第20話◆赤毛被害者の会

「ああああああああ……今日もまた見つかったーーーー!! もう、何なんだあのクソガキ!! 何でばれるんだ!?」


「はーーー、おかげでアベル様に猿の群れトレインをぶつけられて、色々投げられまくるしマジ最悪。赤毛も笑って見てないで友達ならアベル様を止めろっつーの。あーーー、まだ臭い気がするし」


「あの一件以来クソガキが二人に増えたもんなー。そりゃ、俺達のメンタルもゴリゴリ削れるわ」


「おい、赤毛はともかくアベル様に対しては不敬だぞ。気を付けろ、うっかり誰かに聞かれて報告されると俺達の首が物理的に飛ぶぞ」


「そうだなー、仕事の愚痴を零すなら場所を選んだ方がいいぞー」


「うお!? ドドドドドリアングルムさん!! いつの間に!?」


「そら、ギルドの近くの飲み屋で愚痴ってたら、鉢合わせすることもあるよなぁ。任務時間外といっても気が緩みすぎではないか? まぁ安心しろ、今は俺一人だ。鉢合わせしたついでにここの席いいか?」


「は、はい、以後気を付けます。席はどうぞどうぞ、というかアベル様とあの赤毛の対処方法を教えてもらえれば……。アベル様はともかく、あの赤毛にことごとく見つかって困ってるんですよぉ」


「あぁ~、あれな……。以前宿屋で見つかった時に指摘された装備はもう改善したようだな。あとは隠れ方か……グランに話を聞いてみたのだが、何かよくわからないことをいっていたな。何だっけか、明るい夜は黒は目立つとか、光源が多ければ陰が重なって濃さが変わるとか、窓ガラスがどうのとか言ってたな。俺は諜報の方だから紛れ込むのは得意でも隠れるのはそうでもないんだよなぁ」


「それ、紛れ込めてるんですかねぇ。絶対目立ってますよねぇ。人の多い王都でも目立ちまくってますし。あ、情報ありがとうございます! ああ~、言われてみれば、あの日は月が明るい日でしたね。でもダンジョンは月は関係ないし、草むらとか木の陰に潜んでいてもばれるんだよなぁ」


「ああ、それはうちの従兄弟の兄ちゃんにも聞いたことがあるが、自然物の中で黒は逆に目立つらしい。くすんだ緑や茶色の混ざった装備の方が景色に紛れ込みやすいとかなんとか」


「ドリアングルムさんの従兄弟って、情報ギルドの方でしたっけ? というか東部の情報ギルドを仕切ってるのは東の辺境伯殿でしたね」


「うむ。はー、本来俺もユーラティア東部やシランドルでの活動が主になる予定だったのに……はあああああああああ、マジあの方に目を付けられたばっかりに、王都でクソガキのお守りをすることになって……はああああああああああ……お家に帰りたい。あ、やっぱやだ、家に帰ると姉上がいっぱいいるんだった……ダンジョンに還りたい」


「ドリアングルムさん!? まずいですよ!! 本音が出まくってますよ!! それとダンジョンに還るのもまずいですよ!! 大丈夫です? 一杯飲んでリラックスしましょう」


「お、おう。すまん、最近色々クソガキの後始末に忙しくてつい本音が……。というか気付けばクソガキが二人に増えてるんだがどういうことだ!? グランが現れてからアベルが少し大人しくなったつか、先輩面してグランに色々教えていて微笑ましいと思っていたが俺があまかった!!」


「ああ、アベル様の纏め狩りに赤毛も参加するようになってますね。無駄に効率が上がってるぶん規模も大きくなって、見ていて胃が痛くなってきますね」


「しかも俺達がいることがばれて以来、ちょいちょいアベル様にトレインをなすられるんですよね。いやまぁ、赤毛が俺達を見つけたらなんですが、今のところほぼ見つかってるっす」


