第12話 お風呂

目が覚めた。

もう二度とこないと思っていた目覚め。


徐々に覚醒していく意識の中で、自分のものではない誰かの息遣いを感じる。


目を開けると、真っ白な天井が見える。


体を起こそうとしたが、全く動かない。なんか、セメントで固められているみたいだ。


仕方なく目線だけを横に動かすと、ドラマでよく見るナースボタンを発見した。

どうやら、ぎりぎり助かって病院に運ばれたようだ。


そのまま下に視線をやると、俺に抱きつきながらすやすやと寝ている星野の姿を発見した。


痛々しい傷はなくなっているが、汚れはそのままだ。

その汚れが、俺と星野を接着し、その結果俺が行動不能になっているようだ。


星野を起こすべく、プルプルと体を揺する。


「…………ん」


すると、星野がわずかにみじろぎをしながら、ゆっくりと目を開けた。


「……おはよ」


星野は俺の姿を認めると、そう挨拶をしてきた。


「おはよう。……助かったみたいだな」

「………ん」


星野は顔をわずかに上げてきょろきょろと周囲を見る。

小動物みたいな仕草だ。


「お風呂があるね」

「え?」


俺は部屋を眺める。確かに、お風呂がある。

もしかしたら、ここはVIPルームなのかもしれない。普通の病室は個室じゃなし、個室だとしてもお風呂なんてついてないだろう。


「入ろ」


そういうと、星野はごろんと転がって器用に起き上がる。

体がくっついている俺も自然と起き上がる形になる。


意外と強い力でぴょんぴょんと連れてかれていく。

俺は抵抗もできずに、星野と一緒にバスルームへ入ることになった。


星野は無理やり体を動かして蛇口のスイッチを入れる。

さああっと上から温かいお湯がふってきた。なんだか、文明の力を感じてとても感動する。


汚れが徐々に溶け落ちていき、星野の白い肌が現れ始める。

そしてついに、ぬちゃーっと糸を引きつつ、俺と星野は分離することに成功した。


この汚れの原因が何なのかは、あまり考えない方が良さそうだ。


星野はそのまま自分の服を脱ぎ始めたので、慌てて俺は後ろを向いた。


「……じゃあ、離れたことだし、星野はそのまま入ってくれ、俺は待ってるから」

「……一緒に入らないの?お風呂広いよ?」

「それは確かにそうだがな……」


介助しやすいようにか、お風呂は二人が優に入れるくらいの大きさがある。

俺は追い焚きモードをポチりつつ、星野に返答する。


「さすがに、女の子と一緒に入るのは……」

「そんなこと、どうでもいいでしょ。……髪、洗って」


星野はくいくいと俺の裾を引っ張ってそうねだってくる。

俺は覚悟を決めることにして、服を脱ぐ。正直、この凄まじい惨状になっている服を着るのはかなりの不快感があったのだ。


どちゃりという音を立てて落下した服を星野のとまとめ、軽く絞ってから外へとぽいっと放り出し、俺は星野の後ろに立った。

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