第149話 塔の前の死闘! 完

「!」


「その光は!」


「アランとやり合った時に見たんだろ? アタシ達は全員、肉体が滅んじまって魂魄と瘴気を融合させて無理矢理永らえてる状態だ」


「致命傷は即ち魂魄の完全消滅…… もう時間みたいだね……」


「元々傷は深かった上に、そこの坊やが容赦なく、ブチかましてくれたからねぇ……」


「イリアさん……」


「……」


 その様子を納得いかず苦しそうな表情で見つめるカエラと霧島……

 

「やれやれ…… 情けない表情かおするねえ。 自分達で倒した敵に向ける表情かねえ?」


「…… そんな単純には割り切れませんよ……」


「ええ…… 本当に……」


 自分達の手で倒した相手とはいえ…… 


『悪』にはちがいなく、大勢の命を奪ってきた者とはいえ…… 


 それでも!


 そんな気持ちが二人の中を駆け巡る……


「…… おい霧島あんた…… 女は手にかけない主義って言ってたけど、今までただの一人も本当に殺した事はないのかい?」


「…… 今のところは……」


「ハっ! じゃあアタシが第一号ってわけかい! どうだい? 自分の主義に反して女を自らの手であやめちまった気分は!?」


「イリアさん…… 貴方という人は!」


 そんな言い方をするイリアに食って掛かろうとするカエラを制する霧島。


 そして霧島はイリアの瞳を見て真っすぐとその質問に応える……


「背負いますよ…… その事実を」


「!」


「僕の未熟さが招いてしまった結果…… 否定するつもりはないしこれからも厄介なレベルの案件が舞い込んだら、今後も僕の主義は貫き通せない事もあるかもしれません」


「それでも僕は極力女性を殺めるつもりはないし、今後また『同様の結果』が起こったとしても……」








































「逃げないで背負います」


「!」


 ハッタリではない本物の覚悟をその瞳に漂わせる霧島……


 そして彼の横にいるカエラも同様の覚悟でイリアを見つめる…… 



 …… このガキ共……



「すみません……」


「霧島君……」


「~~~~っ 謝るんじゃないよ! 本当にムカつく坊や達だね!」


「…… ガラン! あんたはどうするんだい!? 片腕イカれてもまだ元気そうだけど……」


「いや…… ダメージも酷い。 これ以上長居しても、こいつらの足止めすら満足にできんだろう」


「なんだかんだ長い事コンビを組まされた縁だ…… 最期も…… 共に逝くか?」


「! はは! 勘がいいねえ! アタシの言いたい事がわかっていたとはねえ!」


「あんたのそういうとこ、嫌いじゃなかったよ!」


「ふっ それは光栄だ」


「! 何をするつもりですか!」


「あんたらみたいな甘ちゃんなんかの手で殺られたってなるのは、やっぱり我慢できなくてねえ!」


「そんな屈辱味わう位なら『こうしてやる』よ!」


 イリアがそう言うとガランは左手を胸に添え、自身の胸部…… 本来なら心臓がある場所へ向けて霊力を送り始め、『そのスイッチ』を入れる!


 するとガランの身体はイリアのそれよりも激しい光に包まれ、強大な霊力が彼の身体から発せられ始めた!


 そしてイリアを左手で起こし肩を貸す形で彼女の身体を支えるガラン……


「ガランさん!」


「悪いがこれも我等のアルテミス様あの方への最期の忠誠の証!」


「ついでにあんた達も無力化させてもらうよ!」


「言ったはずだ! アタシ達はメインの武器を失っても非常時用の仕込みがあるってね!」


「アタシのはさっき見せた爆発手袋…… ガランのは……」


「! まさか……」


「自爆!?」


「その通り…… 左右どちらからでも、この装甲手ガントレットを通して予め胸部に埋め込んでおいた爆弾に霊力を送ると起動スイッチが入る仕組みになっていてな」


「馬鹿な真似はやめて下さい!」


「おっと! 下手な刺激は与えない方がいいよ! その瞬間ドカンといくから!」


「それに一度スイッチを起動したら止めるのは不可能だ」


「『死ぬ気でガードするか逃げるかしたら、もしかしたら助かる』かもねえ!」


「くっ!」


「いけない! 下がって障壁を展開しましょう! 霧島君!」


「! …… くそっ!!!」


 二人共納得いかないがもう手遅れ…… カエラを守る為、自身もボロボロながらも急いで彼女を抱えて離れていく霧島!


 そして二百メートル位離れた所で、もう時間がないと判断し、これ以上距離をとるのを諦め、霧島は障壁の準備に取り掛かる!


 カエラを後ろへ寝かせ、自身は膝立ちで態勢を低くし、正面に鎌の柄の部分を地面にさし立て、そこに全霊力を注ぎ込み、フルパワーで障壁を展開する霧島!




