まさかあの世に来てまで仕事をするとは…… こうなりゃとことんやってやる!
アニマル
プロローグ 解決屋 黒崎修二という男!
第1話 プロローグ ①
新宿。日本の東京において、様々な国籍の人種が比較的多く集まり、街として賑わいを
みせている都心の中心部に位置する街の一つ。
人が多く笑顔であふれ街が盛り上がっていたりするとその場所は健全で活発、楽しくて素晴らしい街だと錯覚することがある。
しかし現実はちがう。
もちろん人が多く集まればその街は活性化していることもあるが逆に様々なトラブルも起こりやすい。
そしてそれは友達や家族、警察や弁護士等にも相談しづらい悩みをもっている、トラブルを抱えていたりする者も決して少なくない。
そんな公に相談できない悩みやトラブルを依頼を受ければ解決する者が存在する。
黒崎修二。新宿に事務所を構えて、「解決屋」を営んでいる男だ。
大事なものを盗まれた、友人が殺された等の事件が起き、しかし犯人がうまく証拠を
隠蔽して法的機関が動かず辛い思いをしている被害者達が最後の手段として黒崎を頼るのだ。
季節は八月、夏真っただ中。
世間では祭りや花火大会等の催しが各地で連日盛り上がっているこの時期。
一人の男が仕事でとある場所に来ていた。
都心からは大分離れた所にある比較的きれいで大きなビル。
そこの六階で大きな物音を立て殴り飛ばされる男が一人。
中肉中背の三十代といった感じの男だ。既に大分痛めつけられている様子だ。
その他にも六人ほどの男連中が痛い目にあわされ、床に倒れている。
殴り飛ばされた男の前に黒髪の男が立っていた。
髪の長さは少し長い位の長さで白い半袖のYシャツを着崩して黒いズボンをはいている。
「も、もうかんべんしてくれ! 黒崎さん!」
許しを乞うている殴られた男を前に黒崎と呼ばれた男が口を開く。
「だったらお前らが盗んだ佐伯真一の絵画を素直に返せ。これ以上痛い目にあいたく
なければな」
「面倒だからこれが最後だ。調べはついてる。これ以上しらをきるなら大怪我程度では
すまなくなるぞ。須藤雅紀」
静かな口調だが信じられない位の殺気を放って脅す黒崎の男の目は極めて冷たく鋭い
目つきで尚且つその言葉が決してただの脅しではない事を須藤と呼ばれた男は感じ取っていた。
「わ、わかりました! 言う通りにしますから! 」
恐怖に震えている須藤は近くの机の引き出し中から鍵を出して部屋の奥の方にある
物々しい扉の所へ向かい鍵を使いドアを開けた。
須藤が部屋の奥に入り、その後についていく黒崎。
「これか……」
部屋の奥に一枚、キャンバスに描かれている一枚の風景画があった。
その絵は夕暮れ時を思わせる色使いでどこかの海辺らしき場所が写っていた。
黒崎はその絵の美しさに一瞬息をのみ、須藤の横に立ち、その絵から目をそらさずに
言葉を並べた。
「須藤。あんたも画家の端くれなら師の絵を盗んで汚い金を稼ごうなんて悲しい事はするな」
須藤は佐伯の弟子で世界的に名の売れている師のまだ未発表の作品を本物そっくりに
作った自分の贋作とすり替え、本物を高く書いとりたいという絵画コレクターに流そうとしていたのだ。
須藤も画家として優れた技術をもっていて、はたから見れば須藤が似せて書いた贋作もとても偽物とは思えない程の出来だった。
しかし師である佐伯はアトリエに置かれていた自身の絵を毎日見ていたが、ある日突然すり替わっている事にすぐに気づいたという。
須藤に問いただした佐伯であったが須藤は金で釣った知人らに自信のアリバイ工作を
させて容疑のかかっている時間帯はそいつらと一緒にいたと口裏を合わせていたのだ。
そうやって時間を稼いでいるうちに絵画を買い取ろうとした須藤の依頼人へ流そうと
していたのだ。
しかし犯罪慣れしていない須藤のアリバイ工作は、ずさんで黒崎と黒崎の仕事仲間の
情報屋の調べで佐伯から聞いた、絵画が持ち出されたであろう犯行予測日時と、須藤がその時間一緒にいたという金で雇った連中の一人が同時刻、別の場所のショッピングモールの防犯カメラに写っていたことを簡単につきとめてしまい、今に至るのだ。
「こんな程度の低い口裏合わせ、俺が動かなくとも警察に通報すれば簡単にあんたが絵画を盗んだことは割れただろう」