「困るんだよねぇ……あーいうイレギュラーな存在。アベル様が気に入っちゃってるみたいだし、同世代の友人ができたら少しは丸くなられるかと思ったけど、丸くなったとしてもやってることが極悪さを増したんだよなぁ」


「まぁでもあの赤毛が無意識に、俺達以外の奴らも見つけてくれるのはありがたいんだよなぁ。俺達の仲間だと思って手を振ってるけど、時々違うのが混ざってるんだよなぁ」


「ああ、あれは赤毛がありがたく思える瞬間っすね」


「バカヤロウ! 子供が見つけられるものを俺達が見つけられなくてどうするんだ!? あのご兄弟にばれると物理的に首が危ないぞ!!」


「それは俺の前で話したらまずい話じゃないのかなぁ……まぁ、グランに見つかりまくって、アベルに嫌がらせをされていることも含めて報告はしておかないとなぁ」


「アッ! 待ってドリアングルムさん! ここの代金はこっちで持ちますから、アベル様に苦労させられている者同士腹を割って話しましょう」


「君達、何だかすごく楽しそうな話してるね~。その話、俺も混ぜてくんないかな~?」


「ゲエエエエッ!! ノワゼ……ッ」


「ダメだよドリー君。俺は今一介の騎士、勤務中はただのカシュー班長だからね」


「いや、噂になりすぎて町の人もだいたい気付いてるんじゃないかな? しかも今はヘルム取ってるし気付かない方がおかしい……って何でこんな庶民向けの店に紛れ込んでるんすか!? 護衛……いや、部下は?」


「やだなー、騎士だって休憩時間はあるし、普通に店で飯を食うこともあるから気にしないで。部下はうるせーから巻いてきたけど、今ならドリー君も隠密部の君達もいるから平気っしょ。ほらほら、お店にいる人も気付いてないから、このままドリー君達が騒がなければばれないよ。それでクソガキがなんだって? そこの君達の話もだいたい聞いてたよ。何々、子供に見つかりまくってるって? 最近ちょいちょい怪しい奴を捕まえてたみたいだけど、それもその子供の見つけたの? ふ~ん、へぇ~、ふ~ん。その子供、ちょっと気になるから、兄者に一応伝えておくね。それとそのガキ、エクシィと仲良しなの? 気に入らないなぁ、ちょっと虐めちゃおうかなぁ~」


「や、すみませんクソガキじゃないです、おガキ様でした!! すみません!!」


「おい、バカ本音が出てるぞ!!」


「ヒッ! 上に伝えるのはできればお手柔らかにお願いします! あと騎士団との合同訓練という名のしごきもできれば勘弁して欲しいです!!」


「まぁグランは勘がいいようだからな。アベルとも上手くやっているようだし、怪しい者を見つけ出してくれるのなら、多少のいたずらは大目に見て様子を見ておくのが正解では。というか下手に手を出すと、猛獣が更に猛獣になりかねん……」


「そういうことなら悔しいけどその子供のことはしばらく様子を見てしておくか。で、君達さ、うちの弟の可愛い話してたよね? ぜひその話に俺も混ぜて欲しいな? うんうん、兄者の悪口ならいくら言っても不敬にはしないから、エクシィの話を聞かせて欲しいな。で、クソガキとかおガキ様とかって話だったっけ? あ、合同訓練はいつがいい?」


「アッ! ちょっと待って下さい! アッアッアッ! ここのお代は俺達で持ちますから! そそそそそそうだ、赤毛の愚痴にしましょう! ついでに赤毛被害者の会を設立しましょう!!」


「被害を受けているのはお前らんとこだけでは。俺は後始末が忙しいくらいで被害ってほどでもないし」


「そんなこと言ってるとドリアングルムさんもそのうち被害を受けますよ!! これは予言です、絶対あの問題児コンビ、この先更に極悪になっていきますよ!! 子供って残酷ですからね!!」


「君、問題児って言った? うちの可愛い弟のことを問題児って言った?」


「あああああああああーーーー!!」





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