エピローグ

エルの奮戦もあり、“龍宮”のダンジョン災害はひとまず鎮圧された。


出現した船については、一体どこの勢力なのか、どこから来たのか……と言うようなことは表向きにはひとまず不明ということになっている。


三つの古代文明––––超古代文明、エリュティラータ文明、ヒャイカハ文明––––を滅ぼした勢力のものだということは、麻奈さん他上層部にも知らされていないことだ。


まあ、『支配者』たる麻奈さんならなんらかの手段で情報を掴んでいてもおかしくはないが。


そして今、俺たちは来栖邸へと来ていた。シュライエットはまだ仕事があるらしく、麻奈さんのところにいる。


エルが日本こちらに来てしまい、島に戻る手段が無くなってしまったので、今日エルが泊まる場所が必要だからである。


「……なるほど。三つの古代文明……それを滅ぼした勢力の船、ね」

「ああ。玲奈は何か知っていたりするか?」

「…………」


玲奈は一旦パソコンの作業の手を止める。


「いえ、知らないわ。うちに伝わる文書や口伝の中にも、アーティファクトの話はなかったはず」

「……そうか」


微妙に何か隠しているような気がするが、玲奈はそう言った。


「もう今日は遅いわ。部屋を用意しておいたから、翔と澄火もそこで寝なさい」

「ああ」


そういうと玲奈はパチリと指を鳴らして世話係のメイドさんを呼ぶ。

俺はメイドさんに導かれるまま、お風呂に入り、そして部屋へと向かう。


疲れもあり、半ば倒れるようにしてベッドに寝っ転がっていると、当然のような顔をして部屋に入ってきた澄火がベッドに潜り込んできた。


「……ん」

「……まあいいか」


大規模な戦闘の後だし、人肌が恋しくなったのだろう。

俺は今日くらいは許してやることにした。


強硬に抵抗するであろう澄火を追い出すような気力はないし、それに……


「ふふふ。きてしまいましたわ」


我がプリンセスもすぐに来るだろうなという予感がしていたからだ。

エルは俺と澄火の間に来ると、きゅっと俺と澄火を抱き寄せる。


「……ん、エル」


澄火は甘えるようにエルに額を擦り付ける。


「全く、人の家で何をやっているのかしら」


そんなことを言いながら、玲奈が流れるような動きで布団に入ってくる。そして、俺に寄り添うような格好で甘えてきた。


「……どうしたんだ?玲奈」

「泊めてあげたそのお礼をまだ貰っていないと思って」

「……でも」

「……少しは、甘えさせてちょうだい」


少し弱々しく、甘えるように囁く玲奈。


日頃から、マスメディアへの圧力をかけたり、財界からの俺たちへの干渉を弾いたり纏めたり、戦闘以外の面で玲奈にはかなり助けてもらっている。


俺が提供できるのは、どんなものからも守り切るという絶対的な安心くらいだが……まあ、それくらいなら、提供することはやぶさかではない。


と、まるで所有権を主張するように、隣のエルがきゅっと手を握ってくる。


俺とエルが手を繋ぎ、エルに澄火が、俺に玲奈がそれぞれ甘えている。なんだか、家族みたいだ。


大切な人たちの温もりを感じながら、俺はゆっくりと眠りに落ちていった。

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