第33話 兵糧不足(バラギット視点)
ライゼル率いる軍に奇襲を受けたバラギット軍は、損害を計上するべく被害状況の確認を進めていた。
そんな中、部下から驚きの情報が舞い込んできた。
「兵糧がない、だと!?」
「はっ。先ほどの襲撃で、かなりの量を奪われてしまい、長期間の遠征は困難かと……」
「なんてことだ……」
予想もしていない事態に、バラギットは頭を抱えた。
グランバルトを制圧した以上、ライゼルにできることなどたかが知れている。
本拠地を制圧し、領国のほとんどを手中に収めた今、あとは残る勢力をどう料理するか。そういう段階だったはずだ。
しかし、現実はどうだ。兵糧を奪われたことで、こちらの選択肢は大きく制限され、撤退か早期決戦かの二択を迫られているではないか。
考え込むバラギットに部下が進言する。
「あの、足りない分の兵糧は市民から徴収してはいかがでしょう」
「……ダメだ。それはできない」
今回、バラギットはライゼルに対し反乱を起こしている身だ。戦で勝つのはもちろん、勝った後。すなわち、今後の領地経営まで見越した上で作戦を練らなくてはいけない。
食料の徴収などしてしまえば、バラギットに対する評価は落ち、さらなる反乱を誘発しかねない。
こちらはただでさえ反乱を起こした身なのだ。これ以上大義を失うようなことをしては、ついてくる者などいなくなってしまう。
「ライゼルめ……ここまで見越して兵糧を奪ったのか……」
兵数差という不利を逆手にとって、逆にこちらの取れる選択肢を狭めてきた。
交渉の場でこちらの思惑を看破し、暗殺を企てるその智謀。
降伏すると虚偽の情報を流して油断を誘い、奇襲を仕掛ける戦略眼。
先頭に立って戦場を駆ける武勇。
これらの派手な演出で注意を惹き、真の目的であった兵糧の奪取を成功させる、地に足ついた戦術。
次こそは油断するまいと思っても、ライゼルには常にその上を取られ続けてきた。
いったい自分は、あと何回ライゼルという人間の評価を改めるのだろう。
恐ろしい男だ、と思う。
かつての怠惰な姿勢はこちらの油断を誘う仮の姿で、水面下で己の刃を研ぎ続けてきたに違いない。
「ライゼル……次は全力で潰す……」
先ほどの奇襲で数を減らしたとはいえ、それでも5000近く兵は残っている。
この圧倒的な数で、策でも個人の武勇でも覆せない純粋な兵力差で、押し潰してみせよう。
ここまでライゼルが搦め手を用いてきたのは、逆に言えば正攻法で勝てないと思っていたからに他ならない。
だからこそ、これまでライゼルの小細工に翻弄され、いいようにされてしまったのだ。
短期決戦に誘導するため、兵糧を狙った。緒戦で有利を取るため、偽りの降伏で油断を誘い、奇襲を仕掛けた。
……結構なことだ。
いかに策を弄そうと、純粋な兵力の前には無意味なのだから。
「バラギット様、兵の準備が整いました。いつでも出陣できます」
部下が報告にやってくると、決意を固めたバラギットが立ち上がった。
「よし。目指すはライゼルの開拓地だ。……叩き潰すぞ。全力でな」
こうして、バラギットは全軍にあたる5000を率いてグランバルトを発つのだった。
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