第103話 F級とB級の戦い
素のステータスが前より上がっているから爆裂玉の威力も強くなっている。
そのことは分かってはいた上で使用したのが、やはり至近距離で爆発させるとこちらにも少なくないダメージがある上にかなり痛い。
「げほ、げほ」
爆発の威力と衝撃で腕はボロボロ。
体も壁に叩きつけられたが生きてさえいれば問題ない。
威力も上がっているがVITも前より高いから損傷具合としては前のステータスの時とそう変わりがないと言ったところだろうか。
すぐに低位回復薬を飲んでHPを回復させると同時にボロボロになった腕などにもかけて修復を促す。
だが俺がこれだけのダメージを負ったというのに相手の方は身体に損傷を負った様子はなかった。
(身代わりの指輪でも装備してたのか。厄介な)
だが身代わりの指輪が肩代わりできるのは肉体へのダメージのみ。
身に着けた装備品などは対象外だ。
だから爆発の直撃を受けたフードなどは吹き飛んでおり、隠されていたその顔は晒すことには成功していた。
その見た目は金髪碧眼の女性であり明らかに日本人ではない。
そしてその顔には見覚えがあった。
もっとも直接の面識はないが。
「あなた、正気!? こんな自爆紛いな特攻を仕掛けてくるなんて!」
こちらに少なくないダメージを与えられたことを喜ぶでもなく相手の女は信じられないといった様子でそう言い放ってきた。
その眼には理解不能な何かを見るような若干の恐怖の色があるような感じがするのだが気のせいだろうか。
「まだ戦いが終わった訳でもないのに問答なんて随分と余裕だな? イギリスのB級探索者のソフィア・アリストナリーさんよ」
そう、こいつは海外のB級探索者でそれなりの有名人だ。
多種多様な魔法を操ることから七色の魔術師と呼ばれ、その可憐な容姿からテレビなどにも引っ張りだこな世界的な探索者という奴だ。
その有名人がこんな極東のE級ダンジョンでこそこそ何かをやっていた。
その情報だけで非常に色々と考えさせられるというものだ。
「世界的に有名なB級探索者様がこんな辺鄙な島国のダンジョンを崩壊させようだなんて一体何が目的なんだ? 是非とも教えてくれよ」
「……それが分かるということはやはりあなたも神の使いの啓示を受けているのね。ねえ、落ちぶれた隻眼の錬成術師さん?」
この眼帯だけでその名が分かる辺り、どうやら俺のこともある程度は把握されているようだ。
(それにしても神の使いの啓示か)
こいつが電波でも受信している頭のおかしい奴でないのなら、その言葉に該当するものは一つしか思い当たらない。
御使いだ。
こいつは御使いの存在を知っている。
そしてこの口ぶりだとそいつから何らかの情報などを与えられていると思われた。
「なんだ? お前はその神の使いとやらの指示に従ってダンジョン崩壊を引き起こそうとしてるってのか? しかも転移型ダンジョンで。それがどういう意味を持ってるか分からない訳じゃないよな」
「……承知の上よ。転移型ダンジョンが崩壊を起こすとなれば世界中で常識とされていたダンジョンの安全性が揺らぐことになる」
そう、転移型ダンジョンでは氾濫も崩壊も起こらないとされていた。
だからこそ東京の都心にそういったダンジョンが現れてもダンジョンを消滅させずに最低限の見張りを置く程度で良かったのだ。
だがそうではないと分かったら世界中で転移ダンジョンも消滅させる動きが出てくるに決まっている。
それが今後の背彼の情勢にどれほどの影響を及ぼすのかは想像できないほどだ。
この五年の間に世界では良くも悪くもダンジョンを利用しようと様々な対応がなされてきた。
そういった経緯から世界の国の中にはダンジョンから取れる物資や素材などで国の経済を支えているところもあるくらいなのだ。
そういった国がダンジョンを減らさなければならなくなったら国の基盤が揺らぐことになる。
また、そういった小難しい話を抜きにしても都会の真ん中で氾濫なんかが起こればどれだけ民間人に被害が出るか分かったものではない。
「それでも私達は手段を選んではいられないのよ。例え少なくない一般人を犠牲にすることになったとしても」
「そうか」
そのやりきれない表情から望んでやっていることではなさそうなのは分かる。
こいつもこいつで複雑な事情を抱えているのだろう。
あるいは御使いに逆らえないとかもあるかもしれない。
だがそんな事情は俺の知ったことではない。
「とりあえず色々と聞きたいことがあるから痛い目を見る前に大人しく投降してくれないか?」
「それはこちらのセリフよ」
互いに譲る気がないのは明白だ。
ならば話は早い。
勝った方が自分の意見を通せる。
実力主義の実に探索者らしい話だ。
「言っておくけどさっきまでの私と同じだとは思わないことね。正体を隠す必要なくなった以上はここからは本気でいくことになるわよ!?」
会話を無視して無言で爆裂玉を投じられたのが余程意外だったのか、語尾が驚きに満ちている。
そもそもまだ会話を続けようとしているなんてB級のくせに随分と呑気な話だ。
ボロボロになった腕も話している間に治りきった以上は仕掛けられるタイミングで遠慮する訳がないだろうに。
「アイスシールド!」
それでも瞬時に発動した防御魔法によって展開した大きな氷の盾によって無傷で済ませるのは流石の一言だろうか。
もっともこちらもこの程度で勝てるなんて欠片も思っちゃいない。
「アイスバレット」
続いて発動された魔法によってソフィアの周囲に無数の氷の弾が浮かび上がる。
詠唱時間もなく魔法を発動させられるのは腕が良い証拠だった。
その氷の弾丸がまるで雨のように俺に降り注ぐ前に複数の爆裂玉を投じてその数を減らしておく。
爆発と衝撃によってかなりの数の氷の弾丸が破壊され、また描く軌道もソフィアの思い通りにならない。
それによって出来た隙間をすり抜けるようにして俺は敵へと接近していく。
魔法職相手の遠距離戦ではこちらの不利は否めないのでどうにか近寄らなければ。
だが相手もそれは承知の上。
「バーンフィールド」
その間を遮るかのように一帯が炎の海と化す。
安易に踏み込めば足が燃え爛れることは間違いない。
その炎の海に対して俺は迷うことなく足を踏み出した。
「あ、あなたさっきから正気なの!?」
敵が何か言っているが気にしない。
足が高温と炎で焼かれても一気に駆け抜ければいいのだ。
回復薬など幾らでもあるのだし。
「お前こそ戦闘中にゴチャゴチャ五月蠅いぞ。黙って戦え」
燃える足など無視して爆裂玉をまた投じてやったが予想通りアイスシールドで防がれてしまった。
だが防ぐために目の為の氷の盾を展開したことで視界が遮られているはず。
その間に一気に近づこうとすると、
「ライトニング」
本来なら死角となる上空から複数も雷が降り注ぐ。
バーンフィールドで足元に注意を引き付けた上でのこれは巧いやり方だ。
盾に隠れながらも攻撃できる手段を持っているのも良い。
残念ながら錬金真眼を持つ俺には全て見えているので意味はなかったが。
降り注ぐ雷は視線を向けるまでもなく、上に投じた錬金剣で防ぐ。
その隙にあっという間に炎の海も踏破していく。
「ス、ストーンウォール」
相手も距離を取ろうと石の壁を張って足止めを図るが、それはぶん殴って一撃で破壊してやった。
しかも破壊された壁の破片が術者本人のソフィア降り注ぐ始末。
「アイスシールド!」
詠唱がないからどうにか対応できているが、どうやら詠唱せずに使える魔法は弱いものばかりのようだ。
もっと広範囲高威力の魔法を使ってこないことからもそれは間違いない。
とはいえ魔法職は元々そういうものなので仕方がない。
むしろ詠唱せずにここまでの威力を出せるだけ優秀な方だろう。
降り注ぐ石の破片に対応している間にもどんどん距離は縮まっている。
もうすぐ射程範囲内だ。
「ブラストボム!」
それが分かっているのか相手も必死に魔法を唱えているがやはり選ぶ魔法は弱いものばかりだ。
しかも焦ったのかこの魔法のチョイスは宜しくない。
宙に浮いた複数の炎の玉が俺とソフィアの間を遮ろうとする。
これは機雷のようなもので触れたら爆発してダメージを与えるものだ。
一つでも触れたら連鎖的に他のも爆発することになるので普通なら触れないように気を付けなければならない魔法である。
でも今の俺を倒せるほどの威力は持っていない。
なので無視するに限る。
俺は一気に加速して体を炎の玉と玉の間に捻じ込んでいく。
その際に玉に触れることは避けられなかったから爆発するが、その前に身体を前へと進ませればいい。
そして後頭部や背中が焼かれる感覚を覚えながらも俺は遂に敵を射程圏内に捉えた。
「う、嘘でしょ!?」
接近すればこちらのものだ。
さっきまでは殺さないように手加減していたが現役のB級ならVITの低い魔法職でもそう簡単に死なないからその必要もあるまい。
「アイスシー」
「遅い」
「ぐう!?」
相手が氷の盾に身を隠す前に俺の膝蹴りが相手の腹部に突き刺さる。
それによって一瞬息が出来なくなったのか苦しそうに前屈みになったソフィアの口からコホッと空気が漏れる音がして言葉が中断されていた。
これでは魔法を発動できないはず。
そのまま前に突き出された顔を鷲掴みにすると仰向けになるように後頭部から地面に叩きつけた。
そして空気を求めて開いていた口を空いている手で乱暴に掴む。
「むう!?」
「おっと、動くなよ。下手に動くと口の中に入れた爆裂玉が作動するかもしれないぞ」
仮にこれまでの行動がフェイクで実は言葉を発しなくても魔法が使えたとしても問題ない。
こうなれば敵が何かする前に俺が動く方が早いからだ。
「それとも詠唱できないように舌を切って欲しいか?」
そう言いながら組み伏せたB級がどう反撃をしてくるのかと様子を眺めていたが、その顔は歯向かう意思が感じられないどころか明らかな恐怖の色を湛えていた。
口を塞いでいるので言葉は発せられないだろうが、それがなかったらこのまま降参しそうな様子である。
(ふう、結構やり辛かったな)
一見すると余裕に制圧したように思えるかもしれないが受けたダメージ的にはこちらの方が圧倒的に大きい。
足や背中などが焼け爛れているのが見なくても分かる。
それと自分のスキルが少な過ぎるのも再確認できた。
敵が純粋な魔法職で接近さえできればどうにかなったので良かったが、これが椎平のような近接もこなす相手だったらヤバかったかもしれない。
とはいえ勝ちは勝ちだ。
「さてと、敗者には勝者の要求には従ってもらうぞ」
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