第32話 防衛計画
領地に戻ると、ライゼルは防衛計画を練っていた。
敵の数はおよそ5000。対してこちらの数は、オーフェンの試算によれば多くても300がいいところ。
実に十倍以上もの差がついている。
シェフィが敵の兵糧を略奪したおかげで敵の動きは制限されるものの、この数的不利を覆さなくては、この戦いに勝機を見いだせない。
戦の専門家として、アニエスに尋ねた。
「アニエス、お前の意見が聞きたい。……お前だったら、どうやって倒す?」
「地力ではこちらが負けています。……そのため、短期決戦で、敵将の首を狙いにいくのがいいでしょう」
言うが易し。それができれば苦労しない。
「なあに、簡単なことですよ」
「フレイか。何か策があるんだな?」
「俺たちで一人あたり10人殺せば、敵は全滅。戦いにも勝てるって寸法でさぁ」
一人あたり10人殺したところで、せいぜい3000。5000の敵を全滅させるには至らない。
「援軍を呼ぶというのはどうでしょう」
「援軍?」
「はい。例えば、隣のモノマフ王国から呼んでみるとか……」
「援軍を待つだけの時間があるかどうか……。第一、うちとモノマフは同盟関係でもなんでもないんだぞ? 呼んだからって、来てくれるとは限らないだろ」
「そ、そうですよね……」
シュンとした様子でシェフィが沈む。
というか、亡命している身のシェフィに援軍など呼べるアテもないだろうに……
「それにしても、先ほどの撤退戦、実に見事でした。一人一人が死兵となり敵を食い止めるのはもちろん、隊列を乱さず被害を最小限に抑えるなど、なかなかできることではありません」
アニエスが感心した様子で頷く。
「なんだ。自画自賛か?」
「いえっ……! そんな……前線で戦う獣人の練度の高さに驚いていたのです。……よくぞあそこまで鍛えたものだなと」
「話がわかるな、アンタ」
アニエスの賞賛にフレイが気を良くする。
「通常、撤退戦は難易度が高く、殿を務める部隊の犠牲が多くなってしまいます。それをあそこまで被害を減らせたのですから、すでに精兵と言って差し支えないでしょう」
「撤退戦、か……」
ライゼルは戦に関しては素人だが、なんとなくアニエスの言わんとしていることはわかる。
通常、戦で最も被害が発生するのは追撃をかけられるときと言われている。
後ろを取られるのはもちろんのこと、相手としても守りを考える必要がなく、全力で逃げる相手の背を狙えるというのもあるのだろう。
それだけに、今回最小限の犠牲で撤退を完遂させたことは賞賛に値するのだが。
「だったら、こういうのはどうだろう」
◇
ライゼルが作戦を説明すると、オーフェンが唸った。
「……なるほど。面白い策ですが、いくつか問題もありますな」
「問題?」
「はっ、第一に、伏兵を忍ばせる地形が少ないことです。この辺りは砂漠に覆われており、遮蔽物が少ない。……そんな中伏兵を潜ませようとすれば、戦場にできる場所も限られてきます。そう都合よく、兵を忍ばせられる場所でもあれば話は変わるのですが……」
「なら、戦場はここにしよう」
ライゼルが指したのは、大河を越えた先のなだらかな丘陵地帯だった。
「そこは……たしか、以前盗賊の潜んでいた……」
「ここらには盗賊が潜めるだけの起伏がある。伏兵を隠すには、もってこいの場所だろ」
ここならば盗賊が狩場にしていた実績があり、伏兵を隠すのに適した場所だ。
また、ライゼルの配下には元盗賊も多く、この辺りの地理は把握している。
ここでなら、獣人にパワーで劣る彼らでも十分に力を発揮できることだろう。
「……そうだ。シェフィ。お前、土魔法が使えたよな?」
「はい。それが何か……?」
「ちょっと作ってもらいたいものがあるんだが」
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