 そしてその様子を遠くからじっと見つめるガランとイリア……


























































「『これ』でよかったのか?」


「ああ…… ホント理解が早くて助かるよ」


「やれやれ……」


「お前も奴等の甘さが移ったか?」


「! どうだろうねえ…… アタシにもわからないよ」


「ただ二人共、あの眼…… 一応『覚悟は本物』みたいだったし、だったらアタシがこの傷で死んでも奴等はすぐに立ち直るだろうし、それで死んでもただ面白くないだけだからねえ……」


「あんたこそ、アタシに付き合わせる形になっちまって、マジで悪かったね…… 本当はそれなりにはまだ戦えるんだろ?」


「別に嘘はついていない。 この傷じゃ自分の満足のいく戦いはできないからな」


「それに…… 何だかんだ言っても一人は苦手だろう?」


「お前を一人では逝かせんさ」


 そう優しくイリアに微笑むガラン。


「!! ~~ ったく! 好き勝手言いやがって!」


「あ~あ…… やっぱ一回位、抱いておくんだったね…… あんたの事……」


「俺なんかでは釣り合わんさ。 光栄だがな……」


「…… 馬鹿な漢だね…… あんたも……」


「…… 今までありがとな」


「こちらこそだ」


「お前とバディを組めた事…… 誇りに思う……」


「アタシもだよ……」


 これから迎える絶対的な消滅を前にして、全てを出し切り、満足したといった表情を浮かべるガランとイリア……


 そしてそんな二人を無情にも包む光が激しさを増し収束していく!



 …… そして!




































 カッと大きな光と共に辺りを大爆発が襲う!!


 その爆発で周辺の岩壁等も吹き飛び、辺りは、ほぼ更地と化してしまう!




 大きな爆煙が段々と収まってくると、中から二つの影が見えてくる……




「~~ 霧島君! 無事ですか!?」


「ええ…… 何とか」


 障壁のおかげで何とか助かった霧島とカエラ……


 そして……


 二つの霊圧の完全なる消失も確認する……


「……」

「……」


 複雑な心境の二人……


 そして二人は助かったと同時に奇妙な違和感を覚えていた……


 それをカエラが口にする……



「なんか…… 気のせいでしょうか? 確かに凄い爆発でしたけど思ってた程では……」




 *     *     *



「『死ぬ気でガードするか逃げるかしたら、もしかしたら助かる』かもねえ!」



 *     *     *




「霧島君…… もしかしてあの二人……」


 わざと…… 爆発の威力を弱めた?


「…… わかりません…… けど、そうかもしれないですね……」


「だとしたら…… 人の事、散々甘ちゃんだのなんだの言ってましたけど……」


「人の事言えないですよね…… 貴方達も……」


 そう言って悲しい瞳で爆発した所の先を見つめる霧島……


「霧島君……」


「もっと別の形で…… あの人達が悲劇に見舞われるより先に出会えていたら……」


「敵同士にならなくて済んだんですかね?」


「…… それはわかりません…… 悪にこそ堕ちていましたが、根っこの部分まで完全に悪だったかは私には何とも……」


「カエラさん…… とりあえず手当てしましょうか……」


「! はい…… そうですね……」


 とりあえず二人は保管用のPSリングから治療薬と包帯等を取り出し、それらを使用しつつ、治療士ではないので、あくまで初歩的なレベルではあるが二人共、治療術も使えるので互いにかけ合い、しばらく体力の回復を図る霧島とカエラ……


 特に霧島は左手を骨折、カエラは腹部が重傷だった為、そこを念入りに治療する……




「カエラさん、さっきは助かりました…… 本当にありがとうございます」


「いえ、そんな……」


「情けないですよねえ…… 恭弥さんおじいちゃんの手紙でも言われてたのに簡単に怒りと憎しみに支配されたり、敵に同情されて自決されたかもしれなかったり……」


「霧島君……」


「…… こんなに後味の悪い戦いは生まれて初めてかもしれません」


「僕…… 自分で言うのもなんですけど、もっと自分の事強いと思ってたんですけどねえ」


「あまり強さには執着してこなかった方でしたが…… 今回は流石に格好悪すぎでしたよねえ」


「そんな事ありません! 霧島君は強いです!」


「私達の世代の中じゃ最強クラスですよ! 多分!」


「それに相手は敵の主力で、元々格上の二人相手でしたし、確かに危ない力でしたけど、あそこで力を発揮してくれたから、私は今生きています!」


「それにその後、ちゃんと元にもどれたじゃないですか!」


「それはカエラさんが止めてくれたからで……」


「言ったでしょう…… 誰かがピンチになったら他の誰かが助ければいい」


「それも一つの強さの在り方だって」


「それでも…… もっと強くなりたいんですよね? 私だって同じです!」


「だったら! 強くなるのも一人でなくてもいいんです!」


「一人で強くなるのが難しかったら一緒に強くなっていけばいいんです!」


「そうやってゆっくりでも…… それでも…… しっかりと前へ!」


「チートな人達だって、なにも最初からあの強さだったわけではないでしょうし、きっと色んな人達のおかげであそこまで強くなったはずですから!」


「だから私達も! しっかりと前を向いていきましょう!」


 まるで自分にも言い聞かせているかの様に霧島を励ますカエラ。


 いや、実際そうなのだろう……


 これ以上の悲劇を極力生みださない為にも自分達ももっと強くならなければならない……


 今回の戦いで二人はそれを強く痛感してしまったのだから……



「カエラさん…… そうですね!」


「ゆっくりでも…… それでもしっかりと前へ! ですね!」


「そうです! 一緒に強くなりましょう!」


「ええ…… カエラさん」


 悲しみ…… 決意…… 力強さ……


 色々な感情をその瞳に宿し、二人は一歩一歩! 前へと進む事を決意する。


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