第二章

第一話 持ちかけられた婚約話

~シルヴィア視点~





「何! それは本当か!」


「本当よ。ラル君が魔族を氷漬けにしたの」


 幼馴染のソフィーからラルスのことを聞かされ、ワタシは内心驚いた。


 子どもが魔族と戦う絵面すら想像できないのに、魔族を倒したと言うのだ。想像すらできない。


 これもやはり、ユニークスキルによるものだろうか。


「さっき、ラルスが魔族に触れた瞬間に凍ったと言ったよな?」


「ええ、確か氷鬼ってラル君は言っていたかしら?」


「氷鬼? 鬼役が逃げる側を捕まえたら、その人はその場から動いてはいけないというあの遊びか?」


「そう、それ! ラル君が遊びを宣言した途端に触れていた魔族が凍り付いたの」


 遊びを宣言した途端に相手を凍らせる力を手に入れたと言うのか。本当にラルスは規格外の力を秘めている。


 本来魔法は、体内にある魔力を体中に巡らせてから脳で想像し、実物を生み出す。


 魔法そのものを扱えるようになるには、専門の学園に通って魔学を学び、基礎を身に付ける必要がある。


 肉体強化系は、ワンチャンその人が持っている才能がバカ力によって無意識に発動するケースも存在している。


 ラルスはそのパターンだと思っていたが、実際にはそうではなかったことになるな。


 やっぱり、ラルスの存在は危険と隣り合わせだ。彼の力を利用して悪用しようとする者も現れるだろう。


「話しは分かった。ソフィー、可能な限りラルスにはユニークスキルを使わないように言っておいてくれ。そして、なるべく目を離さないでほしい。ワタシは仕事がら、彼と一緒に居てやれないからな」


 彼女にお願いすると、ソフィーはクスッと笑う。


 ワタシは何か変なことでのも言ったのだろうか? 自覚できる範囲では、何も変なことは言っていないはずなのだが。


「何か変なことでも言ったか?」


「別に変なことは言っていないよ。シルヴィアも、ラル君のことを好きになってくれたんだなぁと思って」


 ソフィーの言葉を聞いた瞬間、顔に熱を感じた。もしかしたら顔が赤くなっているかもしれない。


「す、好きになる訳がないだろう! 相手は一回りも離れている子どもじゃないか! 何を急に言い出すんだ!」


「あれ? 私は異性としてではなく、友達関係のような意味での好きのつもりで言ったのだけど?」


 再び聞かされる幼馴染の言葉に更に恥ずかしい気持ちになる。


「もしかしてシルヴィアって、ラル君のことを異性として見ていたの?」


 ニヤニヤと笑みを浮かべる彼女を見て、一気に羞恥心が込み上げてくる。


「そ、そんな訳があるか! ソフィーが好きかどうか訊ねてきたから、勘違いをしただけだ! そもそもあいつは保護対象、いずれ親元に引き渡す予定だろう。そんなやつと親しくできるか」


「そうだよね。別れは辛いもんね。私もラル君とお別れをする日が来たときのことを考えると寂しいわ」


 まるで心を見透かされたような気がして、居心地が悪くなる。


 別れと言うのは辛いものだ。親しければ親しいほど、悲しみは比例する。別れがあることが分かっているのなら、親しくならない方がいい。


「とにかく、話しは分かった。ワタシはそろそろ行く。休憩時間が終わるころだからな」


「はーい。お仕事頑張ってね」


 ソフィーに見送られる中、店を出ると城へと戻る。


「午後は城下町の巡回だったな。今日も何も起きない素晴らしい1日のままで終われば良いのだが」


「シルヴィア副団長!」


 城内を歩いていると、部下の1人が声をかけてきた。


「どうした? ワタシに何か用か?」


「はい。団長がお呼びです。直ぐに団長室に来るようにとのこと」


「そうか。ご苦労であったな」


「では、俺はこの辺で失礼します」


 軽く会釈をして、部下はワタシから離れていく。


 あの男がこの時間に呼ぶとは珍しいな。いったい何のようだ?


 背筋に寒気を感じる。きっとワタシにとって、良くないことのような気がしてきた。


 城内を歩き、団長室の前に来る。そして扉を2回ノックした。


「騎士団長、ワタシだ」


「入って来てくれ」


 入室の許可を貰い、扉を開ける。すると青い髪の短髪の男が、椅子に座った状態で肘を机の上に置き、両方の指を絡ませながらジッと見つめてきた。


「それで、ワタシにどんな用だ?」


「シルヴィアちゃん、2人きりの時くらいは、お兄ちゃんと呼んでくれても言いのに」


「今はプライベートではなく、仕事中です。なのでいくらこの場にワタシたち以外いなくとも、あなたを団長呼びさせていただきます」


 仕事中であることを理由に、団長呼びをすることを告げると、兄さんはため息を吐く。


「本当に真面目だね、シルヴィアちゃんは。そんなにガードが固いと、嫁の貰い手ができるかどうかが心配だよ」


「ワタシは一生独身でも構いませんので」


「僕はシルヴィアちゃんの子どもを見たいな。早く伯父さんになりたい」


 身内しかいないからだろうか。兄さんはいつも以上に砕けた喋り方で言葉を連ねる。


 さっきからワタシの婿だの子どもだの、どうでもいいことばかり話している。早く本題に入ってもらわないと、午後の仕事に支障が出る。


「良いから早く本題に入ってください。ワタシは午後の巡回をしないといけないので」


「一応本題に入っていたつもりだったけど、分かり辛かったかな? 分かった。ならもっと分かりやすくストレートに言うよ」


 兄さんは表情を引き締めてワタシをジッと見つめる。


「シルヴィアちゃん、君に婚約話しをもらっている。受ける気はあるかい?」

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