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ある夜、僕らはいつものように、機能停止しようとして縮こまっていた。
僕はネピルが写真を見つめているのに気付いた。綺麗な女の人だ。
「恋人? 」
からかうように言うと、ネビルは顔を赤らめ、照れ隠しのように眉を顰める。
「まさか!」
ふうんと一言返し、僕らは機能停止した。
ネピルはことあるごとに写真を見つめるようになった。 その表情はいつもどんよりと沈んでいる。 僕とプナキアは顔を見合わせた。
ある夜、僕らは突然女の人が訪問してきたことに驚いた。どうしたらいいのかわからずオロオロしてしまい、その人に苦笑された。
「ここってあまり来客がないの? 」
おっしゃるとうりですとプナキアが言った。
女の人はシャイニーさんという。
僕達はやっとのことで思いつき、シャイニーさんをガラクタの山から持ってきた、比較的綺麗な椅子に座らせた。
シャイニーさんはネピルの写真の女の人にそっくりだった。ショートボブの髪は栗色で、目元がキリッとしたきれいな大人といった感じだ。
プナキアが彼女にお茶を出し、彼女は微笑んだ。 少し話してみても、嫌味なところがない上品な人だとわかった。
「それで・・・ネピルはいる? 」
世間話の後、シャイニーさんは周りを見回して尋ねた。
「少ししたら帰ってくると思うよ 」
ネピルは、また例の食料庫に行っていた。
僕は彼女の表情が曇っていくのを見た。
「そう・・・いいの。これを届けに来ただけだから。また後日来ると伝えてくれる?」
そして彼女は、僕等に1通の手紙と花を手渡して帰っていった。あなたたちとは気が合いそう、また来るわ、と言い残して。
ネピルはやっと帰ってきた。 僕らはネピルを待っている間、どれほど手紙を開きたかったか知れない。
これは友人宛てだ。友人の手紙を勝手に覗くことは許されない。でも気になって仕方がない…!そういうふうにして僕たちは見えない悪魔と戦っていた。だからネピルが帰って来てくれて安心した。
僕はシャイニーさんから受け取ったものを渡した。
「この赤い花すごく綺麗だよね」
僕が感想を述べると、ネピルは俯いた。 プナキアが手紙とネピルを交互に見ている。
ネピルは、これ以上にないほど赤くなって、フラフラと奥へと入って行った。そっとしておいてあげることにした。ネピルは彼女と結ばれる、そんな気がした。僕らまで幸せな気分になり、なんだか心の中がふわふわした。
しかし翌朝、
「もう会わない」
僕らがほとんど仕分け作業のような仕事をしている最中に、ネピルは断言した。
プナキアが遠慮がちに聞いた。
「シャイニーさんのどこが嫌いなんです? 」
僕も便乗する。
「昨日はあんなだったのに、急にどうしたの?君はシャイニーさんが好きだろ?」
あんなに熱心に1枚の写真だけを見続けて、切ないため息をつくなんて怪しいに決まっている。
ネピルは僕らに一切取り合おうとしなかった。彼が独りよがりになるなんて今までに無いことだった。
「・・・これでこの話は終わりだ 」
あれから1週間が経った。ネピルは明るく振舞っているように見える。僕らは陰でそんなネピルを心配するほかなかった。無理して笑おうとする彼を見るのは痛々しいし、辛かった。
しかし進展はあった。再びシャイニーさんが訪ねてきたのだ。またネピルは洞窟の中にいなかった。どうも、わざと彼女から逃げているようだ。プナキアが彼女に、ネピルが会わないつもりだと言うこと、だけどその理由が不明であることを告げた。彼女は、意を決して僕らに言った。
「私、隠れているから。あの人が帰ってきたら、それとなくわけを聞いてみてくれないかしら。私のことが嫌いで会いたくないのか、他に何か原因があるのか、はっきりさせたいの」
僕らは二人のために、一肌脱ぐことにした。
その夜、ネピルとプナキアはゼリー状の液体を体に供給し、僕だけが別の種類のゼラチン質の飲み物を口から流し込んだ。
今夜はほとんどいつもと同じだ。そして、ここからが問題だ。
僕はプナキアと目を合わせる。シャイニーさんがまだ暗がりに隠れているのだ。
僕は機会を見定めると、ネピルに質問をした。それとなく、世間話のように・・・。
「・・・彼女、元気かなぁ。ねえネピル、どう思う?」
「・・・どうだろうね」
返ってきたネピルの返事は、素っ気ないものだった。僕とプナキアは気まずさに閉じこもりそうになりながら、顔を見合わせる。
その時、ネピルのズボンのポケットから一枚のカードがひらりと落ちた。シャイニーさんのブロマイドだった。
「あ、落ちたよ」
僕はネピルに教えた。しかしネピルは、それを数秒見つめた後、目を逸らしてしまった。
「・・・これはもういいんだ」
地面に落ちた彼女の形のいい瞳がこちらを見ている。
「いいって・・・どういうことだよ」
僕は微かな苛立ちを感じた。
「いらないんだ。彼女に僕は必要ない」
ネピルの声が震えていて、反論できなくなってしまった。
洞窟の中は急激に静かになった。
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