第8話 北の王国
帝国の北。バルタザール領の北部を擁するモノマフ王国はライゼルの動きに警戒感を強めていた。
宰相や大臣たちを伴いバルタザール領について話し合う中、しわの刻まれた顔をしかめ、モノマフ王国の国王、イヴァン13世が髭を撫でた。
「砂漠の若造が大河沿いに港を造るらしいな……」
「はっ、ロンダー商会をはじめ、各商会に資金を募っているとのこと」
「まったく……内乱でもしてくれたら楽なものを……」
ともあれ、あの位置に港を築かれるのは問題だ。
モノマフ王国はバルタザール家と領地を接しており、これまではたびたび領地紛争を起こしてきた。
また、モノマフ王国から流れる大河が南のバルタザール領に流入しており、水運を用いた交易も行われてきたものの、港が築かれれば輸送される物資の量が増えることが予想される。
逆に言えば、川に港を築き円滑に物資の輸送ができるということは、上流に位置するモノマフ王国への侵攻が容易くなることを意味している。
「聞けば、砂漠の若造は財政を立て直すべく領地の開発を進めていると聞く。今回の開発もその一環と聞くが、どこまで正しいか……」
「違うのですか?」
「これが単なる内政の延長線にあるなら、な……。街作りは侵攻拠点を築くための隠れ蓑で、人や物資を集め川を使って国境まで輸送しようとしている可能性もある」
イヴァン13世の言葉に、宰相が息を飲んだ。
一応、今から準備をすれば迎撃は容易だが、問題はバルタザール家の後ろ盾に帝国があった場合だ。
侵攻計画がバルタザール家の独断ではなく帝国の意思によるものであれば、先手をとれたとて全面侵攻を防ぎ切ることは難しいだろう。
とはいえ、こちらから先制攻撃をしようものなら、連中に開戦の口実を与えてしまう。
「連中に攻められてからでは遅い。かと言って、手をこまねいていては後れをとってしまおう」
「いったい、どうすれば……」
「そうさな……シェフィを送り込もう。あやつに若造の真意を探らせる」
「お、お待ちください! シェフィに任せるのですか!? 彼女は騎士学校を卒業したばかりで、まだ経験も浅い……。他にもっと優秀な者がいるでしょう!」
「だからこそ、だ。顔が売れていない今なら、連中も警戒すまい。潜入任務にあたらせるなら、今が適任であろう」
「しかしですなぁ……」
こちらのスパイがバレてしまえばバルタザール家との関係悪化は避けられない。
ましてや相手は大陸一の領地を持つ帝国だ。こちらが負けることはないにせよ、大打撃は避けられない。
そのような重要な任務に、騎士学校を卒業して間もない者を任命するとは……
難色を示す宰相に、イヴァン13世が続けた。
「それに、やつは騎士学校を首席で卒業していると聞く。その上、バレたとて漏らされるような重要な情報も持たぬ。……他に適任はおるまいて」
任務をこなせる能力の高さ。バレた時のリスク。
この二つを天秤にかけた結果、この選択が最適解、ということか。
そこまで理解が及び、宰相が頭を下げた。
「……ははっ、それでは、ただちにシェフィを送り込みましょう」
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