「だがそれでも佐伯は、あんたの師匠は警察に通報せずあんたに正直に名乗り出てほしかったんだよ」
「あんたみたいなやつでも佐伯にとってあんたは大事な弟子だったってことだ。あんたの画家としての才能も認めてたし自分が納得するまでとことん自分の絵をこだわって描き切ろうとするその姿勢を一番近くで見てきたと言っていたぜ」
黒崎の話に須藤は耳を傾け、その話を聞くことで、その表情は自分の盗みが失敗して気を落とし、またこれから何をされるかといった不安の表情から、驚きの表情に変わっていっていた。
「だからこそ大事にしてあんたの人生を台無しにしたくなかったんだよ」
まあ、なるべく手荒な真似もしないでくれとも言われてたんだが……
気が短くさんざん暴れてしまった黒崎は佐伯に対して少し申し訳ない気持ちがあるのと共に、それについては言葉として出さないようにしていた。
「芸術の世界に限らず大抵の世界は弱肉強食だ。結果が出せなければ仕事としては意味がない。出せても自分が中々越えられない壁を見させられ続ければ、くさりたくなるときもある」
「だけど少なくともあんたの師匠はあんたの才能、そして努力を認め、いつか自分を超えてくれる自慢の弟子だと言っていたよ」
「だったら応えてやれよ」
黒崎は言いたいことを全て言い終え横にいる須藤の方に顔を向けた時、須藤は膝をつき
泣き崩れていた。
自分がしたことの愚かさに後悔しながら。
絵画を回収し、建物の外に停めてある車の荷室スペースに絵画を傷がつかない様に考慮しながら積んでいる。絵が汚れない様に手袋も着用している。
その作業が丁度終わろうとしていた頃、黒崎の前に黒崎よりも長身で細身の体格をしているサングラスをかけている男が歩いてきた。
「お疲れさん! 」
自分の肩にかかる程はある黒髪を後ろへ束ねて黒スーツを着たその男は黒崎に声をかけた。
「おう」
黒崎が呼びかけに答える。
「つか絵を積むの手伝えよ! 祐真!」と続ける黒崎。
「はは、わりーわりー。タバコが切れてたから買いに行ってたわ」
祐真と呼ばれた男がタバコを一本取り出し火をつけながら返す。
「つか随分時間かかったんじゃね? 秀二」
下の名前で呼ばれている黒崎が少しあきれた感じで答える。
「誰かさんが全く仕事を手伝わなかったからな!」
黒崎が皮肉交じりに答えた。
「全くとは心外だなあ。ちゃんとあいつらのアリバイくずしたのと、ここの場所つきとめてお前に教えたのは俺だぞ!」
黒崎の言っていた情報屋とはこの祐真と呼ばれている男の事だった。
「それにいざとなったら後はこんな仕事お前なら力づくで片づけられんだろう」
そう言いながら黒崎と共に車に乗り込む祐真。
祐真は運転席、黒崎は手袋を外しながら助手席に座る。
「依頼人からはなるべく手荒なことはするなと言われてんだよ!」と返す黒崎に対して
「じゃあお前の服と靴に付いている返り血らしきものは何ですかい?」
「……人にはな、向き不向きというものがあるんだよ」
「カッコつけながら開き直るな!」
運転する祐真にツッコまれれつつ言い訳じみた感じで返す黒崎。
「中々白状しなくて、らちがあかなかったから仕方なかったんだよ。それに依頼人も
『なるべく』って言っていたし、まあ許容範囲内って事にしてくれるだろう」
「お前な」
かなり自己中心的な解釈で言う黒崎にあきれる祐真。
「まあ、俺は依頼料が無事もらえりゃ、それでいいけどな」
現実的な事を言う祐真。
「そういう事だ。これを届けたら、後は本人達の問題だろ」
「何? もしかしてま~たお節介な事でも言ったのかい?」
黒崎の言い方や様子を見て別に依頼内容には含まれていない、お節介とも説教ともとれる内容の言葉を須藤に投げかけたであろう事を祐真は感じた。
「言いたいことを言っただけだ」と返す黒崎に
「たま~にやるよね。そういうこと」
「ま、嫌いじゃないけどね。おたくのそういうとこ」
祐真にはわかっていた。
一度切れるとそれこそ手が付けられない暴力性を持ってはいるが心の奥深い部分では不器用な優しさを持っているということも。
そして二人はそのまま車を依頼人の元へ走らせていった。
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