第15話◆すごく怪しい奴ら

 冒険者になって半年近く過ぎた頃、アイツとは相変わらずほぼ毎朝依頼用紙の取り合いをしていた。

 ここまでくるともはや日課、毎朝の対空間魔法反応速度訓練みたいなものである。

 しかし奴とは、毎朝適当に煽り合うことはあっても、とくに話すこともないのでまともに話したことはなかった。毎朝冒険者ギルドで鉢合わせするだけの間柄である。


 俺はDランク、アイツはBランク。ランクに差があるので活動場所は基本的に別の場所である。

 基本的に別の場所なのだが、毎朝依頼を取り合っているということはアイツもCランクの依頼を受けているので、たまーに狩り場で鉢合わせすることもある。

 Dランクに上がって経験を積むうちに、簡単なCランクの依頼なら複数受けることができるようになり、少し強い敵がいる場所に行く機会も増えた。

 そうなると、たまーにの回数がだんだん増えてきた。


 アイツの周りはだいたい騒がしい。

 まぁだいたい、トレインからの範囲魔法による纏め狩りで周囲に迷惑をかけただとか、他の冒険者が狙っている魔物を遠距離から魔法で横取りしただの、他の冒険者とのトラブルだ。

 範囲も威力も強力な遠距離攻撃魔法に、瞬時にあちこちに移動でき即座に倒した獲物を回収できる空間魔法、恐ろしい効率で魔物を狩っていく姿は圧巻である。

 性格の悪いクソガキだが、その実力だけは認めざるをえない。

 ただその効率の出し方が周囲への配慮が足りず、周りとのトラブルの原因になっているようだ。

 配慮が足りないというか、配慮をする気がないだけかもしれない。

 そしてそれが度を超すと、銀髪とよく一緒にいるのを見かける黒髪の大男が駆けつけて、銀髪に拳を落として終わる。

 銀髪の保護者は大変そうだなぁ。


 しかしあの銀髪、そんな無茶苦茶なことばかりしていると周りから無駄に恨みを買いそうだけれど大丈夫だろうか? 

 冒険者には気の短い荒くれ者も多いし、他人の稼ぎをやっかむ者も多い。そして自分の活動を邪魔されれば誰だってイラッとくる。

 絡まれても自分でやり返したり、黒髪大男が仲裁に入ったりしているが、恨みを買っていつか仕返しをされるのではないかと少し心配になる。



 そんなことが気になってしまい、冒険者活動中にアイツを見かけるとついチラチラと周りを見るようになった。

 自分自身がアイツの迷惑狩りに巻き込まれないための注意でもある。

 そして気付いた。


 アイツの近くにいつもいる冒険者パーティーがいるな。

 普通に近くで狩りをしているように見えるが、あの銀髪を見かける時はだいたいこの冒険者グループが近くにいる。

 いつからだろう? ただの偶然か?

 注意して見るようになったのは最近なので、いつからなのかまではわからないし、ただの偶然かもしれない。

 そいつらを注意して観察してみると、何ともいえない違和感があり行動もどこか怪しい。

 近くで狩りをしているだけというには、銀髪が移動すると奴らも移動する。

 そして何より移動中は気配を消しているのが怪しすぎる。 


 少し気になって様子を見ていたついでに奴らの後をこっそりつけてみたのだが、周囲に奴らと銀髪以外の気配がない時でも、普通に銀髪から少し離れたところで狩りをしていたり、休憩をしていたりと、銀髪に何か危害を加える様子もない。

 ただ遠くからこそこそと見守るように見ているだけ。

 銀髪の気付いていない魔物が近寄って来ていれば始末をしたり、銀髪のトレインで周囲に被害が出そうな時はさりげなく始末していたりする。


 あまり敵意や悪意みたいなものは感じないし、どちらかというと銀髪の利になっているようにも見えるパーティーだが、ものすごく怪しい雰囲気を醸し出している。

 もしかしてこれは――綺麗な少年を勝手に見守っている、変なおじさんパーティー。つまり一歩間違えばストーカーパーティー!?

 あの顔なら特殊性癖な人に目を付けられるのも仕方ないな。そういう可能性もありそうだな。


 教えてあげた方がいいのかな? 

