エピローグ

「解放者、大罪……ときたら、今度は『黒子ビハインドザシーン』にも会ってしまいそうね」

「『黒子ビハインドザシーン』?」


舞台の裏側で暗躍するもの……と言ったところか?


「ええ。国際的な探索者の犯罪集団よ。犯罪の考案や実行をビジネスとしてやっている団体ね。内部には鉄の規律があるらしいわ」

「犯罪ビジネス……」


普通に探索者としてやっていくだけで、常人の数百倍の年収が得られると思うが……わざわざそんな危険なビジネスをやる必要があるのか?


「彼らの行動原理を理解する必要はないわ。そういうものがいるってことだけ、覚えといて」

「……わかりました」


なんにせよ、たとえ戦闘が起きたとしても澄火と共に対処できるように鍛錬していかなければ。

ひとまず当面の目標は、プロジェクト####のピースの回収か。


「俺のリュックとかって」

「ああ、回収してマンションの方に届けてあるわ。ここからの帰りは、私の車を使って行きなさい」

「……免許持ってませんけど」

「心配しなくても、運転手くらいいるわよ」


すごいな……

まあ、実質的な協会東京支部のNo.2らしいし、それくらいは持っていて当たり前か。


「今回も助かったわ。ありがとう、2人とも」

「……いえ。そういえば、今回の災害で死傷者はどれくらい出たんですか?」


熊川さんはじっとこちらを見つめてくる。


「聞かなくてもいいと思うわ。あなたが知らなくてはならないという義務は一切ないし、災害という一個人ではどうしようもない事柄にあなたが責任を感じる必要もないわ」

「それでも……」

「ん。それでも、聞いておいた方がいい」

「……そう」


熊川さんはパソコンを操作して情報をモニターに映し出す。


「死者、58,027人。重症者、158,756人。うち四肢欠損患者、75,578人。軽傷者、多数……というより、人口のほぼ全員ね」

「…………」


俺が想定していたよりもはるかに多くの被害が出ていた。

死者が約6万人……おそらく、俺たちがダンジョンの入り口を押さえている間にもダンジョンの周囲の札幌市内で魔物が沸いていたのだろう。


「あなたたちのおかげで、死者が格段に抑えられたことは間違いないわ」

「……そうですね」


俺たちがダンジョンから飛び出してくる魔物を処理しなければ、いずれ戦線は崩壊し、立て籠っていた人の多くが死亡していただろう。

俺が全て悪いなどと傲慢なことを言うつもりはないが、責任の幾らかは引き受けていくつもりだ。


俺は……俺たちは、強くならなければならない。


改めてそう、心に誓った。

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