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4年後、ステラ
「明日、久しぶりにシチューにしようか」
父さんは笑顔で言った。僕たちは仕事を終え眠りにつこうとしていた。
「やった、プナキア!明日シチューだって!」
プナキアは僕の方に顔を向けた。 目がにっこりと半月のようになった。
「明日の仕事は更に捗りますね」
僕とプナキアはシチューが大好きだ。 父さんはなぜかシチューの日は百合の花を摘んで生ける。さらさらと指の滑りそうな百合の花弁は、見ているだけで心地いい。
父さんの作るシチューは、まろやかで口の中でとろけていくのに、後味はすっきりしていて、しつこさがない。
話題は尽きることがない。いつも誰かが話題を前に引っ張り出してきて、それについて議論したり、一緒に笑ったり怒ったりする。
同じような日など1日もないけれどシチュー・デーはいつも楽しい。次の日、僕らはいつものようにテーブルを囲んでシチュー・デーを楽しんでいた。ガラクタの中で、昔のおもちゃを見つけたというプナキアの話が終わり、僕が口を開いた。
「父さん、あの時の約束覚えてる?」
場の空気が凍りついたような気がした。父さんは作り笑いを浮かべている。
「あの時っていつ?」
僕はむっとしてスプーンを置いた。
「四年前、約束したじゃないか」
プナキアは僕を諌める。
「ステラ様、その話はまた後日」
僕は思わずカッとなってテーブルを殴った。 プナキアの体がビクッとした。
「後日っていつだよ、僕をごまかそうたってそうはいかないぞ!」
辺りはしんとしずまりかえった。
またやってしまった。
「ごめん。 頭冷やしてくる」
僕は立ち上がり、逃げた。 背中に刺さる視線が痛かった。 しばらくとぼとぼと歩いていると、天井の大穴の場所にたどり着いていた。崖の上に腰を下ろした。水色の空が見えた。
「なんで?」
最近、急に頭に血が上って、怒鳴ってしまう時がある。 空気を悪くしたくない、二人を困らせたくはないのに、気づいたら怒りを撒き散らしている。ため息をついた。きっと父さんに呆れられた。プナキアにも嫌われたんじゃないか。自分が情けなくなってきて、顔を覆った。
しばらくそうしていた。当然、問題は解決しなかった。
「やっぱりちゃんと謝らないと」
ずっとこうしているわけにもいかない。僕が悪いんだから、素直に謝らないと。立ち上がり、崖から降りて駆けだした。みんながまだ席を立っていないことを願った。流れ落ちる汗をぬぐって、すぎていく景色に目を向けていた。どこもかしこもガラクタのゴミだらけだ。こんなに高くなるまで誰が積んだのだろう?一人ぼっちで積んだのだろうか。
やっと白髪のシルエットと、プナキアの体が見えた。
足を止める。深呼吸をしてもう一度歩きだした。二人はまだ椅子に座っていて、少し安心した。 ガラクタの一群を通り越してすぐテーブルというところで、僕の足は再び止まった。 二人が厳しい顔で何か話し込んでいる。僕の事だと思った。影に隠れ、そっと聞き耳を立ててしまった。嫌な汗が頬を滑り落ちる。
「このままではステラは・・・あの女が言うような人間になってしまう」
「ステラ様は優しい方です。ロボットを殺したりなどしません」
プナキアの声は少し怒っている。僕が ロボットを 殺す?何を言ってるんだろう、意味がわからない。
それに、父さんが言った、あの女というのは誰だろう? もう少しだけ、黙って話を聞くことにした。
「策は考えてある。あの薬を利用してもう一度・・・操作するんだ」
父さんの声はなんだか怖かった。目がギラギラしていて、異様だった。 隙間から覗いていたけれど、怖くなってきたので目を背けた。 ガラクタを背に膝を抱える。 耳だけは注意を張り詰めて働かせる。
「ステラ様を、本当に外にお出しになるのですか?」
お腹の辺りからぐっと衝動が湧き上がってきた。それを耐えて父さんの答えを待つ。その時間は永遠にも感じられた。
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