第14話 失われていく活気 ※王国民視点

 菓子店シェトレボーが王国から移転してから、街にあった雰囲気が変化していた。


「やっぱり、閉まってる……」

「あのお菓子を食べるのが1日の楽しみだったのに、これからどうしましょう」


 かつて、菓子店シェトレボーがあった場所の前で何十人もの住民が立ち尽くして、ため息を吐いていた。彼らは、商品を求めて来たのだが、目当てのものを売っているお店が見当たらず、途方に暮れている。


 何週間も前に閉店のお知らせがあったけれど、まだ信じられなくて何度も確かめに足を運んでしまう。それだけ、住民にとって菓子店シェトレボーの存在は大きかったのだ。


「残念だけど、仕方ないね……。別のところへ買いに行こうか?」

「でも、別のお店は味がちょっと。値段も高いし」

「そうだよなぁ」


 住人たちが、菓子店シェトレボーの代わりを求めて真剣に話し合う。ここ以外にも、菓子を売っているお店はあった。しかし、評判はあまり良くない。


 シェトレボーと比べて味は落ちるし、種類も少ない。それに最近、値上げをした。競争相手が居なくなった途端に、値上げをするなんて卑怯だなと住民たちの間で噂になっていた。


 そもそも、それらの店はシェトレボーの模倣店でしかない。オリジナルを知っているので、どうしても比較してしまう。だから、住民達の足は遠退いた。




 シェトレボーが移転して、今まで彼らの生活の一部になっていた楽しみが失われてしまった。多くの者達の活気を無くしてしまうほど、大きな損失だった。


「シェトレボーの営業を禁止したのは、王子なんだって!」

「それは酷い! なんで、営業を禁止なんかに……」

「それが、店主の婚約相手だったらしくて」

「あの娘の? それじゃあ営業を禁止するなんて、おかしいよ!」

「多分、彼女からお店を奪おうとしたんじゃないの? それで拒否されて逆切れしたとか」

「最低……。そんな理由で、私達からシェトレボーを奪うなんて」


 事実と虚構の入り混じった噂が住人達の間に広まっていく。そして、彼らの不満が次第に膨れ上がっていた。


「店主は、王子の要求を逃れて帝国へ移ったらしいわよ」

「本当か? それじゃあ、俺も行ってみようかな」

「ここじゃ手に入らないから、帝国へ行くしかないものね」

「ああ、行こう。美味しいお菓子を食べたいんだ」


 シェトレボーが帝国に移ったことを知って、自分達も帝国へ向かうことを決意する者達も現れ始めた。それも一部ではなく、どんどん増え始めている。そんな事になるぐらい、住民達はシェトレボーの菓子に飢えていた。


「生活があるから、そんなに簡単に移住することなんて出来ないよう」

「これも全部、王子のせいよね」

「あぁ、帝国に移住できる人が羨ましい」

「私達も、早くここから逃げ出さないと危ないかしら?」


 生活があるので、簡単に出ていくことは出来ない住民達も多い。街に残ったのは、余裕のない人達ばかり。さらに不満や心配が募り始めていた。そのせいで、雰囲気も悪くなっている。


 住民達は、危機感を覚え始めていた。このままで大丈夫なのかと。


 菓子店が移転したことで街に大きな影響を与えて、王国民がどんどん流出していく事態に発展していた。

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