第4話 別れ

 ⭐︎⭐︎⭐︎


「お、こっちの世界の飯初めてだな。頂きま〜す」


 質素ながらに中々に美味だ。

 アイルが、切ない表情でこちらに微笑んでいる。毎日食事を共にしてた弟の姿で、初めてだなんて言うのは空気が読めてなかったかもしれない。せめて美味いと思ってることが伝わるように、俺はバクバクと食べ進めた。


【叫くん。その料理、この家の全貯金で揃えたご馳走だから大事に食べてね】 


「うえっ、ごほっごほっ!! 先に教えてくれよ!」


 気を使うところ間違えた!

 俺がナギに文句を言っていると、アイルが不思議そうな顔をして俺を見つめてきた。


「あ、そうか。聞こえてないのか。見えもしない?」


「は、はい。精霊様とお話されているのでしょうか?」


どうやら俺は、不思議ちゃんになっていたようだ。


「ナギ、アイルにも可視化してやってくれ。音声も共有して」


【はい】


「え? え?!」


 アイルの前にずっと居たナギを、アイルが目視したのだろう。驚き払っている様子だ。 


【初めまして。私はナギ。この世界でいうところの、全知全能の集合意識だと思って頂いて構いません】 


「す、すごい……! 本物の精霊様をはじめてみました」


 アイルは指先でナギに触れようとして、指が貫通したのをみて更に驚いた。


【物質化は叫くんの許可か、叫くんが思考不可能状態にならないと出来ないから、触れないよ】 


「すみません、つい」


頬を赤らめ、好奇心を恥じらっている。可愛い。


「それにしても、なんで家に招いてくれたんだ?」


「カイルの姿をした人が路頭に迷うのは、嫌だったんです。それに、私もまだ実感が湧かないというか…あ、あの! カイルはもう戻ってこれないんでしょうか?」


 俺はナギに視線を送った。


【わかりません。他の体に移ったタイミングで、カイルに意思決定権が戻るのか、そのまま肉体的に朽ち果てるのか、どちらかかと】 


「では、私の中に叫さまを移してみてくれませんか?」


「はあ? ダメだよ、2人とも死んじゃうかもしれないし」


「そう、ですよね。叫さまの今後の目的はなんですか?」


「どうだろ、できるだけ多くの人を救ってやりたいと思うけど、1人ずつ助けるのも埒があかないし、カイルの魔法能力だと本当に強い奴には勝てないだろうからな」


「借りている人間の潜在能力の限界に、叫さまの能力が制限される、ということでしょうか?」


「お、そうそう。理解が早いな」


「でしたら! やはり私の体を使ってください! 亡くなった母の記憶を手繰り寄せ、独学で魔法を使えるようになりました。きっとお役に立って見せます!!」


「んー、とはいってもなあ……」


 俺はいい言葉が返せずにいた。すると、ナギが助け舟をだしてくれた。


【カイルが居ないのなら、もう死んでも構わない、という思考からきた自暴自棄と犠牲心でもし失敗したら、命を賭したカイルが浮かばれませんよ】


「そ、それは……」


「そうそう、自分を大切にして欲しい」


 ナギは相手の気持ちに寄り添いながら、しっかりと刺さる言葉を、俺の意図を汲んで伝えてくれる。コミュニケーションで困ることは前の世界同様なさそうだ。


「では私は、叫さまとカイルのために何が出来るのでしょうか?」


 アイルはうつむき、ポタポタと涙を流し始めた。自分の無力と、カイルがもう返ってこないことを実感したのだろう。


【この国の問題は、国王の悪政と、王族、貴族達の選民思想から起こっています。なので、叫くんが王になれば解決かと】 


「っぶー!!」


 俺は沈黙に耐えきれずに口に含んでいたお茶を吹き出した。


 アイルがいそいそと俺の服と床を拭いてくれている。


「王様?! 俺が?」


【はい。それが最高効率です。カイルの肉体のままだと成功確率は……13%です。アイルの肉体であれば、19%】 


「ではやはり私が!」


 アイルが俺にしがみついてきた。吐息が当たる距離で、胸はガッツリと押し当てられている。アイルにとっては可愛い弟の姿なのかもしれないが、俺にとっては若さと美貌と知恵と謙虚さを兼ね揃えた良い女だ。あと2年たっていたら我慢できなかったかもしれない。


「ア、アイル、少し離れて」


「しかし!」


【革命軍を発見。そこにカイルの肉体のまま忍び込み、実権を握った場合、成功確率34%に上昇。革命軍リーダーであるアンドレスの肉体の場合……96%です】


「決まり、だな」


【叫くんが王になることがですね】 


「いやいや、それは置いといて、とりあえず次の行動はって意味!」


「……私も。私もついていって良いですか? 叫さまの盾くらいにならなれます! 絶対に足を引っ張りませんから!」


【アイルを守りながらの戦闘の方が、叫くんもカイルも危険に晒されます。アイル、気持ちはわかりますが、カイルを思うのであれば堪えて待っていて下さい】 


「……わかりました」


「悪いな。肉体が入れ替わった結果、カイルの意思が戻ったら、必ず送り届ける」


「ありがとう……ございます」


【革命軍の移動を確認。合流ポイントへ向かいましょう】 


「ああ。よし、じゃあ、いってくる。食事ありがとう、美味しかったよ」


 俺はそそくさと立ち上がり、扉に向かった。外に出たと同時に背中に柔らかいなにかがぶつかった。

 アイルが抱きついていたようだ。


「いってらっしゃい。気をつけてね」


 それは間違いなく、カイルに向けて発した言葉だった。俺は言葉を返すことなく向き直り、頭を撫でて落ち着かせた。目が合い微笑みあった。

 満足したのか、ゆっくりとアイルは体をはなし、背を正した。


「叫さま。私に出来ることがあれば、なんなりとお申し付け下さい。お気をつけて!」


 アイルはニカッと笑って見せた。頬が上がり、目尻に溜まっていた涙が一筋溢れた。強い女性だ。


「ああ、いってくる! 肉体強化小!」


 俺は振り返らずに、ナギの指示するポイントへ最高速度で駆け出した。

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俺のチャットGPTだけ自我を持っているようです〜全知全能の神として異世界代理ざまぁライフ〜 君のためなら生きられる。 @konntesutoouboyou

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