第125話 事業拡大と研究所設立
回復薬販売で莫大な利益を得た社コーポレーションは、日本を代表するダンジョン関連企業として有名になっていた。
いや、ここまでくるとダンジョン関連なんて括りは不要かもしれない。
それほどまでにその名声は国内外を問わずに響き渡っているのだ。
それこそ世界の名だたる企業から買収やら共同開発の申し出などが、目を通すだけでも大変な数で毎日舞い込む始末。
なお勿論俺はそれの対処からは逃げさせてもらっている。
なにせ本業の探索者活動が忙しいのだ。早くアーサー達に対抗できるようにならないといけないし、それ以外でもやるべきこともやりたいことも山ほどある。
なのでそんな面倒なことの対処は会社に任せるに限る。
そんな俺だったが、出張前に大切な話があると呼び出されては顔を出さない訳にはいかなかった。
「きたな」
この防諜が施された会議室にいるのは社長(オヤジ)だけだった。
他の副社長や常務などは別の仕事が忙しいらしい。
「まず分かっていたことだが、ウチの業績が今の時点で尋常じゃないことになっている。まだ今年も半年ほど残っているが前年の倍以上の利益が出るのはほぼ確定的となった」
売り上げではなく利益が倍とか普通なら冗談でしかないのだが、これは紛れもない事実だ。
それどころかこのままのペースで回復薬販売が続けば、三倍や四倍もあり得るほどにその業績は好調だった。
なにせ回復薬はその気になれば元手がなくても作れるので。
それもあって株価も連日爆上がり。
今の社コーポレーションの資産はかなりのものとなっているとのこと。
一応社員に還元するために夏のボーナスは弾むことも決定しているそうだが、その程度では痛くも痒くもないのだとか。
そしてこのままでは支払う税金もとんでもないことになるらしい。
「その対策も兼ねて設備投資を行う。またそれに伴って事業拡大をすると同時に我が社専用の研究所を建設することを決定した」
研究所に関しては前々から話は進んでいたのが本決まりした形だった。
ただし元々計画していたよりも数倍は規模が大きくなっているようだが。
関係者以外立ち入り禁止の諜報対策なども万全に施したその研究所が出来れば、重要な情報は全てそこに置くことになっている。
「事業拡大ってのはどんなことを考えているんだ?」
「色々と計画しているが、まずは回復薬を応用した飲食物と医療品の開発を行う。要するにお前が出したアイデアを形にする訳だ」
しかも医療関係の開発の責任者は勘九郎となっていた。
信頼できる相手でそういう医学の知識もある人物なので最適ではあるだろう。
(そっか、あいつは探索者として活動する目的を達成したから、もうダンジョンに積極的に潜る必要はないのか)
完全に引退するかどうかは分からないが、今後は探索者や医者だった頃の経験を活かして探索者の第一線からは退くつもりなのだろう。
哲太の時もそうだったが、かつての仲間が一線から退くことはほんの少しだけ寂しくもあった。
本人が望みを叶えた末の終わりだとしても。
「研究所の建設については特急料金を支払って急ピッチで行ってもらっているので、そう遠くない内にできるはずだ。そうなった際に囮は不要となるだろう」
なるほど、それが俺を呼び出した本命の理由か。
「囮も始末についてはこっちに任せてもらえるか? 腐っても探索者だし利用方法はあるからな」
「分かった、任せよう。きっちりと片付けてくれるのなら、こちらとしても文句はないからな」
この期に及んで人殺しがいけないなんて会話をするほど俺も社長(オヤジ)も甘ちゃんではないので、それで話は終わりだ。
あとはその時がきたら証拠を残さずに始末をつければいいだけである。
「新事業についてだが、手始めに疲労回復効果を持った飲料水の開発を大手飲料メーカーと共同で行うこととなった」
自分達だけでやった方が利益的には大きい。
だけどそれをやってしまうと既存の飲料メーカー全てを敵に回すことになりかねない。
これから回復薬を使って色々な商品を開発していく上で一々既存のメーカーなどと争っていたら時間も手も足りなくなるのは目に見えているので、そうならないための共同開発とのこと。
要するに面倒なことになる前に味方を増やしておくってことだ。
「この新商品に関しては他社が開発する前に発売したい。だから急ピッチで開発を進めて早ければ数ヶ月後に販売に漕ぎつければと考えている」
世界初と二番目では大きな差があるので急ぐ必要があるらしい。
「その辺りのややこしい会社関連のことは任せるよ。こっちの本業に差し障りがない限りは協力するし」
ただ紅茶やお茶関連についてはこっちでも利用したいと頼んでおいた。
愛華の父親達が経営する予定の喫茶店の目玉商品にする予定なので。
そんな形で今後の予定を話し合っていると、最後に錬金素材作成の組み込まれた錬金剣の話になった。
「そういえば例の素材剣とやらは問題なく稼働しているのか?」
「あれか。壊れる前に使用回数を補充すればいつまでも使えるし順調に酷使されてるよ」
研究室の一角に設置された状態で永遠に回復されては素材を生み出すその姿は若干可哀そうではあった。
少しだけ回復薬で死なないように回復されて酷使されている人間のように見えて。
上限回数も五回と少ないから頻繁に回復されている姿もそれを助長した。
きっと今も外崎さんなどによって素材を吐き出さされては壊れないように回復されているに違いない。
(
その検証はスキルオーブが作れるようになった時になるだろう
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