第147話 塔の前の死闘! ④
「あんたらがどこまで知ってるかは知らねえが、アタシは昔、両親から虐待を受けていた……」
「いや、虐待なんて代物じゃなかったねえ…… なんせ父親の方は母親だけじゃ飽き足らず娘であるアタシの方も性の捌け口にしてたんだからねえ」
「!」
「!」
「んでもって母親は母親で
「両親共にぶち殺してやろうかとも思ったが所詮非力な小娘…… 反撃したり、気にくわない目つきで睨んだらもっと痛い目にあった」
「悔しいがアタシは自分のプライドや扱いなんかよりも、今はまず生き残る事を優先する事にした」
「そしていつか力をつけ…… アタシの手で両親を殺すつもりだった……」
「そんな時…… 連中が…… 死神事務所の連中が近所からの通報で出向いてきやがった」
「まあ毎日毎日、大分騒がしかったからねえ。 流石にご近所連中も様子がおかしいと思ったんだろ」
「んでもって両親は事務所の連中が拘束、元々仕事が上手くいかなかったりとかのストレスでまともな精神状態じゃなく、事情聴取もろくに進まなかった事も含め、まずは精神科の医者がカウンセリングしたりと心的ケアをしつつ、ある程度マシな状態になってから更生施設に入れつつ、改めて罪を償わせる方針にした……」
「勿論アタシにも色々と心身のケアや両親と離れて暮らす為に児童養護施設の手配やら何やら必死に取り組んでくれていたよ」
「だがアタシは感謝の気持ちは一切なかった! なんでもっと早く助けてくれなかった! 何でもっと早く気付いてくれなかった! そして……」
「何であんな両親に更生の機会を与えている!?」
「何故、問答無用で処刑しない!?」
「甘っちょろい法にクズ共が守られ、こっちはただ自己満足のエセ正義心で頼んでもいない形だけのケアを行い、救ったつもりで満足していやがる!」
「だけどアタシは矛盾してるが同時に感謝もしたよ…… 勝手に両親を処刑しないでいてくれた事に……」
「アタシが両親を殺す為の準備をする時間をくれたんだからね!」
「アタシは死神養成学校へ入る事を決めた…… 手っ取り早く戦闘技術を身に着けられるし、免許を持っていれば地獄行きのクズ共を適当な名目をでっちあげてシバキ上げる事もできるだろうからね! まあ、ただのストレス発散でもあったが……」
「実際、養成学校を卒業した後、アタシは積極的に任務を請け負った。 特に激しい戦闘が予想されそうな案件なんかは首を突っ込みまくった! とにかく実戦経験を積んで早く強くなりたかったからな……」
「そうして死神になって数年…… それなりに力をつけてきたアタシはそろそろ両親を殺しに動こうかと思い、奴等の居場所を調べ始めた……」
「風の噂じゃ両親は更生して今も罪を償いながら、仕事にも真面目に取り組んでいたって話だった」
「そう…… 表向きは……」
「実際最初の頃はちゃんと真面目にやってたのかもしれねえがアタシは見たんだよ」
「二人共、表面上は更生した『フリ』してまた別で男と女を他所で作ってたのをな! まだ周りにはバレてなかったみたいだが!」
「!」
「!」
「さらに調べてみたら二人共、盗みにまで手を出し始めてたみたいだった……」
「その時アタシはこう思ったよ…… ああ…… やっぱりクズはどこまでいってもクズなんだなあって……」
「多少反省したところで一度罪を犯した者はいつかそれを忘れてまた罪に走る」
「そして今度はバレないようにって考えながらな……」
「そして甘っちょろい法はそんな奴等をまた自己満足の甘い制裁で裁く」
「アタシの両親は馬鹿だったから無理だろうけど、そんな連中の中には法の隙間を狙って少しでも罪を軽くしようとしたり抜け出したりする奴等が出てきやがる…… 現に地獄にいた魂の連中もそういう輩はアタシの知ってるだけでもそれなりの数いたしな……」
「クズに同情の余地はない…… 問答無用! その場で殺す! 他のクズ共に再犯させない様、見せしめにもなるし、くだらない綺麗事ほざいてないで、そうした方がよっぽど効率的だし健全だ!」
「だからアタシは当初の目的通り両親を殺した…… これみよがしに、わざと監視カメラに映る形で!」
「お前らがケアしたつもりで、全然できてなかった!」
「お前らが死神としての職務と力を与えたアタシに!」
「両親を殺させるだけの力を自分達でアタシに授けて!」
「自分達が更生させる事のできなかったアタシの両親をアタシ自身の手で殺される!」
「いや~今までの人生の中で、これ程までに愉快な事はなかったねえ!」
「アタシは生まれて初めて…… 心の底から笑えた気がした!」
彼女の表情には一切の後悔も懺悔の気持ちもない。
寧ろ清々しい表情で語るその様子を見て霧島とカエラは悲しみとやるせない気持ち、他にも様々な感情が入り混じった複雑な感情を覚える……
だが、二人はそれでも黙って彼女の話に耳を傾ける……
「当然アタシは治安部の連中に追われる事になった」
「別に当初の目的も果たしたし、自分の命に固執してるわけでもなかったんだけど、奴等に捕まんのも面白くなかったからねえ……」
「逃げて逃げて逃げまくって! いつしか食料も尽きて力尽きようとしてたその時……」
「アタシの前に…… あの方が現れてくれた!」
