第3章 アーティファクト

第1話 羅針盤

「さて––––」


俺はダンジョンでドロップした羅針盤を床に広げた広告の上に置く。


用意した道具はこちら。


・ピンセット(時価10000000円)

・綿棒(約1000円。近くのドラッグストアでまとめ買いしてきた)

・タンポン(同様)

・アルコール(同様)

・布巾(100円。同様)


「––––始めよう」


特に意味もなくそう言って、まずは布巾を手に取る。

シュッシュッとアルコールを吹きつけ、まずは蓋を閉じたまま、表面を磨いていく。


「……む」


一体何で汚れているのか、軽く拭ったぐらいでは全く汚れが落ちる気配がない。


30分ほどくしくし一生懸命磨いていると、ポロポロと汚れが落ちていくようになった。


汚れに隠されていた表面が露出して、幾何学的な模様が現れる。

同心円に四芒星が重なった図形……おそらく、中の羅針盤を示しているのだろう。


なんとか表面の汚れを落とすことに成功した。


「さて––––」


ここからが本番だ。


「ん、おはよ……」


と、眠い目を擦りながら澄火が起きてきた。なぜか俺が使っている枕を抱えている。

そして、そのままぽすんとソファに倒れた。


どうやら、まだ寝足りないようだ。


俺は羅針盤に視線を戻し、ぱかりと蓋を開く。

どこから入り込んだのか、汚れが詰まっていて針が動いてない。


これを掃除するのは、結構骨が折れそうだ。


俺は溝の部分を重点的に掃除しつつ、羅針盤の風防を取り外す方法を模索する。


「お」


動きはぎこちないし、シャリシャリと何かが擦れる嫌な音がするものの、羅針盤の風防が回転するようになっている。


そして、かぱっとカバーは外れた。


ちょうどネジの要領で風防は取り付けられていたようだ。


たんぽん、アルコール、ピンセットを駆使して俺は羅針盤の針周辺の汚れを取り除いていく。


「よし」


俺は呟いて、風防を再び取り付け、汚れがなくなった羅針盤を掲げる。


……しかし、針はぴくりとも動かなかった。


俺は軽くゆすってみる。それでも、針はぴくりとも動かない。


「んー……?」


と、のそのそと澄火がそばまで寄ってきた。


「どうしたの?」

「汚れを落としたのに、なんか動かないんだよな……」


俺は羅針盤を澄火に見せる。

眠たそうな目で観察する澄火。


「……中に、何か機械が詰まってるんじゃない?それが汚れてるとか?」

「中って……つまり、この羅針盤が懐中時計みたいな構造をしてるってことか?」

「……ん」


澄火がゆっくりと頷く。そして俺の背中側に来ると、むぎゅっと抱きついてきた。


ぬくい。


俺は念のため買っておいたエアーダスターを、澄火を背負いつつ持ってくる。


中の機械が汚れているのなら、必要になるはずだ。


俺はよく観察して、どうにかして中の機械を露出させる方法を探す。


「…………あった」


30分ほどあーでもないこーでもないと試行錯誤を重ねた末、俺はようやく裏面にあるダストカバーを外す方法を発見した。


ダストカバーを押し付けるようにしつつ、くるくると回す。止まったところで、今度は逆向きに回す。

そうすると、突起のようなものがサイドから出現するので、それをカチッと押すと外れる、という塩梅だ。


内部には、歯車やら何やら、たくさんの部品がある。普通の方位を図る羅針盤には歯車なんてものないと思うので、やはり何か特殊な用途があるのだろう。


俺はそれらの部品に、エアーダスターを吹き付けていく。

あらかた汚れが落ちたところで、たんぽん、アルコール、ピンセットによる掃除。

そして、もう一度エアーダスター。


その波状攻撃の前に、汚れはなす術もなかった。


綺麗になったのを確認して、俺は元通りにダストカバーをはめる。


……ぶうん。


そんな音が響いたかと思うと、羅針盤の針が動き始めた。

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