すいみん
現地解散となった。
八城道信は六道山の清掃をすると言う事で、別れる事になった。
一人になった白柳めゐは色々と調査をする為に歩き出す。
自宅に戻り、一先ずは情報収集に徹しようと考えたのだろうが、それは無駄に終わる。
周囲を見回す、極めて現代的な風景だ。
彼女の青春は1970年代であり、この時代の彼女には、電気自動車やスマートフォンと言ったものは普及されていない。
「(戒濁の術は、複数の人間の記憶を媒体に世界を作る、記憶の複合体、あたしの記憶以外にも、他の被害者に記憶が交じり合った、と言う事か)」
白柳めゐはその様に察した。
この記憶世界では複数の時代が組み合わさり、時代考証など無意味に等しい空間なのだと、白柳めゐは思った。
「(さて…一先ずは家に到着はしたが…当然ながら、あたしの家は違うね)」
白柳めゐが住んでいた場所は、三十代後半の時に購入した屋敷である。
年齢からして、彼女が所持していた学生寮は、存在しない事になっている。
記憶の中ならば、自身が住んでいた家も同じかと思ったが、其処まで彼女に都合の良い世界とはなっていないらしい。
さてどうするか。
白柳めゐは適当に道を歩く事にした。
「(まず、封令師が存在している以上、それに関連するものは存在するとみて良いだろうねぇ、師や、旦那と言った封令師と言う存在、けれど、肉体の年齢と同じ時代の封令師の歴史があるとみて良いだろう)」
白柳めゐの高校生自体と同じ年齢。
その時代に存在した封令師の歴史は存在すると、彼女は思った。
そして、暫く歩いた末に彼女は見慣れた通路を歩き、到着する。
其処には、巨大な建物が建てられていた。
大きな山を丸ごと敷地にした様な場所であり、人間が簡単に超えられぬ様に、五メートルほどのコンクリートの塀で覆われている。
その奥に見えるのは、彼女が通う校舎、言うなれば、封令師の為の教育機関であった。
「(二十年前に取り壊された残葉塾、あたしの学生時代にはよく、此処で衣食住を揃えたもんだねぇ)」
壁に向けて手を当てる。
この敷地内に入る為に必要な門と言うものは存在しない。
何故ならば、この敷地内を囲む塀こそが、この敷地を封じる結界の役割を持ち、封令師は、その結界を局部的に解く事で敷地内に入る事が出来るのだ。
だから、封令師でないものは、この門を潜る事は難しい、間接的に、封令師が封印を解いた後に入る事ならば可能ではあるが、一般人がこの敷地内に入る事など滅多に無い事だった。
「さて」
手を当てて、彼女は肉体から力を放つ。
その力こそが、封令師の基礎である『流脈』と呼ばれる力である。
極めて原始的な力であり、言い方を変えるのであれば気力や生命力と言うもの。
人間が活動するに必要なのは、脳による電気信号では無く、心臓から生まれる生命活動の流動であると封令師には解説されていた。
その為、封令師は基礎として『流脈操作』をする事が徹底付けられている、これが上手く出来なければ、肉体を使った戦闘に関しては確実に遅れを取る為だ。
白柳めゐは、『流脈操作』は得意である、エネルギーに、予め用意しておいた脳内信号を流し込む事で、結界に命令を与える事が出来る。
それは、封令師と言う名の語源でもあるのだろう。
流脈を使い封印に命令を行う、つまりは封印と言う技術そのものを支配する。
白柳めゐは、結界に命令を送り、人が一人入れる程の穴を作り出す。
コンクリートで出来た壁は、まるで熱で溶けたチョコレートの様に、液状となって白柳めゐを歓迎するのだった。
敷地内へと入る白柳めゐ。
そのそびえたつ校舎には、やはり、懐かしさしか無かった。
今にでも壊れてしまいそうな木造建築、自然と同化した建物、芝生の様に青臭い匂いが肺を巡る、青春の日々が脳裏に反復した。
「ただいま、って感じだね…取り合えずは」
この残葉塾で一晩を過ごす事にした。
しかし、白柳めゐは決して忘れてはいない。
一週間と言うタイムリミット、その間に、この世界を支配している戒濁を倒さなければならない。
「(流石に、今のあたしじゃあ太刀打ちは不可能だね、若々しい体に戻ってはいるけど、それでも、あたしが特例の封令師となれたのは、殆どは封具の性能によるもの)」
彼女が長年、特例封令師と言う特別な階級に属しているのは、それは彼女の身体能力が良かったからではない。
戒濁討伐による実績と、複数使役する戒濁による評価、この二点が常軌を逸していた為に、白柳めゐは、特例封令師として認められているのだ。
だから、現在の彼女では、戒濁を倒すのは難しい、いくら若々しい体に戻ったとは言え、封令禁書に封じられた戒濁を、支配下となった戒濁一体で太刀打ちする事は到底不可能だろう。
「(それでも、やらなければならないだろう…あたしは、その為にこの世界へとやって来たんだからねぇ)」
彼女は校舎の中へと入り込んだ、そして、教室の中へと移動すると、机を押しのけて、地べたに座ってロッカーに背を預ける。
「(だけど、流石に、若い体のせいか、少し、体が重い…眠たくなってきている、少し仮眠を取った後に…戒濁を探さないと、ね…)」
そうして、白柳めゐは一度眠る事にした。
次に目が覚めた時。
彼女の前には光が射しこんでいた。
太陽の光である、その光が目覚まし時計代わりとなって、欠伸と共に白柳めゐは覚醒するのだった。
「ん…もう、朝、か」
ふと、彼女は顔を上げると、見慣れないものがあった。
それは制服だった、学ランであり、彼女の体にかけられている。
白柳めゐは顔を上げる、そして周囲を見回すと、机の上にカバンが置かれているのが分かった。
「…誰か、来ている?」
それもそうだ。
此処は教室である。
封令師の誰かがやって来ても可笑しくは無いだろう。
制服を掴んだまま、白柳めゐは体を起こし、微かに声が聞こえて来た。
その声に反応して、白柳めゐは教室の外を見つめた。
教室の外はグラウンドがよく見えた。
そのグラウンドの中心に、帽子を被る男性が声を出して木刀を振り回している。
「あ…」
其処には、白柳未介が居た。
汗を掻きながら鍛錬に勤しんでいる白柳未介。
彼の傍には、髪の長い男性が木刀を持って応戦していた。
稽古をしているらしい。
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