第18話 二人の語らい
「…… そう想ってもらえて、あいつも本望だろうよ」
祐真が心の底からの言葉だった。
「でも、ま、だからこそ俺達はしっかりと生きねえとな! 死んじまった奴の分まで生き残ってる奴は絶対に幸せにならねえといけねえ!」
「それが、今、生きてる奴が死んじまった奴にできる最大にして最期の礼儀だ!」
そう言って、周りの連中に喝を入れる様に励ます祐真。
「泉さん……」
「ああ! そうだな!皆!」
「ああ! そうだとも!」
祐真の言葉に皆が勇気付けられる。
「おまえら……」
「これが、あなたが救ってきたもの、そしてこの世に残してきた想いです…… 」
黒崎がいかに慕われていたか霧島は改めて理解させられていた。
そして、黒崎もそれをしっかりと噛みしめていた。
納得した後、一人の客が時計を見て慌てだした。
「やっば! もうこんな時間だ!」
「悪い、泉さん! 俺もう行くわ!」
「おお、そうかい? 俺も今週は疲れたからな。 ちと早いが今日のところは、ぼちぼち閉めようかね」
「そうかい? じゃあ、うちらも帰りますかね」
「あたしもそうするかね」
一人の客が用があるのかあせって帰り支度をする。 祐真の言葉を皮切りに他の客も帰る準備やボトル代以外のコーヒー代やケーキ代等の通常メニューの会計を済ませていった。
「泉さん!」
玄関から出ようとする一人の客が祐真に向かって叫んだ。
「あんたら二人には返しきれねえ程の恩がある! 大した事はできねえけど、何かあったら相談してくれよな! 力にならせてもらうからよ!」
それに続いて他の客も同様の言葉を並べるのだった。
「ありがとよ! まあ、何にもなくても、とりあえず店の売り上げには貢献してくれや」
「がっはっは! もちろんだぜ! あんたのコーヒーは最高だからな! また明日来るぜ! じゃな!」
「お疲れ様です。 泉さん。 また!」
「ごちそうさまでした! 泉さん」
カランカランと店の玄関が鳴り響き、客達は店を後にしていった。
そうして、店内は黒崎と霧島を除けば祐真だけになった。
夕焼けの光が店の窓を通して、店内を美しく染め上げている。
静かになった店内で祐真はカウンターに添えられている黒崎用のグラスに自身のグラスを乾杯させた。
酒を飲む祐真。 本人は気付いていないが黒崎はカウンター越しに正面に座っている。
霧島は気をつかい、席を立ち、後ろの隅の方へと下がっていった……
「やっと、静かになったな……」
「ったく、人気者はつらいねえ……」
一人で黒崎に語りかけるかの様に話す祐真。
実際は黒崎は祐真の言葉をしっかりと聞いている。
「…… あっさり逝っちまいやがって…… ちったあ、俺の負担考えろよな……」
「……悪い……」
祐真には黒崎の声は届かない。 それでも黒崎は祐真と対話する。
「……言ったはずだぜ。 お人好しは大概にしとかねえと、いつか取り返しのつかない事になるって…… 口を酸っぱく、毎日な」
「ああ……」
「本当に、最期まで、自分勝手で、世話の焼ける野郎だ……」
「すまん……」
「けど、ま、何だかんだ、面倒な事とか、イラつく事とかも多分にあったが、お前と過ごした九年、いや、そういや十年になるか、今日で……」
「楽しかったぜ。 マジでな」
「俺もだよ。 祐真」
グラスに入ってる酒も後一口分位、祐真はボトルに手をかけた。
客用ではなく、黒崎とキープしていた方のボトルだ。
だが、そのボトルはもう空になっていた。
「…… もうお終いか……」
カウンター席に一粒の雫が零れ落ちた。
「…… 勝手に…… くたばってんじゃねえよ! 馬鹿野郎があ!」
「…… すまねえ…… すまねえ! 祐真!」
大声をあげ、溜まっていたものをはきだす祐真。
一度涙を流して涙腺が決壊したのか、祐真は涙が止まらなかった。
それは黒崎も同様だった。
「はあ~~~~~ ……」
大きく息をした後、涙を抑え、呼吸を整える祐真。
そして、祐真は今まで溜まっていた思いの丈を大声で黒崎に訴えかける。
「いいか修二! 死んじまったもんはしょうがねえ! だから後の事は俺に任せな!」
「この街にはまだまだ世の中の理不尽さに虐げられ、けど何らかの事情で、どこにも相談できねえ、頼れるもんも何もねえ奴らが沢山いるだろう!」
「もちろん、世の中のそんな奴ら全員を救ってやれるなんて、おこがましい事は思ってねえし自惚れてもいねえ!」
「だからせめて俺は! この街の! 俺の目に映る範囲だけでもいい! そういった連中を、俺なりの流儀で! 少しでも何とかしてやってくつもりだ!」
「情報屋で! 喫茶店のマスターで! そして解決屋としてな!」
「祐真……」
「だからてめえも! 天国……はあるのかわかんねえし、あってもお前が行けるかどうかはちょっと疑問だが…… まあいい! 天国でも地獄でも! あるならそこで俺の生き様ちゃんと見てろ!」
「んでもって! てめえもそっちで、てめえらしくちゃんとやってろ!」
「わかったか! この大馬鹿野郎!」
言いたい事全て、大声で叫んで息を切らす祐真。
「はあ、はあ、はあ…… あ~あ、何やってんだろ、俺…… キャラじゃねえ事やって…… アホらし……」
彼も彼なりに区切りをつけたかったのだろう。
彼もまた黒崎を失ってもそれでもなお、前へと進み続ける為に……
「これで最期か……」
彼はグラスを手に取り、残った最期の一口を飲み干した。
「じゃあな……」
彼の、黒崎に対する最後の別れの言葉であった。
そして祐真は店の片づけをはじめていった。
「祐真。 俺は…… 俺はよ」
祐真の言葉を全身で受け止めるかの様に聞き届けた黒崎は席から立ちあがる。
そして今度は黒崎が思いの丈をぶつける……
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