第二章 閻魔大王登場! どうなる!黒崎修二!

第7話 ついに登場! 閻魔大王現る!

 少し大きめの部屋の前の扉へ着いたところで霧島が三回ノックした後、口を開く。


「死神、霧島達也、黒崎修二の魂をお連れ致しました!」


「どうぞ。 入ってきてくれたまえ!」


「失礼します!」



 扉を開き、中へ入る霧島と黒崎。


 目の前には金色に輝く美しい髪をしたどこかの外国か、もしくはフィクションの世界に登場しそうな貴族か王族を連想させるかのような立派な服装。


 それに身を包んだ、見た目は二十代後半位の整った顔立ちの男性が、書類を処理しながら座っていた。


 腑に落ちないといった感じの黒崎……


 部屋の中には自分と霧島、そして目の前には若い男一人しかいない……


 ここはいわば「閻魔大王の間」的な場所のはず。 まさかこんな若造が…… 


 とてもそんな大層な奴には見えないが……


 そう頭の中で考えを巡らしていた次の瞬間!




「そのまさかだよ。 黒崎修二君」


「!」


 自身の心を読まれた黒崎に動揺が走る!


「おっと。 驚かせてしまったみたいですまないね。 仕事柄、癖みたいなものになっていてね。 どうか許してほしい」


 明らかに只者ではない雰囲気を纏わせながら、それでいて落ち着いてかつ気さくな感じで話しかけてくる金髪の男。


「申し遅れたね。 私が閻魔大王だ。 少しの間よろしく頼むよ」


 あまりにも見た目若すぎるというか、自身の閻魔大王とのイメージの差が大きくて驚く黒崎だが、今のやり取りで閻魔の底知れぬ存在感に警戒してなるべく表情に出さない様にしていた。


 今のが、ただ単にずば抜けた洞察力のなせた技なのか、それとも本当に直接自分の心を読んだのかは黒崎には分からないが、目の前の男に対して表情を読ませないようにしている。


 それが無意味な事だと分かっていても……


 黒崎は冷静さを取り戻す為に大きめに深呼吸をした後に黒崎は口を開く。


「大変失礼致しました…… 閻魔大王様」


 電車の中で霧島に言われた事を思い出す黒崎。


 閻魔大王に失礼のない様に……


 気分を害したらどうなるかわからない……

 

 霧島に迷惑をかけるわけにもいかない。 


 黒崎は細心の注意を払わなければと心に決めた。


「え?え? ちょっと黒崎さん! あなた心の中で何を?」


 相当焦る霧島。 


 そしてそのまま霧島もあわてて許しを請う。


「申し訳ありません! 閻魔大王様! どうかお許しを!」


「はっはっは! いや~ごめんごめん! ちょ~っと悪ノリが過ぎちゃったかな~」


「二人共頭を上げてくれ。 別に全然怒ってなんかいないから」


「先代の父は確かに厳格な方だったが、僕はいちいちそんなことで目くじら立てたりしないから安心してくれたまえ」


「それに死者の魂達にとっては生前の世界における閻魔大王のイメージみたいなものもあるだろうしね。 もっといかついゴリラみたいな大男を想像されちゃったりすることが多いんだよね~」


「実はね黒崎君。 閻魔大王の職は五〇〇年前に代替わりしてね。 まだまだ一〇〇〇歳程度の若輩者だが、今は僕が当代閻魔大王というわけさ」


 一〇〇〇歳で若輩者? ツッコみたい気持ちが非常に強かったが抑え込む黒崎。


「まあ、そんなわけで黒崎君も霧島君も、もう少し肩の力を抜いてくれたまえ。」


「霧島君も彼のここまでの案内、ご苦労だったね。 どうかもう少しだけ付き合ってくれたまえ」


「は! もったいなきお言葉! ありがとうございます」


 軽妙な語り口をするかと思えば、それでいて非常に紳士的な対応もしてくれる閻魔大王に、黒崎も霧島もまだ緊張が残りつつあるが、少しだけ救われた気持ちになり安堵する。


 そして、話は本題に入る。 


 黒崎の魂の処遇について閻魔大王は話を進めるのだった。


「さて、それでは始めようか」



「黒崎修二、没年二十四。 若いねえ~! 

職業は「解決屋」仕事の主な依頼内容は個人の護衛、救出、盗品の奪還から…… 浮気調査や迷子の猫探し、ケンカの仲裁等様々」


「猫探し! はは! 幅広いねえ!」


 資料を右手にとり黒崎の経歴を少し楽しみながら読み上げる閻魔大王。


「警察に頼みづらい依頼や大事にしたくないヘビーな依頼等も請け負う…… ただし、依頼人があくまで一定の筋を通しているのが条件で悪行には手を貸さない」


「かなりグレーな仕事なうえ、やり方は場合によっては手段を選ばない事もあるが、そうまでしてでも依頼人の気持ちに寄り添い、依頼達成を目指す流儀に依頼人達の評価も上々」


「相方兼情報屋の泉祐真と主に組んで様々なネットワークを駆使して日々仕事をこなしてきて、先程車に引かれそうになった子供をその身を挺して守って死亡。 今に至る、と」


「……なるほどね」


 ある程度読み上げると、細かい内容等資料の隅々まで目を通す閻魔大王。


「…… 正直かなり裏稼業よりというかグレーな内容の仕事をこなしてきたみたいだけど依頼人達を含め街の人間の信頼もかなり高かったみたいだねえ。 警察に頼れない事情を抱えた者にとっての正義の味方的、な」


「ただ、荒っぽい依頼の時はちょ~っと必要以上にやりすぎな位に暴れまわっていた事も多々あったみたいだけどねえ」


 笑顔で痛いところをつかれたといった顔の黒崎に視線を向ける閻魔大王。


「だがどれほどの悪人でも依頼の中で殺人をおこした事はなし。 荒い言動や、やり方は目立つもののその実、依頼人の心情と事情を汲む様に依頼をこなしてきている。 命をはって子供を助けたのも大変素晴らしい功績だね」


 所々危ない所も少しあるが子供を救ったことも含めどちらかというと悪くない印象だ。


 あくまで、ここまでは……


 閻魔大王の視線がこれまでと違い、静かだが凄みと厳しさを帯びた鋭いものになっていった。


「ただ、少し気になる点があるね」


「依頼では確かにおこしていないが、ある時期に君は……」


「人を、殺しているね」


 黒崎を見つめる閻魔大王の視線に目をそらさず向き合う黒崎。


「一応確認するけど…… 間違いないね?」


 黒崎に問う閻魔大王。 しらをきっても無駄なことはわかっているし、そもそもそんなつもりも毛頭ない黒崎は正直に答える。


「ええ…… 間違いありません」


 黒崎は閻魔大王の目を反らさずに、そう答えるのだった。


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