第6話

現実世界に戻ってくると、俺の体はプロジェクト####:ピース5に触れた状態だった。


なんとなくだが、俺がアーティファクトに触れてからほとんど時間が経っていない。意識だけが、アーティファクトの中に眠る記憶の中に飛ばされていたようだ。


俺はアーティファクトを手に取り、今までのアーティファクトと同じように一旦虚空に収納する。

そして、背中に装着されるイメージをしながら出現させる。


すると、一対の双翼が俺の背中に出現した。


一体どういう技術を使っているのか、全く付けごごちに違和感がない。試しに、いつもの要領で翼を動かそうとしてみると、スムーズに動かすことができた。


「……っと」


ゴゴゴゴゴと研究所が揺れる音がする。

俺はもう一度研究所を見渡し、特に見るべきものはなさそうだと判断して『誓いの指輪』の効果を発動する。


ふっと周囲の景色が再び入れ替わり、俺は研究所の扉の前で待つ澄火の傍に転移していた。


「……ん、おかえり、若くん」

「ただいま。魔境は……もう終わったのか」

「……ん。でも、なんかイヤな予感がする」

「イヤな予感?」


俺の背筋をゾワゾワとした感覚が侵蝕する。

直感の強い澄火の“イヤな予感”……少しシャレにならなそうだ。


「……ん。I have a bad feeling about this」


澄火が冗談めかしてそう言った瞬間、空が真っ黒に染まる。

あまりの異常事態に、戦場が静寂に染まった。


「……なんだ?」

「……ん。来るよ」


真っ黒に染まった空……そこに、ぽっかりと穴が開く。

穴の奥は……何があるか、分からなかった。……いや、というより脳が認識することを拒否している。

全ての……無限とも言える情報が詰まっているような気もするし、或いは何もない“虚無”のようにも思える。


俺の視界では、そこだけ何もないかのように白く染まっていた。


その“穴”から、見覚えのある船が続々と出現し、こちらの方に降下してくる。そして、そこから大量の白い機械兵が飛び出してきた。


「……おいおい」


規模はアーティファクトの中の記憶とは比較にならないが……エルの言う、アンチアーティファクトの襲撃だ。


船は100体ほど、そして最後に一際大きい、おそらく旗艦と思われる船で出現が止まった。

どうやら、一個艦隊をアンチアーティファクトは派遣してきたようだ。


「……さっそく実戦か」


俺はアーティファクトにMPを大量に注ぐ。


キュイイイン……という心地よい音を立てて、アーティファクトが駆動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る