第12話 決着

俺のポケットで、身代わりの宝珠が粉々に割れる気配がする。


どうやら、カウンターで攻撃を入れられたようだ。


……だが、これで終わりではない。


ここで終わるわけにもいかない。


もし俺がここで倒れて仕舞えば、天使は戦闘不能に追い込まれ、おそらくこの場にいるVIPも含めた全員が死ぬことになるだろう。


そうしたらどうなる?


日本ダンジョン探索者協会は大きく戦力と発言力を失い、そしてそれはいずれ日本政府にも波及する。

結果として外交・政治面・経済といった幅広い範囲で、日本は大きな打撃を受けることになるだろう。


それだけではない。


現在、ダンジョン災害を抑えるため、現役の探索者は日本各地のダンジョンを飛び回っている。

現役の探索者はダンジョンの数に対して少ないと言わさざるを得ず、ギリギリでダンジョン災害の同時発生を防いでいる状況だ。

その均衡が崩れれば、ダンジョン災害の発生件数は大きく上がるだろう。


そしてもう一つ、ダンジョンから産出する品々は、実は需給バランスがギリギリだ。

もしダンジョンのドロップを輸入しようとした場合、日本の経済は確実に破滅へと追い込まれることになる。


つまり……今の状況は、日本のだ。


「そうだろ!?ムラクモ!」


俺は左手にムラクモを出現させ、柄に手をかけて鯉口を切る。

普段はどれだけ力を込めてもぴくりとも言わないくせに、あっさりと鍔が持ち上がる。

その瞬間、俺の体に猛烈なエネルギーが流れ込み、凄まじいまでのパワーと加速を与えてくれる。


ここからさらに、展開を全て読み切っていた澄火の伏せ札ダウンカードが発動する。


粉々になった銘刀・紫電の破片が電流へと姿を変え、そして俺の体に流れ込んでくる。

その電流が、俺に限界をさらに一歩越える力を与えてくれる。

今までに澄火に施してもらったのとは比にならない、文字通り痺れるほどのバフ。


俺はMPを全てニャルトラ・ステップに込めて、再び宙を蹴る。


––––閃撃・墜雷


澄火のユニークスキル“紫電”、ムラクモの力、そして俺のユニークスキル“能力奪取”により高められたステータス。

そして、エルヴィーラ王女のアーティファクトと、熊川さんの助力。


今の俺が持てる全ての力を発揮して堕天の背後へと飛び、抜刀術を放つ。


何かを切り裂いた。


そんな手応えを感じた直後、俺の意識はその衝撃でぷつりと途切れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る