第6話
モンスター名:シャドウデビル
レベル:105
腕力値: 50
体力値: 80
俊敏値:490
技術値:120
知力値:100
魔力値:150
運勢値: 50
咄嗟に【鑑定】スキルで壁の染みを調べてみると、その正体はレベル100を超える魔物だった。ステータスは全体的にバランスが良い感じで、その中でも俊敏値が飛び抜けているのがわかる。
「こいつめ……!」
俺は安寧の指輪のおかげか緊張することもなく落ち着いていて、モンスターだと判明したのち即座に蛇王剣で攻撃することができた。よし、影に命中したぞ。
『クククッ』
「な、何っ⁉」
まるで効いてないといわんばかりに笑い声を上げる影。まさか、蛇王剣による攻撃が通じないだと……? いや、いくら俺のステータスが低いといっても伝説の武器だからそんなはずはないし、命中すれば内部で剣が八つに分かれると説明にあった。となると、そもそも命中してないってことか? おかしいな。確かに影に当たったはずだが……。
「うっ……!」
『ケケケッ』
右の上腕部に痛みが走ったかと思うと、その部分がぱっくりと切れて血が線状に滲んでいた。見ると、目の前にいたはずのシャドウデビルは後ろの壁に張り付いて笑っていたので、おそらく移動しながら攻撃してきたんだ。あまりにも速いもんだから見えなかった。さすが、俊敏値がこれほどまでに高いだけある。
しかし、相手を褒めてばかりもいられない。どうやったら捉えられる? やつはそれ以降も目に見えない速度で壁から壁、または床や天井に移動しつつ俺に攻撃してきた。何度も何度も……。
それでも、戦神の籠手のおかげかあまり痛みを感じないし、仙人の平服の自動修復機能や安寧の指輪の自動体力回復機能もある。
ただ、その速度がとてもゆっくりだし、この尋常じゃない速度の攻撃を繰り返されるといずれは致命傷になりそうだからまずい。
一体どうすれば……って、そうだ。よく考えたら、いくら影を攻撃してもしょうがないんじゃないか? 影ってことはどこかに本体がいるはずだから、それを攻撃しないと倒せないのかもしれない。
「…………」
問題はその本体がどこにあるかってことなんだが、やっぱりどう見てもすぐそこにいるウォールのミイラだよな。悪魔の実を食べてシャドウデビルに乗っ取られたと考えると、すべての線が繋がる。
「ウォール、すまん!」
俺は謝罪しつつ、ミイラの背中に蛇王剣を突き立てた。
『グガアアアアアッ!』
ミイラの胴体から八つの剣が飛び出し、耳を塞ぎたくなるようなけたたましい悲鳴が聞こえてきた。かなり損壊してしまって気の毒だが、仕方ない。しばらくすると蛇王剣が元の形状に戻り、俺はそのタイミングでそっと剣を抜いた。
『レベルアップしました』
お、そりゃ105レベルのモンスターを倒したらそうなるよな。
ん? 早速ステータスを確認しようとして、俺はとあることに気づいた。それまでテーブルのほうに前のめりになってたからわからなかったが、ウォールのミイラはネックレスのようなものを身に着けていたんだ。もしや、これがエデンの首輪か。申し訳ないと思いつつそれを剥がすと、ミイラはまたたく間に粉々になり、白い髪が数本しか残らなくなってしまった。ありゃ……。
『エデンの首輪を獲得しました』
とりあえずどんな効果なのか【鑑定】で調べてみるか。
エデンの首輪:遥か昔、エデンという名の絶世の美女が身に着けていたとされるネックレス。これをつけるだけで女性は美しい顔立ちとスレンダーなボディを獲得でき、男性であればとても凛々しい顔と均整の取れた筋肉質な体つきになることができる。また、飢餓状態にとても強くなり、肌が荒れにくくなるというダイエット・美容効果も持つ。
こりゃまたとんでもない装備を手に入れたな。【年齢操作】も併用したら、ピチピチのイケメンになってしまう。なんでウォールがこれだけ宝箱に入れずに常に身に着けていたのかっていう疑問については、閉じ込められた状況で食料が少なくて空腹だったことからも納得できる。
