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『お父さんは時々ぼくをしかります。でもプナキアが慰めてくれるから、僕は泣きません。 こういう時のお父さんは怖いから嫌いです。 だけどプナキアはいつも大好き』
つい、嫉妬の視線を送ると、気づいたプナキアは焦ったようにして、ステラの頭を撫でて褒め称えた。
「素晴らしい作文です」
ステラはプナキアに褒められてはにかんだ。
「ねえ、作文終わったから遊んできていい?」
「いいですよ」
ステラはガラクタのテレビの上に置かれてあったミニカーで遊び始めた。嫉妬はさておき、僕はプナキアに小さな声で話しかけた。
「覚えが速すぎる。それに」
プナキアは不安げな目をしている。僕も同じだろう。不安と憂鬱が胸の中を支配していた。
僕らはステラの作文用紙をまじまじと見る。
「ここにある単語の半分は、まだ教えてない」
ステラの身長がまた伸びた。極めてまん丸だった顔も、少しすらりと細くなったような気がする。それを再認識するごとに、またあの呪いが目の前に迫ってきて、僕らは息ができなくなる。
ある日のことだった。仕事始めにグローブをはめていると、ステラが駆け寄ってきて尋ねた。
「お父さん、ぼく、外に行ってみたい」
思わずギョッとして、ワクワクした顔を見返した。まずい。呪いのこともあるし、人の子を今、外に出すのは危険すぎる。ボリジンに遭遇したら大変な目にあうかもしれない。
「外なんて・・・誰から聞いたんだ?」
まさかプナキアが?いや、彼がそんな唆すようなことを言うはずはない。
ステラは表面の埃を払ってから、分厚い本を渡してきた。
「この本にね、世界は広いって、海とか山とか美しいモノにあふれてるって書いてあったんだ。 絵もついてるんだよ」
と言ってページをめくってくれる。 そこには豊かな高地やエメラルドのように光る海の絵があった。確かに、この洞窟よりは楽しそうだ。
「ステラ、それは物語だよ。創作だ。ここの外には何もないんだよ」
しかし、ステラは納得しない。
「じゃあ、お父さんはどこからシチューの具材を買ってくるの?」
「それは・・・」
「どうして外に出ちゃいけないの?僕もう子供じゃないんだ。もう六歳なんだよ?」
「六歳はまだ子供だよ。いくら作文が上手く書けても、計算が速くても子供なの。だから駄目」
僕はつい声を荒げてしまい、さらにステラの反感を買った。ステラは膨れっ面をし、こぼれ落ちそうな涙をぬぐった。胸が痛むが仕方がないんだ。ステラを守るためだ。
「そんな顔したって駄目なものは駄目なの」
ステラは唇を噛みながら睨んできた。
「じゃあ僕が大人になったらいいってことだね!」
「・・・ステラ、僕を困らせないでくれ」
ステラは口喧嘩も強い。
「けど、お父さんの話だと、僕が子供だからダメなんでしょ。なら、大人になったら、いいじゃないか」
ステラがあまりに必死な顔をするもので、僕の心は一瞬揺らぐ。しかし、どうしてもステラを外に出すわけにはいかない。そこで、閃いた。それは我ながら意地悪な、しかし最高の返事だった。
「わかった、大人になったら外に出てもいい。でも、僕とプナキアが君を大人と認めない限り、君は大人じゃないからね」
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