字を書く虫も好き好き
武燈ラテ
昨今における、ウェブ小説・異世界ファンタジーの流行
今や誰の目から見てもネット小説は百花繚乱の極み。
ひとたびスマフォで開いてみれば、それこそ一生かけても読み切ることが不可能な量の小説が、毎日更新されています。
私の子供のころはと言えば、紙媒体で読むしかなかったのだから、新作小説を読むには発売日に書店に行って購入するしかありませんでした。それも小学生のころには潤沢な資金があるわけではないので、自然と図書館に通い詰めになります。地方の図書室や図書館など、興味のあるジャンルはすぐに読破できてしまう量しかなく、いつもフラストレーションをためていました。
それから考えてみればしみじみと隔世の感を抱くものです。
ことここ数年では異世界ファンタジーものが非常に流行しています。
これをいわゆる「なろう系」と呼び称して、十把一絡げにする向きもありますね。
これについてはいろんな意見もありましょうけれど、私個人としては非常に興味深いと考えています。
たとえば江戸時代には化け猫モノの黄表紙が非常に流行り、次々と模倣作が刊行されました。しまいには江戸には化け猫茶屋まで開店し、大いに盛況したといいます。
日本人のやることは、江戸のころからも変わっていないんですね。
同じく江戸時代では心中モノも大流行りでした。
浄瑠璃の脚本を見れば、アッチを見てもコッチを見ても、どこかで男女が心中をしているような次第です。
これは今でいう「ざまあ」と同じく、「傍からはよくある痴情のもつれに見えるこの事件の当事者、実は」というジャンルなのだろうと解釈しています。
さらに遡れば紫式部の全盛期では、彼女の作品のフォロワーとみられる女性たちが「宮中ドラマモノ」を書き残しています。
おそらくほとんどの作品は時代の波によって散り散りになり消えてしまったのでしょう。だから当時は今に残るよりもずっと多くの作品が生まれ、読まれていただろうと思われます。
「源氏物語のような、宮中でやんごとなき方々が恋愛模様を広げる様子をもっと読みたい、私も書きたい」
という女性が次々に書を開き、また筆を取っていたのではないでしょうか。
西洋に目を向ければ、コナン・ドイルやエドガー・アラン・ポー、アガサ・クリスティーの全盛期では、作家たちは猫も杓子もミステリー小説を書いていたようです。
コナン・ドイル自身は歴史小説を書きたいと願い、探偵小説から卒業したがっていたというのは有名な話ですが、彼は間違いなくミステリー小説を一大ジャンルとした作家のうちの一人です。
現代をもってしても彼のフォロワーたちは、シャーロック・ホームズを題材にした作品を生み続けていますよね。
彼がいなければ、「探偵」という職業がこんなにメジャーになっている世界線は生まれなかったでしょう。
二匹目のドジョウと表現すると「感じが悪い」のですが、「非常に魅力的な作品」が一つ、一世を風靡すれば、その作品に触れた読者の中から「もっと読みたい」「自分も書いてみたい」という欲求を持つ人間が現れるのは、このように歴史的にみても道理です。
そしてそのジャンルが流行した際に、まるで大喜利のように多彩な作家がそのジャンルに挑戦し、よって円熟していく。
ただシンプルに、多くの人を楽しませた作品が、多くの読者を抱え、それによって頭の固い人たちにすら見過ごせなくなってしまうほどのムーブメントを巻き起こしたのです。
ネット小説と言うと一昔前では「素人の書いた低品質な作品」と見下されていた感がありました。
だというのに、今や多くの出版社が、人気のあるネット小説の版権を確保しようと奮戦している状況です。
私はこれをとても痛快に感じますし、もっと流行れ、とも思っています。
字を読んで、世界を想像するという遊びは、実は誰にでもできることではありません。
前提として必要な識字能力、それから文字からの情報だけで目の前にないものを想像する力や、その世界に没頭する集中力も必要です。
それをこれだけ多くの人が楽しんでいるというこの世界が、私はとても「カッコいい」と思っています。
小説を読むという行為が、ある特定少数の知識層に限られたことではなく、大衆娯楽として定着しているのです。
決して「高尚な趣味」と見做されないところが、文化水準の高さを物語っているのです。
その事実の前にあっては、ジャンルに貴賤もなく、流行りものだからと腐されるような理屈もありません。
一大ジャンルを切り開き、多くの「趣味として本を読む」読者を生み、育んできた作家様方には、大いに尊敬し、そしてこの世界を楽しいものにしてくださったことに感謝をしています。
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