第四章 5人目のB級誕生と事業拡大編

第113話  プロローグ クイーンスパイダーとコボルトキング

 改めて強くなると決意したがやるべき事に大きな違いはない。


 ランクを上げて力を付けること。

 そして錬金関連のスキルレベルを上げることが重要なことだ。


 だからここ数日は愛華のレベリングを先にやって限界が来たら俺が一人でボス周回をすることを繰り返していた。


 相手はF級試験会場となったダンジョンのボスでクイーンスパイダーが主に相手となった。


 時たまコボルトキングとかが出てくることもあったが、どちらにしてもカモでしかないので特に変わりはない。


「キシャアア!」


 どこから声が出ているのか分からないがそんな咆哮を上げてクイーンスパイダーが次々と手下のポイズンスパイダーを生み出していた。


 ジャイアントラットなどがやるスキルなどによって召喚された配下の魔物では経験値は手に入らない。


 だがこのクイーンスパイダーは巨大な体内に隠し持っている無数の卵が孵る形なせいなのか、生み出されたポイズンスパイダーを倒しても経験値が入る仕組みとなっているのだ。


 もっともその生み出される数は尋常ではなく、並の探索者はこの数の暴力によって飲み込まれてしまうことも多いと聞くが。


(経験値的にも美味いしスキルも手に入るし一石二鳥だな)


 昆虫系の魔物を一定数倒すと昆虫殺しインセクトキラーというスキルが手に入る。

 このスキルは昆虫タイプの魔物に対するダメージがレベルに応じて上昇するスキルだ。


 氾濫の際のフォレストアントで手に入ったスキルだが、昆虫の魔物を倒せば倒すだけレベルを上げられるのでクイーンスパイダーは俺にとって色んな意味で良い獲物だった。


 雪崩のように押し寄せてくるポイズンスパイダーをただ只管に剣を振るって切り刻んでいく。


 普通ならその倒した死体によってどんどん行動範囲が狭まっていくのだろうが、生憎と俺にはアルケミーボックスがあるので死体はすぐに収納できてしまう。


 既に解析率は100%に達しているポイズンスパイダーは解体する錬成紙と錬金紙になるので素材集めとしても丁度いいのだ。これまで紙系の素材となる魔物はあまりいなかったので。


(これで紙系の素材にはしばらく困らなそうだな)


 しばらく生み出されるポイズンスパイダーを狩り続けていれば終わりがやってくる。


 いくら巨大なクイーンスパイダーと言えど体内に保管してある卵の数には限界があるようだから。


 そうして全ての子供が倒されてなす術がなくなったクイーンスパイダーにできる行動はポイズンスパイダーと同じことだけ。


 体が巨大な分、威力が高くて吐く毒が強力だとかいう些細な違いはあるものの、俺からしたらそれが問題になることはない。


 更に周回すれば周回するほど昆虫殺しインセクトキラーのスキルレベルも上がって昆虫型の魔物に与えるダメージは大きくなっていくのだ。


 これで負け筋を見つける方が難しい。


 なのでサクッと噛みついてこようとしてくるクイーンスパイダーの脳天に剣を突きさして止めを刺す。


 死体が消えて手に入った魔石はダンジョンコアに返却すればまた周回の開始だ。


 今度の相手はコボルトキングが三体だった。

 それぞれが剣と槍、そして槌を持っている。


 キングというだけあってコボルトよりも素早いが、これまた俺の敵ではない。


 時間を掛けるのが惜しいので敵が動き出す前に接近してそのまま全員の首を刎ねる。


 最後に倒した剣を持った個体からボスの魔石が落ちてまた周回の準備が整った。

 ダンジョンコアも消えたり現れたりして忙しそうである。


 ちなみにコボルトキングは主にF級、クイーンスパイダーはE級のダンジョンで現れる。


 なのでやはりクイーンスパイダーの方が経験値的には美味い。

 もっともその分だけ強敵となっているのだが。


「ふう、いったん休憩するか」


 その後も何度かボスを倒した辺りで枯渇していたMPも回復してきているので錬金などをして暇をつぶすとしよう。


「相変わらず意味不明なくらいハイペースな周回ですね」

「そうか? これでも休憩している愛華の方に魔物が行かないよう気を配ってるんだけどな」


 先ほどまで俺の補助の元、周回を行っていた愛華は遂にランク10に到達していた。

 それもあって今は休憩中なのである。


 ランク10になるまでは愛華を重点的に鍛えていたこともあって俺の方はフォレストアントを倒した時になったランク11のままだ。


 だけどもうそろそろあとランク12にも上がっていい頃合いだと思う。


 そうなれば全ステータスが150を超えるので錬金真眼のレベルも上がるのだ。


(それで鑑定能力が強化されればいいんだけどな)