 でも確証はないし、銀髪とはただの顔見知りってだけだし、ぶっちゃけあんま関わりたくない問題児だしなぁ。

 それにあの銀髪なら、確証なくても教えた時点で相手に攻撃しそうだし、保護者の男に教える方が穏便に済ますことができるのかなぁ。

 銀髪君が変態ショタコンおじさん達にストーカーをされているかもしれませんよーって。

 俺の勘違いだと非常にまずいので、難しいことは大人にこっそり相談するのがいいかもしれない。

 本当のところはどうかわからないけれど、銀髪に何か恨みのある奴や、特殊性癖変態パーティーだったら、この先何かあった時に気付いていて知らせなかったとなると後味が悪い。

 そうだな、冒険者にとって注意喚起は重要なことだと習ったし、保護者の大男を見かけたら教えておこう。



 何てことを思ったのだが、保護者の大男に会えなくて数日が過ぎたある日。



「おっ、今日はグランがトップかぁ?」

「やった! ついに一番になれた!」

 冒険者ギルドの近くにある、お手頃価格で量あり味も良い料理屋。そこは当然のように冒険者達の溜まり場である。

 その日の仕事を終えた俺はその店に来ていた。


 その店の隅っこに設置されたダーツの的。

 店の客なら誰でも好きに遊んでいいもので、食事を終えた冒険者達が腹ごなしも兼ねてよくダーツの得点を競い合っている。

 このダーツ遊びで地味に投擲のスキルが上がるので、俺もこの店に来る度にダーツで遊んでいた。

 そうしているうちに、店の常連の冒険者達とも仲良くなって、こうしてダーツの得点を競い合う仲間に入れてもらえるようになっていた。

 参加する人で少額の金を出して、一番得点が高かった人がそれを総取りできるというルールのゲームが常連客の間で流行っていて、掛け金はそこまで高くないので俺もそれによく混ぜてもらっていた。

 参加者は熟練の冒険者だらけで、みんな投擲武器の扱いに慣れていてなかなか一番になれなかったが、今日初めて一番になれた。


「グランは初のトップかぁ?」

「上達はえーなー。ランクが上がるのも早かったみたいだし、将来有望だな」

「えへへ、たくさんコツを教えてもらえたからかも」

「ダーツで一番を取ったからもう大人だな! 記念にエールを一杯いっとくか?」

「じゃあ一杯……」

「ちょっと、アンタ達! 子供にお酒をすすめるんじゃないよ!」

 せっかくだから記念に一杯と思ったら店の女将さんがカウンターから顔を出して却下された。

 心は大人だが体は子供なのでエールでもすぐに酔っ払いそうなので、もう少し体が大きくなるまで酒は我慢だな。


 大人の冒険者達に囲まれ騒いでいると視線を感じた。

 視線を感じた方を振り返ると、ちょうど食事が終わり席を立とうとしている銀髪のアイツ。

 一瞬だけ目が合ったがすぐに反らされ、銀髪はそのまま会計を済ませ店から出て行った。

 ま、顔見知りではあるが話したこともないし、そんなもんだろ。

 俺もすぐ視線を戻し、ダーツの掛け金の入った器を受け取ろうとした時、ふと違和感に気付いた。


 妙に印象に残らない四人組の冒険者。

 その四人組が会計のため席から立つまで、俺もそいつらの存在に気付かなかった。

 おそらく認識阻害系、周囲から印象に残らない系の魔法か魔道具を使っている。

 何故気付いたかというと、全く同じ違和感がある奴を最近見たからだ。

 状況や効果の強さにもよるが、認識や視覚の阻害系は阻害効果がかかっていることに気付かれると、気付いた者に対して阻害効果が低くなる。


 俺が阻害効果に気付く切っ掛けになった違和感。

 それは冒険者パーティーだというのに、そのパーティーの全員が一部同じ装備を着けているのだ。

 目立つ部分は皆違う装備を着けていて、パッと見の装備から脳筋二人と魔法使いとヒーラーというよくあるパーティー構成に見える。

 だがよく見ると、全員同じ型の真っ黒い靴を履いて、同じ型の真っ黒いベルトを着けている。

 先輩冒険者達がどんな役割でどんな装備を身に着けているのか参考にしたいと思い、冒険者になってから他人の装備を観察することが癖になっていて、そのせいで気付いた違和感。


 全く同じ違和感を、数日前にあの銀髪の近くで見た。

 あの銀髪の周りでよく見かけるパーティー。

 顔はよく覚えていないが、装備だけは違和感が印象的ではっきりと覚えていた。


 そいつらが着けていた装備と、銀髪の後を追うように会計に向かったパーティーの装備が同じものなのである。

 そいつらのことは顔より装備で覚えていたので、日頃から顔を覚えられないように認識阻害を使っていたのかもしれない。

 ――俺が人の顔を覚えるのが苦手なわけではなく、きっと認識阻害系の魔法か魔道具だな!!


「ごめん、ちょっと急用を思い出した! お金は仕切り直すか、みんなで何か食べて!」


 どうしても気になってしまい、銀髪と怪しい冒険者パーティーを追って俺も会計を済ませて店を出た。

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