安寧の指輪を装備してなかったのは、洞窟の中に長くいることで悟りを開いたような心境になってて緊張する場面もないし、装備する必要がなくなったんだと思う。
さて、ウォールの白髪と日記とテーブル上の魔石(微小)を回収して【倉庫】に保管したところで、改めて自分のステータスを見てみよう。
名前:上村友則
レベル:86
腕力値:1
体力値:1
俊敏値:1
技術値:1
知力値:1
魔力値:1
運勢値:1
SP:850
スキル:【暗視】【地図】【解錠】【鑑定】【武器術レベル1】【倉庫】【換金】【強化】【年齢操作】【解読】
称号:《リンクする者》
武器:蛇王剣 鳳凰弓 神獣爪
防具:仙人の平服 戦神の籠手 韋駄天の靴 安寧の指輪 エデンの首輪
す、凄い。レベル1から86まで一気に上がっていた。ここまで上がるもんなのか? そういや、戦神の籠手にはモンスターを倒したときに経験値が2倍になる効果があったな。ステータスポイントは850も溜まってるしウハウハだ。なんに振ろうかな? うーん、迷うな……って、そうだ。確か、ウォールは日記でこの洞窟が落石で閉じ込められたとか言ってたよな。それで、神獣爪で破壊できるかどうか試したけど、生物以外には効かないからダメみたいだって。
それなら、ここでやることは一つ。腕力を上げるしかない。ってことで、まずは100ポイント腕力に振ってみて、洞窟の出入り口を目指して進み始めた。これで岩を動かせないようならもっと腕力に振ればいいだけだからな。
【地図】スキルを使用してることもあり、俺は道に迷うこともなくスイスイと進んでいく。これのおかげでずっと奥まで様子が見えるので、敵がいるかどうかもわかるから怖いものなしだ。なんせこっちには蛇王剣等、伝説の武具が幾つもあるからな。
やがて、辿り着く前にスキルの効果で立ち塞がる岩が見えてきた。あれか……。想像以上の大きさで、ざっと見ても3メートルを優に超える岩だから、余程のパワーがない限り動かせないだろう。
俺はとりあえず、腕力値を100にしてあるので岩が動くかどうか試してみることに。
「ぐぐっ……」
ダメだ、びくともしない。それならってことで、さらに100ポイント上乗せして押してみると、少しだけ動いたような気がした。腕力値200でもこのまま押し続ければいずれ出られるかもしれないが、きりがないので思い切って100ポイント追加して腕力値300で試してみることに。
「おおぉっ……」
今度は感動して声が出るほど手応えが全然違ってて、目に見えて巨大な岩を動かせるようになった。この調子ならいけそうだ。やがて、青い空が視界に入ってきた。もうすぐだ、もうすぐ外へ出られるぞ……。
「――ふう……」
俺は洞窟から岩を完全に外へ押し出し、その場に座り込んだ。さすがにかなり消耗した。改めて見ると、滅茶苦茶ごつくてバカでかい岩なのがわかる。よくこんなのここまで押せたな、俺……。もっと腕力に振ればさらに楽になるんだろうけど、またこういう機会があるかは不明だし、今のところはこれくらいでいいかな。
さて、と。仙人の平服の影響か、しばらくすると回復できた俺は立ち上がって周囲を見渡した。辺りは見渡す限りの森林だ。異世界の森だと思うと、それだけでワクワクしてくるなあ。早速探検してみたいが、その前にやることがあった。
俺は適当にその辺の土を掘って穴を作ると、こにウォールの日記と白髪を埋めたのち、しばし祈った。ウォールさん、安らかに眠ってくれと。なんせ彼が集めた装備を勝手に自分のものにした上、あの日記を読んだら他人事じゃなくなったからな。それに、モンスターを倒すためとはいえ死体を損壊してしまったし、自己満足かもしれないがその償いがしたかったんだ。
「…………」
ん? 何やら殺気のようなものを感じると思ったら、【地図】スキルの効果で周りの茂みに何かが潜んでいるのがわかった。一体何者だ……?
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