「女神…… アルテミス様……」
「ここでそう繋がりますか……」
「ああ、そしてあの方は座り込んでるアタシに向かってこう仰って下さった……」
* * *
「世の理不尽さに絶望せし哀れな子羊よ」
「このまま治安部に捕まっても貴方の納得のいく結末は迎えられないでしょう…… 罪を償わされるにしても処刑されるにしても…… その後いつか何かに転生させられるとしても……」
「何故ならどの様な結末でも、それは貴方が世界で最も嫌う両親…… いえ、『貴方が言う甘っちょろい正義の判断の下で下された結果』なのですから」
「!」
「残念ですが貴方の眼はもうどうあっても…… これから先、何があっても世界を絶対に許さない…… そう心に強く決意した眼です」
「真に悲しい事ですが…… 実際にいるのですよ…… そう言った方を私は何人も見てきた…… それでもかつての私は可能性がないとしても、女神として最後まで諦める事はできませんでした……」
「貴方にとってはこんな話、偽善でしょうけど……」
「女神…… だと!?」
「ええ…… 『元』 ですが……」
「ですがそれが間違った事だったとは今でも私は思っていません…… どんな罪を犯そうが、例え可能性がないかもしれなくても…… 更生させ、前を向いて進めるきっかけになるのなら、私はそういった方々を応援したい……」
「まあ、そんな可能性が全くない輩は話は別ですが…… 今の貴方の様に……」
「……」
「ただそれでは貴方みたいな方が結局救われないまま朽ちて逝ってしまうのも事実……」
「そして先程も言いましたが私は『元』女神…… 今は世界への反逆を企てている史上最悪の愚か者に過ぎません」
「世界への反逆…… だと!? 」
「
「それは今を真っすぐに生きている未来ある若者達に任せます」
「そのかわり…… そこから零れ落ち、ただ渇き、消えゆくだけの貴方の様な魂はなるべく私が
「意味のない殺生と全く必要のない罪を犯すのは辞めなさい…… それができなければ『貴方が忌み嫌う両親と本質は同じ』になってしまう…… それは嫌でしょう?」
「綺麗…… 事を!」
「己の存在の価値をもっとしっかりと認めてあげなさい!」
「己の価値を無意味に両親と同じレベルまで堕とすのを辞めなさい!」
「貴方はこのまま、ただ両親と法の犠牲者として終わるだけの哀れな存在ではない!」
「自身の名をしっかりとその口で言いなさい!!」
「あなたの名前は?」
「…… イリア・セイレス……」
「そう…… それが貴方…… 唯一無二の貴方という存在……」
「もしそれを認める事ができ、無意味な罪を重ねない事ができるのなら私が貴方に時をかけ、今以上の力を授けます。 そしてそれ以外の罪はどれだけ貴方が犯そうが……」
「その咎は全て! この私が請け負います!」
「貴方は何一つ気にする事はありません。 今後、貴方の犯した罪は貴方のものではなく全て! 私のものです。 好きになさい」
「!!! なっ!?」
「ただその先に待っているのは確実な破滅…… 転生して全てを忘れてやり直す事も不可能になります」
「それでもよければ…… どうか貴方の力、私に貸してくれませんか?」
「来たるべき時…… 世界に戦いを挑む時の為に」
「全ての責任は私が持ちます」
「勿論ここまで聞いて、思い直して治安部に身を預ける事も私は止めません」
「寧ろそれができるのならそちらの方が遥かに良いでしょう」
「ですがそれでは納得がいかない…… 例え滅びの運命を迎えても最期に世界に一泡吹かせたい……」
「そう思えるなら……」
「共に…… 行きませんか?」
「ああ…… ああ!!」
気付いたらアタシは大粒の涙を流していたよ……
もう何年も涙なんて出さず枯れきってたかと思ってたんだが……
この人は…… この方は! 他の連中とは根本的にちがう!
罪も悪意も怒りも悲しみも憎しみも絶望も……
全て! 全て自身が背負うから共に来ないかと言ってくれた!
共に…… 世界に喧嘩をふっかけてみないかと!!
そして直感ですぐにわかった……
その言葉に嘘はないと!
なんと純粋で…… なんと『本物』の慈愛に満ちた方なのだろう……
そうか…… やっとわかった……
アタシが欲しかったもの……
どれだけ望み、手を伸ばそうとも手に入らなかったもの……
アタシは…… 『本物』が欲しかったんだ……
短い尺度で測った世の中的には間違っているんだろうが、アタシにとってはそんなの関係ない……
アタシの答えは決まっていた……
「どこまでも…… お供させて下さい!」
「…… 本当に…… 後悔はしませんね? 今ならまだ……」
「しません! 絶対に!」
元女神の言葉を途中で遮る形で力強く発言するイリア!
「…… わかりました。 ならば歓迎します」
「申し遅れました」
「我が名はアルテミス…… 一緒に行きましょう」
そう言って、優しく微笑み、自身の右手を彼女に差し出すアルテミス。
「! はい! はい!!」
そしてその手をしっかりと掴むイリア……
こうして、アタシはあの方についていく事にした……
どこまでも…… あの方と共に……
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