第七話 ショタはユニークスキルの詳細を知る

 シルヴィアお姉さんが、最新のユニークスキルが載っている図鑑のページを捲っていく。


 今度こそ、僕のユニークスキルである『遊び』について分かることができるのかな?


 不安な気持ちとワクワクが入り混じった状態で、捲られて行く図鑑を見る。


「あった。ここに遊びについて書いてある」


「シルヴィアお姉さん! なんて書いてあるの!」


 図鑑には難しい言葉が書かれてある。なので読むことが出来なかった。


「ユニークスキル『遊び』は遊ぶことで新たな技、魔法を習得する非常に珍しいユニークスキルである。例えば喧嘩でもごっこ遊びとして認識した場合、肉体強化の魔法を瞬時に習得、そして本人の意思に関係なく自動的に発動することができる……と書かれてあるな」


「遊べば遊ぶほど強くなる。そして習得したものは自動的に発動する……ってことは、これまで野盗やグリゴリーをラル君が倒したのは!」


「ああ昨日見た習得技を見る限りだと、石を野盗に向けて投げた時に石投げを習得して、そのまま発動したのだろう」


 2人が真剣な顔で話している中、僕はお姉さんたちの会話についていくことができなかった。


「もう! 2人とも難しい話しをしないでよ! 僕にも分かるように教えて!」


 どうにかお姉さんたちの会話に混ざろうとして声を上げる。


「あ、ごめんね。つまりラル君は凄い存在なんだよ。特別に努力をしなくても、遊んでいるだけで強くなるのよ」


「本当! なら、勇者になることもできるかな!」


 努力をしなくても強くなれることを教えてもらい、気分が高揚する。


「あ、遊び人の勇者か。そ、それはそれでどうなんだろうか? 勇者のイメージをぶち壊すことになるぞ」


「そう? 私は遊び人でも、人々を救ってくれたら、それは勇者だと思うのだけどなぁ」


 人差し指を顎に置き、ソフィーお姉さんが言葉を漏らす。


「まぁ、ラルスがどんな人生を送るかは、こいつ次第だ。わたしたちは預かっている間は変な道に突き進まないように、見張っているしかないな」


「そうね。これでラル君のユニークスキルが分かったことだし、少しは捜査のヒントになるかもしれないわね。シルヴィア、今日はありがとう」


 ソフィーお姉さんが椅子から立ち上がり、シルヴィアお姉さんに礼を言う。


 もう帰るんだ。何だか寂しいな。もっとお城の中を見て回りたかった。


 どうにかしてもう少しお城にいられないかと考えていると、いいことを思い付く。


「ねぇ、昨日の水晶に出ていた魔法ってどんな効果なの?」


 2人訊ねると、お姉さんたちはお互いに顔を見合わせる。


 すると2人は心が通じ合っているようで、アイコンタクトで会話らしきものをしていた。


 そして最後に苦笑いを浮かべる。


「ごめんね。ラル君の魔法ってよく知らないのよ。名前からして身体能力を向上させるものだと思うのだけど」


「まぁ、せっかくだから調べてみるか。魔法が載っている本を探して来るよ」


 本を探すと言って、シルヴィアお姉さんはこの場から離れて行く。


 やった! これでもう少しだけお城に居ることができる!


 心の中で喜びながら、僕は本を探すのに時間がかかりますようにと神様にお願いした。


「あった。意外と直ぐに見つけられてラッキーだったよ」


 嬉しそうにニコッと笑みを浮かべて本を持って来るシルヴィアお姉さんを見て、僕は両手を頬に持っていく。


 そ、そんな! シルヴィアお姉さん、見つけるの早すぎるよ!


「えーと、確かラルスが習得している魔法はエンハンスドボディーとスピードスターだったよな」


 確認をしつつ、シルヴィアお姉さんは本のページを捲っていく。


「あった。エンハンスドボディーは……この魔法は2種類の効果を持つ。攻撃に使えば、瞬間的に神経による運動制御の抑制を外し、自分の筋肉の限界に近い力を発揮させることができる。そして防御に使えば体内の水分を利用し、攻撃を受けた際に生じる慣性力と粘性力によって、元の位置に留まろうとする力が働き、一時的に体内の水分が硬化することで、肉体に強度を与えることができる魔法である」


 シルヴィアお姉さんが本に書かれてある内容を読んでくれるも、何て言っているのか意味が分からなかった。


「えーと、例えばね。ラル君が悪い人にパンチをしたとするでしょう。すると正義の力で眠っているラル君の力が呼び覚まされて、途轍もない威力を発揮するのよ」


「ソフィー、君は何て言う説明をするんだ。間に受けたらどうする!」


 ソフィーお姉さんが説明をすると、なぜかシルヴィアお姉さんが怒った。


 でも、どうして突然シルヴィアお姉さんが声を上げたのかが分からず、首を傾げる。


「シルヴィア、ラル君のユニークスキルは、普通のユニークスキルを遥かに凌駕しているわ。少しでもラル君が自分の力のことを理解させないと、間違った方向に遊びを使ってしまうわ。私は一時的の保護者として、ラル君を間違った方向に育てたくない。だから、多少間違った覚え方をしていても、正しく使えるようにさせたいのよ」


 ソフィーお姉さんがシルヴィアお姉さんをジッと見つめる。するとシルヴィアお姉さんは小さく息を吐いた。


「それならそうと早く言ってくれ。確かに、ラルスの力は普通ではない。悪人に悪用される可能性もあるからな。分かった。話しの腰を折ってしまったな。続けてくれ」


 シルヴィアお姉さんが話しを再会するように言うと、ソフィーお姉さんは僕を見る。


「さっきは話しを中断してごめんね。それで続きなんだけど、ラル君が暴力を振るわれた時、正義の心がラル君の体を打たれ強くしてくれるのよ。これがエンハンスドボディーの効果ね」


 ソフィーお姉さんが魔法の説明を終えると、シルヴィアお姉さんに視線を向ける。


「ああ、次だったよな。えーと、スピードスターの説明は……あった。人が全力で走っている場合、足にかかる負荷は片足で跳ねる動作で30パーセントしかなく、まだ余裕がある。この魔法を発動することにより、走ることに必要な筋肉の収縮速度を速くすることで、通常よりも速く走ることを可能にする。その最高速度は、理論上で時速56キロから64キロと言われている」


「時速56キロから64キロで走ることができる魔法だなんて」


 シルヴィアお姉さんが読み上げた言葉を聞き、ソフィーお姉さんは驚く。


 でも、僕には本に書かれてある内容が分からなかった。


「ねぇ、僕にも分かるように教えてよ!」


「う、うん。そうだね。えーとね、とにかく普通の人よりも早く走れるようになるのよ。お馬さんと同じくらいにね」


「お馬さんと一緒に走ることができるの!」


 お馬さんのように走ることができると教えてもらい、とても嬉しい気分になった。


 だってお馬さん並みに走れるのなら、かけっこで1番になれるってことだもん!


「そろそろわたしは仕事に戻らないといけないな。その本はわたしが貸し出しの許可を取っておくから、ソフィーが持っていてくれ」


「うん、分かったわ。ありがとうシルヴィア」


 ソフィーお姉さんがシルヴィアお姉さんにお礼を言い、僕たちは城の書庫から出ることになった。

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