17
17
僕とプナキアは、仕事が終わって話しこんでいた。文明についての議論も終盤に差し掛かったかという時、出口の方向から物音がしたような気がした。
プナキアが、目を擦った。
「・・・すみません、何だか力が抜けて。 これが人間でいう、眠いという感覚なのでしょうか? だんだん、本当の人間のようになってきましたね」
そして笑いつつ、自身が電源を切る前に本体の方がシャットダウンを起こしてしまった。 辺りが急に静かになる。驚くべきことに、僕も体のだるさを感じていた。 目を閉じれば倒れてしまいそうだ。 しかし僕たちが人間に近づいたって、体まで人間になることはない。ロボットが眠気を感じるなんてありえない。
休憩所の反対側で布を被せておいた車の機内に、ステラを寝かせた。そしてプナキアを動かし、背中にある換気扇に布を被せておいた。 そうしたのは、この状況に覚えがあったからだ。この手法は過去の、人間とロボットの抗争で時々使われていたと書物で読んだ覚えがある。確か、眠気に似た作用の、ウイルスだ。
僕は立ち上がった。そして、先ほど物音を聞いた出口の方向へと駆けた。
たどり着くと、人影があった。キューブを手に浮かせた若い女が立っていた。 そのキューブから赤い粒子が、空気に触れる瞬間に無色透明になって、こちらに流れ込んでいるのだ。 近づくほど体が重くなり、首がこくりと落ちかける。 油断すると電源が切れてしまいそうだ。ウイルスの元はこのキューブだとすぐにわかった。
「あら、旧式のくせに賢いのね」
女は面白そうに笑っている。 彼女が人間で良かった。 彼女が使用しても作用がないということは、ステラには無害だ。 僕は目を思いきり見開いて彼女に近づく。 彼女は一歩も動かない。妙な違和感がした。
「要求を呑まないのならば、力づくで呑ませる。大気汚染を除去し、中に居るロボットを解毒しろ」
まだ幼さの残る彼女に凄んだ。彼女は不快感をあらわにキューブをもう片方の手に持ちかえた。ふと疑問に思った。
人間型の僕は、遠目から見るだけではロボットだと分からないはず。 なのに、どうして彼女は僕を旧式と知っている?
「なぜ君は、この場所を知っているんだ?それに、僕が旧式のロボットだとも」
「あんたに答える義理はないよ。さあ、眠ってしまえ」
彼女は言う。
「いい気分だよ。ロボットを出し抜いているのはね。 あんた達みたいな宇宙のゴミは、ゴミにまみれて、誰にも気づかれないまま錆びていけばいいんだ」
彼女の言葉は、僕を貫き、傷つけた。 この先ずっと心に残ってしまうような気がした。
「あんた達が死んでも、誰も悲しまないんだから 」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます