第145話 塔の前の死闘! ②
普通なら致命傷か即死レベルの傷を胸元から腹部にかけて負わされ、大量の出血に
そしてそのままゆっくりとカエラのもとへと近づいていく!
「斧槍を封じた位でどうにかできると思ったかい?」
「そんな非常時用の対策をアタシ達がしてないわけないだろ! 間抜けだねえ!」
「お察しの通り、アタシとガラン、レオンの武器はアランが手掛けたもんさ」
「まあレオンの奴は、本人が性に合わないとか余計な小細工はいらないとか言って、単純に奴の尋常じゃない霊力に耐えうるだけの強度と破壊力重視で作られ、余計な機能はつけていなかったけどね」
「キースのクソ野郎は自分の瘴気で生成していたみたいだったが……」
「アタシとガランも腕っぷしには自信がある方だが、流石にレオン程じゃあないからねえ…… 一応、自分達の武器には『保険』をかけていたのさ」
そう言ってイリアはカエラを吹き飛ばした時に彼女の腹部に触れていた左手をかざす。
「如何にも何の変哲もない見た目ただの薄いハンドグローブだが、こいつは触れているものを爆発させる代物なんだよ」
「丸腰の状態じゃないと発動できないのと爆発が強すぎて、ちと腕が痺れるのが難点だが、おかげで命拾いしたよ……」
くそっ! それより血が止まらねえ!
傷が深いか…… だが今はそんな事どうでもいい!
怒りで頭の血管がブチ切れてしまいそうだよ!
この女…… ゼッテー許さねえ……
「小娘…… 随分と舐めた真似をしてくれたねえ!」
「解決屋と殺り合う前に、まさかあんたみたいな小娘にこんな傷を負わされるはめになるなんてね!」
「あんたは簡単には殺さないよ!」
そう言って先程吹き飛ばして血塗れになっているカエラの腹部を思いっきり蹴り上げるイリア!
「ぐふっ!!」
「おら! まだまだこんなもんじゃ済まさないよ!」
「がはっ!」
「オラ! オラ! オラ! オラ!」
敢えてすぐには殺さず、腹へ顔へと執拗に蹴り続けるイリア!
傷が深すぎて抵抗する事もできないカエラ……
そんな中、もう一つの戦いも最悪の形で決着がつきそうになっていった……
「どうやら向こうも決着がつきそうだな……」
ガランの右手で首を締めあげられ、身体が宙に浮いている状態の霧島。
鎌を下へ落とし、両手で振りほどこうとしたが、もはや力尽きる寸前であった。
「まあ、イリア相手に粘った方ではあったか…… まさか彼女に手傷を負わせるとは……」
「だがイリアがああなっては、もはや俺でも止められん。 あの女は惨い死を迎えるだけだ」
「お前もその若さで大したものだったが、それでも『伝説』には程遠いな……」
「結局お前らは何も守れない…… 何も救えない…… 法という型に
「お前はここで彼女が
くっ…… 強すぎる! カエラさん!!
本当に僕達では…… 何も守れないのか!?
このまま何も守れず
隣の仲間も守る事すらできずに……
葛藤し、意識が朦朧としてきた
『結局お前らは何も守れない…… 何も救えない……』
…… うるさい…… 黙れ……
『お前らでは何も変えられない……』
黙れと言っている……
『お前はここで彼女が嬲られるのを黙って見て後悔しながら死んでいけ!』
…… 死ぬのは貴様らだ!!!!
ドクン!
その時…… 霧島の中で今まで押さえつけられていた『何か』が音をたてて脈打ち…… そして解き放たれる!
…… 終わりだな……
「!!!!!!!?」
「!!!!!!!?」
「これはっ!?」
ガランが自身の勝利を確信仕掛けたその時!
突如霧島の霊圧が信じられない程に爆発的に上がり、そしてそれが辺りを巻き込む形で解き放たれる!
「なんだあ!? あのガキの仕業か!?」
「…… こんな力を秘めていたとは!!」
信じられん程の霊圧だ! はっきりいって桁が違う!!!
…… 極限まで追いつめられた事で『タガが外れた』か!?
だがこの殺気は…… 怒り…… 憎しみ…… その果てか!
次の瞬間!
普段とはまるで別人の狂気に満ちた霧島がその瞳を覗かせる!
そしてガランの
霧島は自身の首を掴み上げて伸び切っているその上腕部分にノーモーションから! だが高速で凄まじい威力のこもった右の蹴りを下から上へと叩き込む!
ボキィっと上腕骨が破壊されるガラン!
「なっ! !!?」
力を失った右手の拘束から解き放たれる霧島!
そのまま回転しながらガランの胸部に強烈極まりない程の回し蹴りを炸裂させる!
「がはああああっ!」
大きな衝撃音と共に凄まじい勢いで岩壁へと吹き飛ばされるガラン!
「! ガラン! てめええええええええ!」
激昂するイリアだったが次の瞬間!
回転しながら高速で飛んでくる死神の鎌が彼女の命を奪いにやってくる!
!! 速っ!! 躱しきれっ!!
「うああああああああああああ!!!」
ガスゥゥゥゥゥゥゥ!!!!
間一髪! 辛うじて急所は避けたが左肩に深々と鮮血を浴びながら突き刺さる霧島の鎌!
そのまま吹き飛ばされ、カエラから引き離されるイリア!
だが彼女は左肩を抑えながらも、間髪入れずに眼前にまで迫ってくるその脅威を前に、すぐさま起き上がる!
「ぐうううっ! どうなってんだ!? いきなり化け物じみやがって!」
迫りくる霧島の眼を垣間見るイリア!
笑ってる!? クソが! 完全にブチ切れてやがる!
! ちっ! 左手が上がらねえ!
爆発手袋は使えない!
斧槍も失った彼女は、残った右の拳に自身の瘴気を込める!
「調子に…… 乗るなクソガキィィィィ!!!!!」
渾身の右ストレートを霧島の顔面を狙ってカウンターを狙うイリア!
なんと霧島は自身の左拳を放ち、イリアの右拳にぶつけ、返り討ちを狙う!
バキバキバキィっと互いの拳が血を噴き、砕け、後方へと弾け合う!
「!! ああああああああああっ!!!!」
「! …… ふふ♪……」
痛みに悶えるイリアと狂気によって笑いながら痛覚を無視する霧島!
対照的な反応の二人だったが、霧島は無事な右手を使いイリアの首を握りしめながら彼女をそのまま地に叩きつける!
「がっ! はっ……」
凄まじい衝撃音と共に地にメリ込まされ、両手共に破壊された彼女は、もはや抵抗する事さえできずにいる。
窒息…… いや! 首をへし折られる寸前のイリア!
「がっ!! はっ! うっ!!」
殺っ…… される…… ちく…… しょううう!!!
こんな…… ところで!!!
「イリア!」
崩れた瓦礫の中から這い出てきたガラン!
「堕ちたか…… 哀れな…… だがイリアは
無事な左手で飛針の照準を霧島に合わせるガラン!
その時!
「霧島君っ!!!」
本来なら起き上がるどころか命の危険もある程の重傷!
口と腹部から多量の血を吹き出しながらもそれでも! 必死に彼に訴えかけるのはカエラであった!
暴走する霧島を後ろから羽交い絞めにする形で制止するカエラ!
