テメーら! やってくれたなあ!!! 生きて帰れると思うなよ!」


「ハッ! 『伝説』だか何だか知らねえが、たった二人で何ができる!?」


「ほう。 生まれたばかりだが状況を理解している…… やっぱ生成されるのと同時にこれまでのデータも送られるって事か」


「そうみたいね」


「おい! 聞いてんのかテメーら! 舐めた真似しやがって!」


「ああ! うるせーなあ! 聞こえてるよ! 『何ができるか』だと…… んなもん……」





「テメーら全員…… 一人残らず! ぶっ潰す事ができるに決まってんだろ……」


 ギン! と敵兵共を睨みつける恭弥!


「なっ!」

「ひっ!」

「うぅ……」

「くっ!」


 普段の温和な恭弥とは、一線を画すかの様な冷酷な眼差しと、その殺気に怯む敵兵達!


 あまりの殺気に、それだけで気絶しそうになる者達まで出てくる程であった!



「テメーらこそ……」


「誰に啖呵たんか切ってるか、わかってんだろーな……」



「!!! うう……」

「なっ! なんなんだよ! あいつのあの迫力はっ!!」

「こっ! こっちは五万の兵がいんだぞ!」



「それがどーした…… 喧嘩は数じゃねーんだよ……」 


「何百万人でもかかってくるがいいさ!」


「生きて帰れねえのは……」


「テメーらの方だぁ!!」



 こうして『伝説』達の最後の戦いが始まった!

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