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森が予想よりはるかに深く、長かった。 時々虫が地面を這っていたり、小鳥が木の窪みの中で眠っている。

こんなことなら、もっとちゃんと計画を練るんだった。痛む足を摩り、歩き続けて、もうどのぐらいの時間がたったのだろう。

 そう思った時だった。ちらりと光が見えた。 木々の隙間からビームのような、煌めく照明が差し込んできたのだ。 僕は、まさかと思って駆け寄った。それは姿を現した。巨大な街だった。禍々しいほどの多種多様な色合いの建物が、見るものの気持ちを圧迫するような、そんな場所に見えた。

 道の左右に屋台やビルがずらりと並び、ローブを被った客が中に吸い込まれていく。 しかし、その数は少なかった。 きっとこんな真夜中だからだろう。

 「どうしたんだい、こんなところに立ちどまっていては・・・」

 突然後ろから腕が二本伸びてきた。 ひょっとして振り返ろうとしたが、振り返れない。

「うわ!誰? 離して!」

 体が腕にがっしり捕まえられていて、身動きも出来ない。

男の声が耳元に迫ってきた。

「危ないよ」

 背筋が逆立ち、無理やり足に力を入れ、じたばたすると、男が後ろで笑った。その声はもごもごとしばらくの間独り言を言っていた。

「ふふ、面白いじゃないか。 最近の人型ってのは、人間に似せてよくできている。こりゃあ、どこからどう見ても人間だな。まあ、俺もそうだけど・・・しかし、子供型とはなぁ」

 僕はやっと開放された。それで、後ろの人物を殴るべく立ち向かったが、あっけなく鎮圧された。

「誰だよ、おじさん!」

「おやおや、俺はおじさんか。坊やからしたら確かにおじさんだ」

 男は笑い続ける。黄色い短髪の男だった。その顔は軽薄そうとも、クールともとれた。僕では太刀打ちできないほど大人だ、と思った。男は僕よりもずっと背が高い。僕が手を伸ばしても、肩に届くかわからないくらいだ。

「さて、坊や?こんなところにいたら危ないって知ってるだろ?人型でデルタ隊の服を着てないのに、フードも被らないで、何をしている?」

 坊やと呼ばれたことに腹が立ち、おじさんに舌を突き出した。おじさんは笑みのままだ。

「元気のいい子供だな。まあいい。おいで、俺は優しいからお前の行きたい所に連れて行ってやろう」

「え、本当?」

「本当だ」

 おじさんは僕の手を引いて歩き出した。

なぜすれ違う人がみんなフードを被っているかは、わからなかった。僕たちはいろんな店を回った。 何もかもが初めてで新鮮だった。 おじさんは僕にぴったりくっついて、後ろを歩いた。 何かを警戒している様にも見えた。それに、少しフラフラしている。

 からくりのおもちゃの店も、小さなパーツを売り買いしている店も、宝石やレアメタルを売っている店も通り過ぎた時、僕の足は止まった。果物を売っている店に目を奪われた。 紫、黄色といった鮮やかな果実。それも姿形の異なったさまざまな種類のものが並べられている。

 おじさんは立ち止まった僕に気づいた。

「なんだ、果物食べたことないのか?」

 冗談のつもりで言ったのだろう。しかし、僕は本当に食べたことがなかった。果物という名前こそ本で知っていたものの、きっと高価で希少なものだと思っていた。 こんなにたくさん並んでいるなんて。それらを見つめ続ける僕に呆れてか、おじさんは言う。

「仕方ねーな1つ買ってやるよ」

「いいの!?やった!」

 胸を弾ませながら果物たちを見比べ始めた。 ふと、小さくて赤い果実に目がいった。先端に向かって搾り取られたような形をしていて、指先でつまめるような、小ささだ。

「おじさん、これがいい!」

「はいはい」

 おじさんがポケットの中をいじっていたら、果物屋の主人が驚いて、近づいてきた。この人もフードを被っている。

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