 そうならなかったのならどうしようか。

 レベルⅤにはレシピの数もステータスも足りてないのですぐに出来そうもないのである。


(そもそも錬金アイテムが見つからないのが問題だよな。これまでダンジョンで発見した錬金アイテムなんて低位の回復薬と干渉器くらいだぞ)


 他はアマデウスの褒美や錬金術師の秘奥マスターアルケミーの効果で手に入ったものばかり。このことから分かる通り、どうやらダンジョンでは錬金アイテムはほとんど存在していないようなのだ。


(明らかに偏っているけど、これはわざとだよな)


 これだけ現れないところを見ると錬金アイテムがドロップしないように操作されているとしか思えない。


 そしてそれに御使いが関係していると俺は睨んでいた。


 だがそうする意味が何なのかは今の情報では判断がつかない。


「まあいいや。幸いなことに俺だけならランクを上げれば新たなレシピは手に入るからな」


 そんなことを呟きながら外崎さんから貰った試作品の飲料水を飲んでみる。


 疲労回復効果だけが込められたその液体は回復薬ほど不味くはなかった。

 そして飲んだら体の疲労が抜けていくのが分かる。


 ただし同時に美味しいとは口が裂けても言えない代物でもあった。


 残念なことにウチはダンジョン研究方面では進んでいても、そういった飲料水を開発するノウハウなどないに等しい。


 飲食事業部はあるがそれはどちらかと言えば店を出す形の方が主で飲食物の味の研究や改良などは行っていないのだ。


 これでも疲労が回復するのなら売れるかもしれないが、やはりもう少し味を良くしてほしいのが正直な感想である。


 一般の消費者もその方が手を伸ばしてくれるだろう。誰だって不味いより美味い方がいいだろうし。


「うーん、やっぱり美味しくはないですよね」

「だな」

「私的にはもっと甘いと嬉しいんですけどね」

「なるほど。ああ、それとこっちも飲んでくれ」


 そう述べながら俺はまた別の種類の液体を愛華に手渡す。


「これは何ですか? 容器からして回復薬系の何かみたいですけど」


 飲み切ったのをしっかりと確認してから俺はその質問に答えた。


「残ってた最後の各種ステータスアップポーションだよ」

「げほ!?」


 案の定、驚いた愛華が咽ていた。


 貴重な最後のステータスアップポーションを吐き出されては困るので飲んでから答えて正解である。


「ふ、不意打ちでなんてものを飲ませるんですか!?」

「飲む、飲まないの面倒な問答したくなかったからな。それとも無理矢理飲ませて欲しかったか?」


 俺のいない間に会社に忍び込もうとした奴がいたこと。


 そしてそいつに愛華が危うく操られかけたことは聞き及んでいる。


 その原因はそういったものに対抗できるスキルがないこともそうだが、ステータスが低過ぎることも一因だ。


 少なくともMIDがもっと高ければあの程度の思考誘導には抵抗することが出来たはず。


 御使いなんて厄介な相手をするのに今の愛華のステータスは心許なさ過ぎた。


 だからここで可能な限りの強化をしておきたいのである。


 今後のことを考えれば朱里がもう少し自由に動けるようにしておきたい。


 現状だと愛華などの護衛に手を割かれているので、その負担を少しでも減らしたいのだ。


「分かりましたよ。無理矢理飲まされるのは嫌だから大人しく自分で飲みます。足手まといになりたくはないので」


 貴重な物をありがとうございます、とお礼を言って愛華は残っていた中高位の全てのステータスアップポーションを一本ずつ飲んだ。


 竜殺しの指輪も真価を発揮できるようになったし、これで大分マシになっただろう。


 そんなことをしながらボスを周回することしばらく遂にその時は来た。


「よし、これでランク12だ」


 更にほぼ同じタイミングで錬金スキルもⅣに上がってくれた。


「どうなったんですか? 新しい能力は増えました?」

「そうだな、嬉しいことに色々と増えたよ」


 そう告げて俺はステータスカードを開いて愛華に見せてやった。



五十里 愛華

ランク10

ステータス

HP  49(39)

MP  77(67)

STR 37(27)

VIT 38(28)

INT 60(50)

MID 42(32)

AGI 39(29)

DEX 59(49)

LUC 52(42)

スキル なし

ジョブ 薬師(MP2 INT2 DEX2 LUC2)

装備 竜殺し指輪(全ステータスプラス10)

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