「ダメです! 霧島君! 『あなたはそうじゃない』でしょう!」
「私の知ってる霧島君は! 真面目で! でも不器用で! 優しくて!」
「頼りなさそうに見えて、でも本当は頼りになって!」
「すぐ調子にのっちゃっては怒られて! KYなところもあるけど、でも! 誰よりも周りに気を使えて!」
「敵とはいえ女性を手にかけたり、無闇に殺生をする方ではないはずです!」
「ましてや『そんな状態』で自分を投げたりは絶対にしない!」
「恭弥さんの手紙で言われた事を思い出して!」
「!!!!」
* * *
決戦前 アラン戦後の夜――
「全ての甘さを捨てろ! 達也!」
「何も心を捨てて、ブチ切れて殺人狂になれって言ってるわけじゃねえぞ」
「確かにその場合も、とんでもなく強い力を発揮するだろうが、それは悪い方向で『タガを外しちまった』状態だ」
「確かに強い力だが、それに頼り切る様な奴が最終的に行き着く先は『自身の破滅』だ」
「昔、俺がまだ人間で傭兵だった頃…… 血の雨に塗れながら、そんな連中を腐る程見てきた……」
「そんなもんは本当の強さじゃねえ……」
「俺はお前には、そんな風になってほしくねえしな」
「じゃあ、具体的にどうすればいいかコツを教えてやる!」
「それは……」
「仲間を信じろ!」
「話は多少なりとも聞いている…… お前が信頼している仲間は、互いに大切に想い合ってくれている連中は! お前が多少やり過ぎた位で、どうにかなっちまう様なヤワな連中か? 何のフォローもし合えねえ様なヒヨッた連中か?」
「ちがうだろう!」
「仲間を信じて! 自分と仲間が生き抜く事だけ考えて! 後は集中して敵を叩け!」
「お前が! お前達が力を合わせて敵を倒さねえと大切なものが守れねえんだぞ!」
「じゃあ守る為にはどうするか?」
「そんなの簡単だ! 思いっ切りやるんだ!」
「なにも一人で、全部完璧にこなして戦えって言ってる訳じゃねえんだ!」
「失敗したら仲間がフォローする!」
「仲間が失敗したら自分がフォローする!」
「そうやって互いを補い合い、理不尽な連中を容赦しねえでぶっ潰せ!」
「お前が何の遠慮もなく『本当の意味で』仲間を信じ、互いに背中を預ける事ができれば! 今言った事ができるはずだ!」
「潜在意識の中にある、その『恐怖』を克服できるはずだ!」
「そうすれば、魂のこもった一撃をぶちかませるし、思いっきりパワーも解放できる!」
「結果、戦場でお前も! お前の守りたいものや大切な人達、仲間達も! 守れる確率が格段に上がるんだ!」
「恐れるな! 達也!」
「お前は強い! お前と…… お前と共に在る仲間を信じろ!」
お前と…… お前と共に在る仲間を信じろ!
* * *
「霧島君!」
「!!!!」
「怒りや憎しみで…… 己を見失わないで!」
「心を……修羅に堕と…… さないで……」
「霧島君!」
「!!!!」
カエラの必死の訴えに、霧島の瞳に本来の光がもどり始める……
「カエ…… ラさん……」
「!!! よかった…… 元の霧島君に…… もどって……」
「あまり…… 似合わない事はしない方が…… いい…… ですよ……」
安心して緊張が解けたのとダメージもあり、ドサッと倒れこむカエラ。
「! カエラさん!」
「大…… 丈夫です。 それよりも……」
「ええ…… どうやら……」
「勝負あった…… みたいですね……」
…… 全然納得いかない形ですけど……
カエラさんがいなかったら! 僕はっ!
くそっ! 何をやってるんだ! 僕はっ!
「…… まさか…… 『あの状態』からもどってくるとは!」
信じられん…… 奴は己の無力さ故、それを呪い、確かに一度堕ちた…… はずだった……
俺の経験上、負の感情に支配され、『完全に』憎しみと怒りにその身と心を堕とし、修羅への道を選んだ者が再び舞いもどれた者はただの一人とていなかったはずだ……
いや…… あるいは
…… 本当に…… 大したものだな……
「…… 我らの負け…… か……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます