第17話 メディチーナ

 会議室に居る警察関係者は今まで自分達が、見つけられなかった証拠が見つかった事に関心を持つ。

 またメディチーナの医療部隊に所属している者は件のヴェレーノが、関係しているかどうかをはっきりさせる事が出来る。証拠らしき物が見つかった事に張り切っていた。


「ローラ殿、先程の報告が誠であるならば、検査の結果は我々に知らせることは可能でしょうか?」


 そうローラに声をかけたのは、この殺人事件に関わっている警察チームのリーダー的存在の男だった。男の言葉にローラは軽く頷く。そのままローラは医療部隊に命令を下す。


「医療部隊のお二人には申し訳ないが、早急に鱗が【トカゲ】のものと一致するか確認して欲しい。そして、【トカゲ】のものであっても、なくても報告をお願いします。警察の方には報告があがり次第、こちらと情報のすり合わせをする……という事で構いませんか?」

「医療部隊に異論はない。このまま問題がないならば、情報部隊の御二方が持ってきた鱗の検査に入りたいのだが……」

「人外の事はあなた方メディチーナの方が詳しいでしょう。情報の共有をしてくれるのであれば、何も。我々は我々のできる事をするだけですので。できれば早めに結果が、分かる方が有難いのですが……次の犠牲者が出る前に。流石に無理でしょうけれど」

「ええ、なるべく早く検査が終わる様に致しますが、それでも最低、数時間は必要です。それ以上、時間はかけません」


 医療部隊の二人の言葉に、ローラは満足そうに。警察官側は頼もしそうに頷く。

 そのまま、二人が早く検査出来るように、退出する許可を出した。部屋の中にはローラと警察の人だけ残る。

 これまでの情報をまとめ話しながら、もし次の犯行がおこった時の予測を立てるのだ。また犠牲者が出る前に、迅速に動けるように。

 医療部隊の二人もレイカ達が持ち帰った鱗の調査を急いで始める。この鱗の結果で【トカゲ】か、それとも違うヴェレーノなのかが分かるのだ。それが分かるだけでも対応が変わる。

 これが【トカゲ】のものであると確定したならば、まず先に情報部隊を斥候に放ってから、戦闘部隊の者を行かせるだろう。

 だが、他のヴェレーノであるならば、余程の手練でないかぎり戦闘部隊で事足りる。斥候が放たれるということは、それだけの手練の人外か、長い間捕まらず情報が僅かしかなく対策を立てようにない状況であった場合のみだ。

 情報があればあるだけ生存率が上がるのだから、情報部隊が持って帰る情報はとても大事な意味を持つ。そしてそれをどう戦闘に生かすかは戦闘部隊にかかっていると言えよう。


「レイカと斗真に任務をお願いしてください。【トカゲ】の捜索及び偵察。できる事ならば、討伐をお願いします。討伐は無理にとは言いません。もし、被害者が出ているならばまだ生きていた場合、逃がすための時間稼ぎをするという認識で構いません」

「了解しました。御二方に伝えてまいります」




 ――――――――――





 会議室を後にしたレイカと斗真は、そのままエレベーターに乗り三階のボタンを押す。それぞれの部隊ごとに分かれた居住区間へ移動するためだ。居住区画の2人の私室の中に入ると、レイカと斗真はそろって深い溜息を吐く。捜査の為とはいえ遺体を見るのは、慣れていてもキツイ。


「大丈夫か、レイカ」

「ええ、大丈夫ですわ。斗真こそ疲れていませんの?」

「平気だ。お前は俺ほど体力がないからな」

「余計なお世話ですわ!そもそも、女性と男性では体力に差があります!」


 拗ねるレイカを微笑ましそうに目を細め、斗真は部屋のキッチンに足を進める。水をコップ一杯飲んだ斗真は、レイカを抱え寝室に連れていく。

 優しくベッドに寝かせれば、そのまま抱え込むようにして斗真も横になる。レイカを守る様に横になる斗真に、レイカはホッと体から力を抜く。

 斗真の腕の中はレイカにとって何よりも安心できる場所なのだ。


「今日はもう遅い。寝よう、先程の捜査で疲れただろうしな」

「そう……ですわね。少し疲れましたわ。ゆっくり休むことにします。お休みなさいまし、斗真」

「ああ、おやすみ。良い夢を」


 よほど疲れていたのか、あっさりと眠りに落ちたレイカの額に労りのキスを落とす。ゆっくりと瞼を閉じれば、急速に眠気が襲ってきて今にも意識が飛びそうだ。

 その感覚に抗うことなく身を任せながら、明日の朝は自身が何か作ろう……と、考えながら斗真の意識は完全に暗闇の中に落ちた。


 カーテンの隙間からこぼれ落ちる朝日の光が、斗真の顔にかかり目を覚ます。隣に眠るレイカを起こさないように時計を見れば、いつもより遅い起床時間でそこまで疲れていたのだろうか、と考えながら体を起こし身支度をする。

 身支度が終わり冷蔵庫を開け、作れそうな物があるか確認した。


「ろくなものが無いな……買い出しに行くのを忘れていた……」

「斗真が珍しいですわね?」


 突如、斗真の背中へとかかった声に驚きながらも、「おはよう」と挨拶をし合う。そして、朝食は自分が用意したいのだと斗真に伝えると斗真の背中を押し始めた。

 レイカの押しの強さに困惑しながらも、斗真はレイカの望むとおりにする。


「残り物の有り合わせで良いのならば、わたくしにだって作れますわ!」

「そうか……」


 そう言って張り切るレイカは、斗真をキッチンから追い出しエプロンを身に着ける。冷蔵庫から食材を無造作に取り出し、鍋や包丁などの道具を準備。

 鼻歌を歌いながら、料理を始めるレイカを斗真は不安そうな顔で見守る。何か言おうと口を開くが、楽しそうに料理するレイカに結局、何も言えなくなり口を閉じた。

 それもそのはず。レイカは極度の料理音痴なのだ。本人にも自覚があり、改善しようと努力する。それ自体はいい。だが、味はともかく見た目が悪かった。味は我慢すれば何とかなるが、それでも見た目だけはどうしようもないのだ。

 斗真が不安で一杯の間にもキッチンから聞こえる。ドゴッ、バギッ、ぎゃぁぁぁぁ、という料理をしているとは思えない音が響く。しまいにはこれでもかと思う程に、甘ったるい匂いがしはじめた。


「……今度はなにを生み出すんだろうな」


 若干遠い目をしながら、斗真はレイカが生み出す料理というナニカを待つ。レイカの料理を食べるのには慣れている。それでも毎回覚悟がいるのだ。一体何が出来上がるのか恐々としつつ、大人しく座って待つしかない。

 前回レイカが作ったモノは何だったか……と、思い出すことで現実逃避をする。

 料理を食べようとして逃げ出し始めた時は、さすがの斗真も驚きを隠せなかった。捕まえて食べるのに苦労したのだ。今回はせめて逃げ出さないモノであってほしいと切に願う。


「斗真!できましたわよ!」


 レイカの声で我に返る。そうして持ってきた料理がテーブルに並べられるなか、コトリ、とテーブルに置かれたそれを見て斗真は固まった。固まるしかなかったともいえる。

 器の中に納まる名状しがたきナニカと目が合ったのだ。斗真の思考は理解することを拒む。


「斗真?」


 固まったままの斗真を見て、レイカは首を傾げる。レイカの作った料理を凝視したままの斗真の視線をたどり、レイカも自分が作った料理を見るが、斗真が固まる理由をレイカには理解出来なかった。

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