第4話 説明
そして、残ったのは俺と星野だけだった。
星野がダンジョンに入ったのは最後だったので味わっていないだろうが……適性がなかった人の、苦しみに耐えながらも憎々しげにこちらを見る目は、ちょっと忘れられそうにない。
2時間ほど前に見たビデオとは別の意味でトラウマになりそうだ。
「星野、よかったな」
俺が祝福の声をかけると、星野は満面の笑みを浮かべてこくりと頷いた。
普段寝ているので知らなかったが、彼女は意外と表情豊かな女の子のようだ。
「えー、それでは、ダンジョン探索者の資格、その他諸々について説明させていただきます」
そういうと、司会はこちら––––つまり、ダンジョン内へと入ってきた。
どうやら、司会もまた探索者の一人らしい。
「改めまして自己紹介を。わたくし、苦川連と申します」
そういうと、司会はぺこりと頭を下げる。
「適性がないことを私のせいにされる方もいらっしゃるので、探索者の適性がない方には名乗らないことになっていますので、今名乗ったことをお許しください」
あのデリカシーのなさが原因なんじゃないかと俺は思ったが、黙っておくことにする。
「ではまず、ステータスを出してください。原則、ユニークスキルは報告して頂くことになります」
「なるほど」
「これは悪用を防ぐための措置になります。かつて、『ベッドの上では最強だぜ……』というスキルを得た方がいましてね」
例えが最悪すぎる。
ちらりと隣を見ると、星野が顔を真っ赤にしていた。
「その方がユニークスキルを使って色々とやらかしたんですね。それから、対抗手段を講じるためにもユニークスキルは報告していただくようになりました」
俺はふと疑問に思った。
「……あれ?ステータス能力はダンジョンの外では使えないのでは?」
先ほどの例で言っても、ダンジョン内で能力を使う……というのはちょっとアブノーマルな気もする。
それに、悪用するにしても限界がある気がする。
「ああ、それは嘘です」
苦川はさらっと世界をひっくり返しかねないことを言った。
「途上国も含めた世界中で秘匿されていますが、ダンジョンで得たステータス能力は外で使うことができます」
「……なるほど?」
確かに、『持たざる者』と『持つ者』が決定的に別れてしまうのは、色々不都合が大きそうだ。
『持たざる者』の方が圧倒的に多い、というのが特にそれを助長している。
例えば、誰かを治療できる能力を持った人は、『持たざる人』の要請によって延々と働き続ける羽目になるだろう。
そして、もしそれを拒めば非人間な奴だとレッテルを貼られる。
そういうことが各所で起きて、ダンジョン探索者は窮屈な思いをしながら毎日を生きることになるだろう。
そしてその結果、持たざる者を全て殲滅し、適性のある者だけの世界を作ろうと考える者が出るかもしれない。
そういうことを防ぐためにも、能力がダンジョン外でも使えることは秘匿されているのだろう。
「もちろん、これは口外禁止です。そして、普段はこちらを付けてもらいます」
司会はカバンから指輪を二つ取り出した。
「お好きな指につけてください。ペンダントやブレスレットが良ければ、そちらを出しますよ」
「……なんですか、これ?」
俺は取り上げてしげしげと眺める。
銀色の、宝石とかは特に付いていない、シンプルな指輪だ。刻印とかもない。
傷一つないので、おそらく新品だろう。
「ステータス能力を大幅に制限するものです。もちろん、外せばダンジョンの外でも能力が使えますが……正当な理由がなく使った場合、ペナルティがあるのでお気をつけください」
もみ消すのにコストがかかりますからね、と苦川は恐ろしいことを呟いた。
どんな手段でもみ消すのかは聞かない方は良さそうだ。
「では、ステータスを見てみてください」
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